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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
26/55

scene:26 遙かなる地球

感想・ブクマ・評価を頂きました。

ありがとうございます。

時間の関係で一つ一つの感想には返信できませんが、楽しく読ませて貰っています。

 ソウヤ、イチ、モウやんの三人が乗ったボリュズ型小型脱出艇が地球から飛び去った直後、三人の少年が行方不明となった山海町では大騒ぎとなった。

 警察と消防団が協力して周辺を捜索し、放置されていた自転車を発見。警察犬も出動し、少年たちがイロメ湖へ向かったのだと判明した。


 警察はイロメ湖周辺を探し、奇妙な傷跡が残された地形を発見した。巨大な何かで掘り返された丘と何かに押し倒されたような木々。

 その場所で何かが起きたのは、警察にも分かった。だが、何が起きたかはさっぱりである。

五十嵐いがらし警部補、これは何なんです。息子はどこに?」

 警察に案内された少年たちの父親、等々力学(とどろきまなぶ)水上四郎みなかみしろう草加健一くさかけんいちは、倒れた木と巨大な何かによって突き崩された丘が、何を意味しているのか分からなかった。


 若い五十嵐は困ったという顔をする。

「すみません。我々も状況が分からんのです」

 警察犬の反応で、この場所に少年たちがいたらしいと判明している。だが、少年たちがここからどこへ行ったのかは分からない。

 そう五十嵐が説明すると、父親たちが不安と焦燥の入り混じった感情を顔に浮かべた。

 この事件を聞きつけたマスコミが騒ぎ始めたのは、この少し後になる。


 マスコミに騒がれたことが原因で、静かな湖だったイロメ湖に人が集まるようになった。その中には、これが宇宙人の痕跡だと正解を言い当てる人物も。

 初め、宇宙人などという話は笑い話として片付けられた。だが、放射線測定器ガイガーカウンターを使って調べた結果、無視できない量の放射線が検出されたのを切っ掛けに、騒ぎが大きくなる。


 警察は現場を封鎖し、一般人を締め出した。放射線自体は大した量ではなく、人体に悪影響を及ぼすほどではなかった。だが、後になって問題視されないかを懸念した警察上層部が、立入禁止を決定したらしい。

 少年たちの行方を、警察は全力で探した。マスコミも協力したのだが、手掛かりさえ見付けられない日が三ヶ月も経過すると、ニュースに流れなくなる。

 そして、警察の捜査員も縮小され、世間から少年たちのことは忘れられた。但し、家族は別である。必死で探した。

 家族が思い付く場所は探し尽くし一年が経過。家族の心に絶望が浮かび上がった。


 ソウヤの長姉である芹那せりなは、優秀な頭脳を持つ美人である。

 彼女は大学院を卒業すると、大学に助手として残り画像処理技術を研究する植村教授の下で研究を始めた。植村教授は新しいアルゴリズムで画像データからノイズ除去を行い、より鮮明な画像を得るという技術を開発していた。

 その技術は偶然にも宇宙航空研究開発機構に採用され、火星に向かった惑星探査機『ナツヒ』から送られてくる画像データを解析するのに使われ始めた。


「教授、新しい画像データが届きました」

 芹那が植村教授に報告する。ソウヤとは違い、言葉には訛りがない。母方の親族から影響を受けたのは、末弟であるソウヤだけのようだ。

「ああ、そうか……すまんが、解析処理をやっといてくれんか。私は教授会に出なくてはならんのだ」

「分かりました」


 芹那は手慣れた様子で、宇宙航空研究開発機構から送られた画像データの解析を始めた。処理している間、元の画像データをチェックする。

 画像には火星の衛星であるフォボスが映っていた。画像はところどころぼやけている。

「これは何かしら?」

 フォボスの前方にぼやけた何かがある。


 先輩助手である内藤が、芹那の顔を見て声をかけた。

「どうした。何か問題か?」

 芹那は首を傾げながら、パソコン画面に映るフォボスの画像を見せた。

「これなんですが、何でしょう?」

 その画像を見た内藤は、眉間にシワを寄せ「分からない」と答える。


「解析した画像を見れば、分かるんじゃないか」

「そうですね。解析が終わるのを待ちます」

 芹那は解析が終わるのを待ち、先程の画像を鮮明化したものを表示した。

「えっ!」

 画像を見た芹那は、思わず声を上げた。


 芹那は目を擦り、もう一度確認する。

「なんでよぉ~!」

 甲高い叫び声が響いた。その声に驚いた内藤が、ガタッと立ち上がる。

「おいおい、驚かすなよ」

「こ、これを見てください」

 内藤は画像をひと目見て、顔を曇らせる。フォボスを背景にして、宇宙空間を漂っているのはクラゲだった。


「誰だ。こんなイタズラをしたのは」

 芹那がハッとした表情を浮かべる。

「これって、イタズラですか?」

「それしか考えられないだろう。僕が抗議してやる」

 内藤は電話の受話器を取って、画像データを送ってきた担当者を呼び出す。


 電話でのやり取りがあった後、内藤は鮮明化した画像を担当者に送るように指示した。

 その後、事態は芹那の想像を超えた方向へと進んだ。

 宇宙航空研究開発機構から、植村教授へ直接連絡があったらしい。会議を途中で抜けた教授は、鮮明化が済んだデータを全て持って一緒に来るように芹那に言う。

 航空宇宙センターに到着した芹那たちは、会議室に案内された。そこには知的で鋭い目をした男たちが待ち構えていた。


「早速だが、画像データを見せてくれ」

 惑星観測プロジェクトの責任者である袴田はかまだ理事が促した。芹那は鮮明化した画像データが入っているUSBメモリーを渡す。

 会議室の壁に設置されているモニターに、問題となった画像が映し出される。

 どよめきが会議室に湧き起こった。


「ちょっと、どうなってるの。ドッキリじゃないよね」

 袴田理事が声を上げた。

「正真正銘、惑星探査機から送信された画像です」

 技術者の一人が口を開く。

「このクラゲとしか見えないものの大きさは、どれくらいだ?」

 芹那は背後のフォボスの大きさから、大きさを計算していた。

「推測ですが、幅が一〇メートルくらいだと」

「思ったよりデカイな」


 この会議には宇宙生物学の研究者、米沢光晴よねざわみつはるが呼ばれていた。報告を聞いた袴田理事が、優秀な宇宙生物学の権威を部下に命じて呼び出したのだ。

 米沢が命名しようと言い出し、クラゲのような生物を『宇宙クラゲ』と呼ぶことに決まった。

 興奮した様子の米沢は、精力的に意見を述べ始める。

「大発見じゃないですか。すぐにでも発表しましょう」

 慌てた様子でマスコミに連絡しようとする米沢を、袴田理事が止めた。

「この生物の正体を調べてからの方が良いでしょう」

「馬鹿な。人類にとって記念すべき大発見なんですぞ」

「この画像だけで、世間は信じてくれるだろうか。発表する前に、徹底的に調査すべきだと思う」

 米沢は不満そうな顔をしたが、反論しなかった。


 袴田理事たちは惑星探査機を使って、謎の宇宙生物を再度撮影することに成功した。その結果、その生物が一匹だけではなく、複数生息すると確認。

 しかも、二群に分かれ行動していた。一群は火星の衛星軌道上を漂い何かを探している。もう一群は、ゆっくりした速度で太陽の方向へ。

 太陽の方向ということは、地球の公転軌道に近付くということである。


 宇宙クラゲが地球に到達するかもしれないと分かった時、日本政府は宇宙生物調査プロジェクトを立ち上げた。宇宙航空研究開発機構の職員と何人かの研究者がメンバーとなった。その中には芹那も参加していた。

 惑星探査機から送られてくる画像データを一刻でも早く確認したい袴田理事が参加させたのだ。

 芹那は宇宙関係のプロジェクトに参加できることを喜んだ。宇宙に興味があったからである。芹那は画像データの処理だけでなく、政府に報告する書類作成などを手伝うようになった。

 政府が宇宙クラゲを公表するかどうか決めかねている間に、一〇日が経過した。


 宇宙生物調査プロジェクトが使っているフロアの一室で、芹那は画像データを処理していた。処理が終わり鮮明化した画像データは、自動的に共有フォルダに送られる。

 その画像データの一つ一つを確かめるのは、若い研究者である。その中の一人、氷室ひむろが大声を上げた。

「何だ、これ!」

 氷室に注目が集まった。芹那が思わず声をかける。

「どうしたんです?」

「ナンバー三六五八の画像を見てくれ」

 芹那は指定された画像データを見た。火星の表面が映し出されているものだ。よく見ると、惑星表面に何か煙のようなものが立ち上っている。


「火星の火山が噴火したのでしょうか?」

 芹那が何気なく言うと、氷室が強く否定した。

「火星の火山は、死火山。数百万年は噴火していないはず」

 芹那が首を傾げた。

「あれっ、以前に火星の火山の噴火だと、ニュースになりませんでしたか?」

「あれは溝が煙流のように見えただけだ」

「だったら、これは何なのです?」


「分からん。他の画像を調べろ」

 火星表面を撮影した画像が数枚見付かり、そこにも噴煙と思われるものが写っていた。

「これは間違いなく噴煙だ。段々大きくなっている……えっ……もう一つ」

 次に調べた画像には、別の噴煙が立ち上っているのを確認した氷室は混乱した。

「これは火山じゃない。隕石が落ちたんだ」


 芹那は興味深そうに画像を確認し、隕石の落下地点の上空に宇宙クラゲが浮いているのを発見した。

「落下地点の上空に宇宙クラゲがいますね」

「偶然だ……いや、こっちの噴煙の上空にも宇宙クラゲがいる」

 芹那の脳裏に嫌な想像が浮かんだ。

「まさか、宇宙クラゲが隕石を落としているなんてことは……」

「それこそ、まさかだろ」

 氷室は否定したが、慌てた様子で他の画像を調べ始めた。結果、宇宙クラゲが上空にいる場所で、別の隕石が落下した形跡が。


「大変だ。理事に知らせなきゃ」

 氷室が慌てた様子で部屋を出て行く。しばらくすると、大勢のメンバーが部屋に雪崩込んできた。興奮した様子で、隕石の落下地点と宇宙クラゲの関係を激論する。その中身は火星における状況に限定されていた。

 芹那は地球に向かっている宇宙クラゲの群れを思い出し不安になった。

「あのぉー、宇宙クラゲは地球に向かっているのですよね。大丈夫なんでしょうか?」

 袴田理事の顔から血の気が引いた。


「し、心配はいらんよ。この宇宙クラゲが地球に来るとは限らんしな」

 別のメンバーが最新情報を基に地球の公転軌道に近付く宇宙クラゲの群れの進路計算を始めた。その結果しだいだと思うが、あれは小惑星ではなく自分の意志を持つ生物だ。軌道修正手段を持つのなら、地球に来る可能性が高い。

 進路計算を終えたメンバーが、結果を告げる。

「地球に到達する可能性は、八七.五パーセントです」

 室内にいる全員が、押し黙り厳しい顔となる。


 袴田理事がデータを纏めるように指示した。文部科学大臣に報告するようだ。

 文部科学大臣の崎坂さきざかは総理官邸にいた。秘書から、袴田理事より重大事案が発生し報告したいという連絡があった、と告げられる。大臣はちょっと困ったという顔をする。

「今から、小寺こでら総理と会談の予定なのは知っとるだろ」

「ですが、安全保障に関わる重大な問題が起きたそうなのです。もの凄く慌てた様子で官邸にいらしています」

 安全保障という言葉に不吉な予感を覚えた崎坂大臣は、

「……総理を待たすわけにもいかん。総理にも一緒に聞いてもらおう。総理に確認してくれ」

 袴田理事は、総理と崎坂大臣の二人に説明することになった。


 会議室に通された袴田理事は、宇宙クラゲと火星の隕石について説明した。

「ちょっと待ってくれ。その宇宙クラゲが隕石を投下したと言うのかね?」

 崎坂大臣が信じられないという感じで疑問を投げた。

「画像を解析した結果、その確率が高いと」

 小寺総理がムスッとした顔で、崎坂大臣へ顔を向ける。

「その宇宙クラゲが地球に来た場合、撃退もしくは捕獲できるのかね」

「我が国の宇宙技術では、難しいかもしれません。先進諸国の協力が必要になると思われます」

 総理は宇宙クラゲの存在を公表し、地球規模で対策を取ることを決意した。


 日本政府から、宇宙クラゲの情報が公表された。先進諸国に協力を仰ぐ前に、宇宙クラゲの存在を認知させようと考えたらしい。

「何だって……エイプリルフールじゃないんだぞ」

「本当なら、凄い発見だ」

 世界の人々の反応は懐疑的だった。しかし、そんな人々も日本が公開した画像が検証され捏造ではないと発表されたのを切っ掛けに確信した。宇宙クラゲの存在は本物だと。


 世界は騒然となった。当然である。地球以外の場所で発見された最初の生物だ。世界中のマスコミが日本へ集まり、さらなる情報を求めた。

 各国政府もマスコミに追随し、全ての情報を公開するように迫る。そこで、日本政府はアメリカ・ロシア・欧州・中国などの宇宙技術に優れた諸国の代表を集めた。

 代表たちを通じて、隕石を落とす宇宙クラゲが地球に向かっていると知らせるためである。


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