scene:27 新たな武装
ソウヤたちが初めての依頼を完了させた後。
ナゼル星系に戻ったユピテル号は、満身創痍という状態になっていた。特に主砲とグラトニー加速投射砲は修復不可能なほど破壊されており、ユピテル号の戦力は大幅にダウンしていた。
ソウヤはブリッジでモニターに映し出された船の破損箇所をチェックする。
「はあぁ、あかん。修理が大変や」
ソウヤばかりではなく、教授も浮かない顔でモニターを眺めている。修理に必要な部品や素材の購入費を見積もっていたのだが、結果はよろしくなかったようだ。
ナゼル星系軍から修理代として二億クレビット、報酬として危険手当と星害龍の討伐報酬を大幅に上乗せさられた三億クレビットが星間金融口座に振り込まれていた。だが、修理に必要な費用は二億クレビットを少し越えるだろう。
それに五六口径荷電粒子砲とグラトニー加速投射砲は、代わりを用意しなければならない。
イチがソウヤに視線を向ける。
「なあ、トートは武器の設計はできないのか?」
どこの星系政府でもそうなのだが、武器や兵器に高い税金を課している。その税収で独自の兵器開発を行っているのが普通らしい。
おかげで武器や兵器は高い。イチは武器の購入費を節約するために、自分たちで作れないかと思ったらしい。
「どうや、トート。設計できるんか?」
トートがブルーアイの一体を呼んだ。製作した五〇体のブルーアイは、クラーケンの巣での探索が終わると、トートにより改造が行われ、ユピテル号の点検ロボットとして活動していた。
そのブルーアイが、突然喋り始めた。
「コレマデニ、知識データベース化ガ完了シテイルノハ、『航宙船工学』『材料工学』『兵器・軍事工学』ノ三ツデス。兵器ノ設計モ可能デス」
急にブルーアイが喋り始めたので、ソウヤたちは驚いた。
「ブルーアイに、こんな改造もしていたんだ」
教授が呟いた。トートとしては、教授たちの送受信ピアスと通信回線を繋いで直接的に話しかけても良かったのだが、そうするとソウヤたちが脳に直接響く声に驚くので、ブルーアイにスピーカーとマイクを組み込み、会話が可能にしたようだ。
モウやんが目をキラキラさせ、トートに質問する。
「ねえねえ、どんな武器が作れるの?」
「破壊サレタ五六口径荷電粒子砲ノ残骸ヲ調査シマシタノデ、同ジモノヲ作レマス。デスガ、オ勧メシマセン」
ソウヤは首を傾げる。五六口径荷電粒子砲には絶大な威力があり、凄い武器だと思っていたから、意外だった。
「何でや?」
「コノ船ノ船体ニ、五六口径ハ無理ガアリマス」
イチが「うんうん」と頷く。五六口径荷電粒子砲が発射される度に一番苦労しているのは、操縦士のイチだからだろう。
「そやったら、何がお勧めなんや?」
「三六口径荷電粒子砲ハ、ドウデショウ」
ナゼル星系軍の巡洋艦が装備していた主砲だ。モウやんが不満そうな声を上げる。
「それでクラーケンが倒せるの?」
何故だか、モウやんの基準はクラーケンらしい。
アリアーヌが首を振る。
「分かってないわね。クラーケンは五六口径荷電粒子砲があっても、倒せるかどうかという化け物よ。三六口径で倒せるわけがないでしょ」
ソウヤがブルーアイに向かって尋ねた。
「設計できるんは、荷電粒子砲だけ?」
「加速力場砲トれーざーきゃのんノ設計モ、可能デス」
加速力場砲はレールガンと同様な武器だ。レールガンは電磁誘導により物体を加速させ目標を破壊する兵器である。一方、加速力場砲は加速力場ジェネレーターと同じで、天震力を使い物体を加速させる。トートはグラトニー加速投射砲を参考にして設計すると言っている。
「加速力場砲の投射速度は?」
教授は加速力場砲の性能が気になったようだ。
「メイン動力炉ノ出力ヲ基ニ計算、音速ノ七二倍トナリマス」
光学兵器に比べれば一万分の一にも満たない速度だ。しかし、その破壊力は凄まじいものとなる。問題は広大な宇宙空間での戦闘を考えると、敵の動きを予測し未来位置に向かって発射しなければならない点である。
そのおかげで、命中率が低い。
「ミサイルみたいに追尾できればいいのに」
モウやんの一言に、教授の目を大きく見開く。
「面白いじゃない。投射弾に追尾機能を持たせるというアイデアね」
トートに可能かどうか確認する。完全な追尾機能は無理で、敵の動きに合わせて軌道を変えるくらいの機能を付けることは可能だという返事だった。
その時、ブリッジのドアが開きファレル星人のチェルバとミョルが入ってきた。
「こんなところに、いたずらか」
外見は服を着たフェレットというミョルが声を上げ、それを追いかけるようにチェルバが尋ねた。
「何の話をしているんずら?」
ソウヤは厄介な奴らが来てしまったと、顔をしかめる。この二人はソウヤたちにとって恩人である。星害龍光撃ムカデに襲われ、危機一髪のところをチェルバの屠龍機動アーマーの知識で救われた。
それ以来、チェルバたちはユピテル号に居候している。ソウヤたちはナゼル星系軍からもらった報酬を礼金として分け与え、ファレル星へ送って行くと申し出たのだが、チェルバは断った。
何か理由があり、ファレル星へは帰りたくないらしい。チェルバは新しい屠龍戦闘艦を手に入れるまで、ユピテル号に留まりたいと言い出した。ナゼル星系軍からの報酬とソウヤたちからの礼金を合わせても屠龍戦闘艦は購入できないようだ。
ソウヤたちは相談し、チェルバの申し出を了承した。その代わり、ユピテル号の内情は絶対に外へは漏らさないように約束させた。第二階梯種族の技術情報ブロックや異層ストレージの存在が外に漏れると、狙われる危険があったからだ。
居候する代りに、チェルバは屠龍機動アーマーの使い方について教えると提案した。その魅力的な提案を、ソウヤは喜んだ。
「ユピテル号に搭載する新しい武器をどうするか、話し合っていたのよ」
教授がトートの提案も含め説明した。
「そりゃあ、両方を搭載するずら。遠距離攻撃用に三六口径荷電粒子砲、防御力の高い敵には加速力場砲を使うずら」
チェルバの意見を取り、五六口径荷電粒子砲があった箇所に加速力場砲、船首上部に連装三六口径荷電粒子砲、船尾上部に単装三六口径荷電粒子砲を搭載することになった。
教授がカワズロボ二〇体の命令権を預かり、仕事の割り振りを行った。まずは船体の修理。それに必要な日数は、一四日と見積もりが出ている。
スペースコロニーの係留ポートに停泊したユピテル号の周りで、工具を持ったカワズロボが飛び回る光景を見るようになった。
トートはモウやんがクラーケンを仕留められる武器に固執したのを聞いて、三六口径荷電粒子砲と加速力場砲の設計と同時に、新しい武器の構想を練り始めた。
但し、そういう仕事には新しい発想が必要である。トートが新武器の開発に使用したのは、ソウヤの脳の一部を改造したジーニアスシステムである。これは天才的な発想を行う脳を人工的に作りあげようとしたもので、本物の天才には少し劣るが、最上級の技術者が持つ発想能力と同程度の能力を持っていた。
そのジーニアスシステムは、ソウヤ本人にも影響を与えていた。空いた時間に大学生程度の数学・科学の勉強をしているのだが、恐ろしいほど理解力が増しているのだ。
先生役は、教授とアリアーヌ、トートが交代で務めている。今日はアリアーヌが先生だ。アリアーヌがホログラフィで空中に計算式を描き、説明した。
「この運動方程式は、理解できた?」
ソウヤとイチが頷いた。だが、モウやんは唸り声を発しソウヤの方に顔を向ける。
「ちょっと、何でソウヤの頭が良くなったんだ。前までは僕と一緒くらいだったのに」
モウやんが文句を言う。ソウヤにしてみれば、モウやんよりはマシだったと思うのだが、急に頭が良くなったように思えるソウヤに、疑問を持ったらしい。
「そうね。不思議よね」
アリアーヌも可愛い顔を傾げて言う。
「な、何を言うんや。俺は元から頭良かったでぇ」
慌てたように何もないと言うソウヤを見て、イチが鋭い視線を向けた。
「怪しい。何かあるんだろう?」
皆に問い詰められたソウヤは、ジーニアスシステムのことを白状した。
「そんなの反則だ」
モウやんが真っ先に声を上げた。
「待って、ジーニアスシステムは、トートの知識データベース化作業に必要やから、教授と相談して許可したんや。自分のために作ったんやないぞ」
「でも、ずるいよ。僕も欲しい」
モウやんが駄々をこねる。ソウヤは仕方なくトートに相談した。近くにブルーアイが居なかったので、ソウヤがトートの代弁をする。
ソウヤのジーニアスシステムは、記憶領域追加処置に使われたナノマシンをトートが改造し利用することで作り上げたらしい。これは脳内部にトートが存在することで可能になるようだ。もちろん、構築するための素材として、希少金属と栄養源は必須だった。
「ええーっ、だったら、僕たちはダメなの?」
「いや、脳内改造用ナノマシンをトートがアップデートすれば、可能だそうや」
アリアーヌが腕を組んで考えている。脳内改造用ナノマシンを使用することのリスクを計算しているのだ。
成長過程にあるモウやんたちやアリアーヌなら、未発達の脳部分を改造することにより低リスクでジーニアスシステムを構築可能だとトートが伝えた。
イチがリスクの内容を尋ねた。
「改造しようとした脳の一部が使えなくなる可能性があるそうや。ただ他の部分には影響がないらしいでぇ」
ソウヤがトートから聞いたリスクを伝えた。
「分かった。僕にもジーニアスシステムを作って」
モウやんが頼んだ。イチも追随する。そればかりか、アリアーヌも欲しいと言い出した。
「言っておくけど、このジーニアスシステムは、数学や科学・技術工学に関する物事に特化したシステムや。他のことには使えないんやで」
「じゃあ、学校のテストで全科目百点満点とかダメなの」
イチが冷たい目でモウやんを見据える。
「そんなに一〇〇点を取りたいんですか?」
モウやんがすねたようにそっぽを向く。
「だって、一度くらい全科目一〇〇点を取って、女の子にモテたいじゃん」
それを聞いて、イチとソウヤの顔が曇った。地球に帰れるのがいつになるのか、目処さえ立たない状態だと分かっていたからだ。
帰れたとしても、学校に通えるような年齢ではなくなっているかもしれない。
教授とも相談したモウやんたちは、スペースコロニーの専門ショップで、脳内改造用ナノマシンを購入した。購入したのは五人分である。ソウヤと教授の分は必要なかったのだが、使う時があるかもしれないと思ったのだ。
購入した脳内改造用ナノマシンは、トートによりアップデートされ、モウやんたちの体内に注入された。ジーニアスシステムを構築するのに必要な時間は一ヶ月。その間に船の修理は終わり、トートは三六口径荷電粒子砲と加速力場砲の設計を進めていた。
ブルーアイがソウヤの傍に飛んできた。トートが呼んだらしい。
「マスター、三六口径荷電粒子砲デスガ、新基軸の構造ガ閃キマシタ」
トートに独自の発想機能はないので、実際にはソウヤのジーニアスシステムが閃いたのだろう。そのアイデアは、荷電粒子にボソル粒子を加えたものを三六口径荷電粒子砲で発射するというものだった。
「ボソル粒子を加えると、威力が増すと考えとるんやな?」
「計算上ハ、四五口径ト同等ノ威力トナルハズデス」
「そりゃあ、凄いな。けど、反動はどうなんや?」
「ボソル粒子ヲ加エタ分、荷電粒子ヲ減ラシマスノデ、反動ハ変ワリマセン」
原理的には、荷電粒子とボソル粒子を天震力を使って結び付け、その状態で加速させ発射するというものだそうだ。教授に報告すると、成功したら今までになかった武器が誕生するらしい。
「あたしが知らないということは、この近辺の文明社会には存在しない武器だと思うわ」
ソウヤたちが乗っていたサリュビス号は、直径三〇〇〇光年の宙域で活動していた。そこで遭難した軍船を、教授は数多く見ている。それらの軍船には搭載されていなかった武器らしい。
トートは荷電粒子砲に改良を加え、通常の荷電粒子だけを発射するモードとボソル粒子を添加したモードを切り替える仕組みを設計に盛り込んだ。
大半の部品はスペースコロニーで購入。販売されていない部品はカワズロボを使って作り上げ、最初のボソル荷電粒子砲の試作品を組み上げた。
カワズロボが様々なテストを行い、試し撃ちが可能な段階まで辿り着いた。
トートはボソル荷電粒子砲だけではなく、加速力場砲も設計を終わらせ試作を進めていた。加速力場砲はレールガンに似ているが、使っているのが天震力なので金属でない投射弾も飛ばせる。
「教授、加速力場砲の試射はしないんですか?」
アリアーヌはボソル荷電粒子砲より、加速力場砲を評価している。近距離なら戦艦の装甲さえ撃ち抜く威力が理由である。
「ボソル荷電粒子砲の試射の前に、行う予定よ」
「追尾投射弾はどうなりました?」
「それが……苦戦しているわ。加速力場砲の加速に耐えられる電子回路の開発が難しいの」
通常の電子回路では、強烈な加速で潰れてしまうのだ。
修理を終えているユピテル号は、スペースコロニーを離れ第四惑星に向かった。第四惑星には大気がなく、試射には最適な目標なのだ。もちろん、全域が許可されているわけではない。ある一定の区画を試射の標的にすることを、ナゼル星系政府は許可していた。
軍の要請により許可され、それが民間にも広まったようだ。
「あれやな」
ソウヤは第四惑星の一画がクレーターだらけになっているのを発見した。
まずは、加速力場砲の試射である。イチは加速力場砲が設置してある船の上部甲板が惑星に向くように、姿勢制御する。宇宙空間でユピテル号がクルッと回転した。
「一二七区画を狙って」
教授がアリアーヌに指示を出した。アリアーヌは照準装置の狙いを一二七区画の中心にある岩山に合わせる。
「照準完了」
「発射!」
教授の号令で、アリアーヌは発射ボタンを押す。その瞬間、アルミを加工した投射弾が音速の七二倍で発射された。投射弾はアッという間に地表に到達し、膨大な運動エネルギーを岩山で開放。
その凄まじい力は、岩山を穿ちながら、エネルギーの一部を熱へと変換する。その中心で爆発が起きたかのように岩山が弾け飛んだ。
「す、凄い」
モウやんが目を丸くして驚く。それは他のメンバーも同じだった。




