scene:25 屠龍機動アーマーの本領
ファレル星人はフェレットのような異星人だった。二人のファレル星人がカプセルの中から出てきた。
身長が八〇センチほどで、長い胴体と短い手足、顔はイタチ顔で宇宙服を着ている姿は可愛い。前足……手には器用そうな四本の指が付いており、その手で器用にヘルメットを脱いだ。
「お前たちが、この船の屠龍猟兵か。おらたちの御蔭で、この船は助かったんずら。感謝しろずらよ」
ファレル星人が話すガパン語には、変な訛りがあるようだ。
アリアーヌの頬がヒクついた。
「助けようとしてくれたことには感謝します。けれど、無謀だったのではないですか」
「お嬢さん、ファレル星の貴族は勇敢だと言って欲しいずら」
このフェレット、ファレル星人の貴族らしい。
「そんだよ。チェルバ様は子爵様のぼんぼん。偉いんずら」
リーダーらしいファレル星人の後ろにいる仲間が、変な相槌を打つ。チェルバが相槌を打ったフェレットの頭をパシッと叩いた。
「ミョル、ぼんぼんと言うんでねえずら」
ファレル星人の二人は、チェルバ、ミョルという名前らしい。この中でチェルバがリーダーで、ファレル星系で貴族のような立場にいるようだ。
ファレル星人の二人を、教授に紹介することになった。アリアーヌが一緒にブリッジへ向かう。それを見送ったソウヤとモウやんは、ファレル星人について話し合った。
「あれって、フェレットだよね。可愛かった」
「外見はそうやけど、中身は全然可愛くなかったやんか」
「まあね。何で、ああ偉そうなんだろ?」
「本人? ……が言っていたやろ。お偉い貴族様なんや。変な訛りと貴族というのが、ミスマッチやったけど」
「外見は可愛いのに……残念」
二人もブリッジへ向かった。
教授とチェルバたちの挨拶は終わったようだ。
「旗艦ヤタラートから、新しい命令が届いたわ」
教授の声に、ソウヤは不安を覚えた。
「どんな命令なんや?」
「あたしたちに、星系軍の支援に来いと言ってきてるわ」
巡洋艦と光撃ムカデの戦いは続いているようだ。
アリアーヌが眉間にシワを寄せる。
「でも、ユピテル号は損傷しているじゃない」
「そうだよ。無理してまで命令に従う必要はないだろ」
モウやんとアリアーヌは反対のようだ。
「あたしもそうしたいんだけど、支援に行かないと星系軍が全滅しそうなのよ」
ソウヤは溜息を吐いた。
「初めての依頼が、これや。俺ら運が悪いんじゃねえ」
イチが苦笑いを浮かべ、ソウヤに言う。
「自分たちの悪運は保証付きだよ。宇宙の闇シンジケートにさらわれて、ケロール船長に売られたんだから」
「ナハハハ……それを言っちゃーおしまいだよ」
モウやんがおどけた笑いを浮かべて言った。
「ソウヤ、船首の修理状況は?」
教授の質問に、ソウヤはバウを呼び出し確かめる。バウからの報告によれば、グラトニー加速投射砲の切り離しは完了し、船体の穴が開いた部分は応急修理が完了している。
ソウヤはまとめた情報を教授に報告。そして、船首部分に組み込まれた軌道制御用スラスターが故障しているのを知らせた。
「まずいわね。それじゃあ、五六口径荷電粒子砲の使用が困難になるわ」
軌道制御用スラスターは姿勢制御にも使われており、五六口径荷電粒子砲の砲撃時にも使われている。
「仕方ない。代わりに加速力場ジェネレーターを使用するわよ。ソウヤは天震力充填装置を使って天震力の充填をお願い。アリアーヌは五六口径荷電粒子砲の準備を」
ソウヤとアリアーヌが勢いよく返事を返す。
「僕は何をしたらいいの?」
モウやんが確認した。
「ユピテル号の損傷状況を旗艦に伝えて」
「分かった」
「イチ、光撃ムカデを砲撃できる位置に移動するわよ」
「了解です」
ユピテル号は、攻撃に最適な位置を目指して移動する。
その先には、ナゼル星系軍の二隻の巡洋艦が、激しい戦いを繰り広げている姿があった。漆黒の背景の中で星が煌き、恒星の光を反射させながら戦う星害龍と巡洋艦。生き残っている光撃ムカデは二匹。
巡洋艦は光撃ムカデのレーザー攻撃を避けようと複雑な軌道を描いて飛び回る。それを攻撃ムカデが追い回し、何度もレーザーを放つ。
レーザーが何度も巡洋艦に命中する。だが、装甲に張り巡らせたバリアが吸収し火花となって散る。
「艦長、バリアがもちません」
巡洋艦のブリッジにいる軍人の一人が切迫した声を上げた。その声を聞いて、ベレガル艦長が苦り切った顔をする。
「砲撃手、あいつに当てろ!」
砲撃手は無意識に鼻の頭をペロリと舐め、ありったけの集中力を込めて照準装置を睨み付ける。そこに映る光撃ムカデの動きを読み切ろうと目を細め、発射ボタンを押した。
三六口径荷電粒子砲から、メイン動力炉のエネルギーにより加速された荷電粒子が発射された。凄まじい威力を保持したまま飛翔した荷電粒子が、光撃ムカデの背中に命中し、装甲に穴を穿ち内部の臓器や筋肉を灰にする。
ベレガル艦長を始めとするクルーが歓喜の声を上げた。
だが、光撃ムカデの息の根は止まっていなかった。のた打ち回りながらも口を開け、巡洋艦に向かってレーザーを放った。
レーザーは巡洋艦の弱点であるエンジン部分に命中。大爆発を引き起こす。その衝撃で巡洋艦の船尾が千切れ飛んだ。
巡洋艦のブリッジは、爆発の衝撃でシェイクされ半分のクルーが死亡した。
ユピテル号が戦場に到達した時、ソウヤたちは巡洋艦の一隻が爆発し船尾が千切れるのを見ることになった。
「やばい、やばいよ」
青い顔をしたモウやんが叫んだ。
「モウやん、静かに。アリアーヌは主砲の狙いを死にかけている光撃ムカデに向けて。イチは船の姿勢を固定」
教授が矢継ぎ早に命令を出す。
「任せて」「了解」
巡洋艦が動かなくなったのを確認した光撃ムカデは、獲物をユピテル号に変えたようだ。ユピテル号へ迫ってくる。ただダメージがあるようで、その動きは遅い。
「チャンスだわ。頭を狙って」
教授の命令に、アリアーヌは照準装置を見詰めたまま「了解」と声を上げた。
光撃ムカデがレーザーを放つ。その攻撃はユピテル号のバリアに当たり火花を散らす。
「手伝うずら」
チェルバが空いているソウヤの席に上り、一六口径荷電粒子砲を操作する。体格が小さいので座席に立った姿勢で、装置を操作している。一六口径荷電粒子砲の照準装置は、標準型なので手慣れているようだ。
アッという間に、一六口径荷電粒子砲の砲撃準備を終わらせ、光撃ムカデに照準を合わせる。
「ダメよ。撃つな!」
教授が叫んだ時には、チェルバが発射ボタンを押していた。
一六口径荷電粒子砲から荷電粒子が放たれ、光撃ムカデに向かう。荷電粒子が飛翔する軌道を見て、避けるということは不可能である。見えた時には荷電粒子が目前にまで到達しているからだ。
光撃ムカデも避けられず、そのまま荷電粒子が命中した。だが、一六口径荷電粒子砲では威力が足りず、光撃ムカデの装甲殻を浅く削っただけに終わる。
チェルバとミョルは命中したことに喜び声を上げる。
「やったずら」「さすがずら」
アリアーヌが照準装置から目を離し、憮然とした表情を浮かべ二人のファレル星人を睨む。
光撃ムカデの行動パターンを読み切ろうとしていたアリアーヌは、寸前のところでチェルバに邪魔されたのだ。怒りたくなるのも無理ない。
教授がアリアーヌを手で制し。
「チェルバさん、勝手な攻撃はやめてもらいたい」
「なんずら、手助けしたずらよ」
「一六口径荷電粒子砲では、大したダメージは与えられないわ。無駄な攻撃はしないで」
「無駄とは何ずら。良かれと思ってやったのに」
チェルバはプイッと顔を背けた。どうやらヘソを曲げたようだ。
アリアーヌはもう一度照準装置に手を伸ばす。今度こそは、光撃ムカデを仕留めようと集中力を高める。
ソウヤは天震力充填装置を使い、天震力タンクを満タンにした。これで加速力場ジェネレーターを作動させるのに十分な天震力が蓄えられた。天震力はグラトニー加速投射砲を使ったので、大幅に減っていたのだ。
ソウヤは天震力充填装置から離れると、チェルバが立っていた席に座る。チェルバとミョルは予備席に移った。
星系軍の最後の一隻になった旗艦ヤタラートでは、指揮官のヒマラン少将が耳をピコピコさせながら、モニターを見ていた。モニターには星害龍の姿が映っている。
「にゃんてことだ。ベレガル艦長の艦がやられてしまった。残るは巡洋艦一隻と船首が破損している屠龍戦闘艦一隻か。この艦が光撃ムカデを仕留めるまで、手負いの敵を惹き付けてくれればいいんだが……ユピテル号に伝えよ。『我々が敵を仕留めるまで、忍耐強く奮闘せよ』と」
その十数秒後、ユピテル号のブリッジでは、旗艦からの通信をモウやんが読み上げていた。
「この状況で、奮闘せよ……冗談じゃないわ。さっさと向こうの光撃ムカデを仕留めて、助けにきて欲しいわね」
教授が珍しく愚痴をこぼす。
一方、手負いの光撃ムカデは、直線的な動きを一切やめてしまった。蛇行するような軌道で飛翔し、アリアーヌが五六口径荷電粒子砲を放つチャンスを与えない。
「さっきの攻撃で、もの凄く警戒しているみたい。厄介ね」
アリアーヌが光撃ムカデの動きを読み切れないまま、時間が経過する。軌道制御用スラスターの一部が故障しているので、主砲を撃った後の反動が不安になっていた。
一撃目を外せば、光撃ムカデの反撃を受けるのは必至である。そのため、アリアーヌは慎重になっていた。
その間、イチは敵から逃げるために必死で操船していた。少しでも長く直線に動くとレーザーを放ってくるので、同じように蛇行する軌道を描く。
その頃、旗艦ヤタラートのブリッジでは、ヒマラン少将が早く星害龍を倒せと急かせていた。そのプレッシャーのせいなのか、砲撃手が連続で発射ボタンを押す。
そのほとんどは光撃ムカデに命中しなかった。
「にゃにをしている。よく狙え!」
ヒマラン少将の怒鳴り声が響いた時、船体が震えた。光撃ムカデのレーザーが命中したようだ。
四基あるエンジンの一部が破損し、旗艦ヤタラートは操船に支障をきたしてしまう。星系軍の最後の一隻も戦線から脱落した。
その事実を知った教授が、頭に血を上らせ叫ぶ。
「何が『我々が敵を仕留めるまで』よ。自分がやられてどうするの!」
イチが後方を映し出すモニターを見て焦った。
「まずい、もう一匹もこっちに向かってきます」
アリアーヌは血の気の引いた顔で、助けを求めるように教授の方を見る。
教授は硬い表情のまま、考え込んでいた。二匹の光撃ムカデが着実に距離を縮めている。
イチは堪らず声を上げた。
「何とかしてくれ。このままじゃ、あいつのレーザーが命中する」
レーザーは装甲部分に当たれば、バリアで無効化できる。だが、エンジン部分に命中すれば、大きなダメージを受ける。特に逃げるように先行している今は、エンジンに当たる確率が高い。
教授は悩んでいたが、決断し命令を発した。
「『虫の巣』に進路を変更よ」
その命令に全員が驚いた。『虫の巣』は無数の宇宙クリオネと砲撃ダンゴムシが巣食うポイントで、屠龍猟兵でも近付かない宙域だった。
「どうしたの。命令は聞こえたでしょ」
イチが進路を変えた。前方に巨大なガス惑星が見えてくる。その周囲にはガス雲により構成されている輪が存在した。ガス雲の輪の中には無数の小惑星が浮かんでおり、宇宙クリオネと砲撃ダンゴムシの巣になっている。
「ソウヤとモウやんは、外に出て。近付く宇宙クリオネと砲撃ダンゴムシを撃退して」
「おう」「了解や」
モウやんは駆龍艇が置いてある格納庫へ走り、ソウヤは屠龍ポッドのところへ向かった。
屠龍機動アーマーを装着したソウヤは、ハッチから宇宙へ出た。前方にはガス雲、後方には光撃ムカデの姿がある。
ユピテル号が速度を落としてからガス雲に突入。どこから嗅ぎ付けたのか、砲撃ダンゴムシが近付いてきた。その代り宇宙クリオネは逃げて行く。ユピテル号から逃げるというより、砲撃ダンゴムシから逃げている。
砲撃ダンゴムシは、ユピテル号のエンジンから出る噴射光を追ってくるようだ。
ソウヤはパーティクル銃を構え、霧がかかったように見える周囲に視線を向ける。
「チッ、視界があかん。全然見えへん」
その時、白く輝くガスに黒い影が映り、ガスを突き抜けて砲撃ダンゴムシが襲ってきた。ソウヤは反射的にパーティクル銃の引き金を引く。強化された粒子弾が砲撃ダンゴムシの胴に穴を開けた。
「ふう、驚かしやがって」
船尾の方で火花が散った。ソウヤが行くと、砲撃ダンゴムシが船体に取り付き装甲に穴を開けようとしている。装甲部分だから穴は開かないが、これがエンジンやスラスター部分だと破損しただろう。
「こいつ」
パーティクル銃から粒子弾が放たれ、砲撃ダンゴムシの頭を撃ち抜いた。砲撃ダンゴムシはユピテル号を離れ、後方に飛び去っていく。
その後、次々と砲撃ダンゴムシが襲ってきた。ソウヤは懸命に星害龍を倒し続ける。
それは駆龍艇を駆るモウやんも同じだった。
ブリッジでは性懲りもなくチェルバが、ユピテル号の火器を操作し砲撃ダンゴムシを撃っていた。教授は砲撃ダンゴムシが相手ならと黙認する。
「教授、奴らがガス雲に入ってきました」
イチの報告に教授が頷いた。
「アリアーヌ、チャンスがあったら撃って。この中なら反撃される可能性は低いわ」
「分かりました」
二匹の光撃ムカデは先を競うように、ユピテル号に迫っていた。手負いの光撃ムカデが先にガスを抜け、船を襲う。その瞬間、五六口径荷電粒子砲が荷電粒子を解き放たれ、周囲のガス雲が膨大なエネルギーを受け発光する。
アリアーヌは光撃ムカデの行動を予想し、砲口を向けていたのだ。それはただの勘だったが、功を奏した。
光撃ムカデの頭が吹き飛び、残りは一匹となった。
ユピテル号は反動で回転を始めながら、ガス雲の中をふらふらと漂う。砲撃ダンゴムシは凄まじい砲撃に驚き、船から離れて行く。
「ソウヤ、モウやん。船に戻って」
教授の声が聞こえ、ソウヤとモウやんはユピテル号の後を追った。追いついたソウヤたちは船内に戻る。
一足早くモウやんがブリッジに戻った時、船体に衝撃が走った。
モウやんがモニターを覗く。そこには最後の光撃ムカデが、船体に取り付いている姿が映し出されていた。
「どうして……何やってんだ。取り付かれているじゃないか!」
ユピテル号の船体には、数十個のカメラが設置されている。そのいくつかが、五六口径荷電粒子砲に取り付き砲身を締め付けている星害龍を写している。
不気味な音が響いてきた。ミシッビキッという音が船体全体に響き渡る。
「姿勢制御に時間がかかったのよ。気付いた時に遅かったわ」
教授が唇を噛み締めていた。
光撃ムカデの締め付けで、五六口径荷電粒子砲が曲がってしまう。これで主砲が撃てなくなった。
「ダメだ。あいつを倒せる唯一の武器が……どうするんだよ?」
モウやんが頭を抱えた。
ソウヤがブリッジに戻った時、どんよりした空気が漂っていた。
「どうしたんや?」
モウやんがモニターを指差す。ソウヤはそれを見て驚いた。
「なんじゃこりゃ。主砲の砲身が曲がっとるやないか!」
「そうなんだよ。もうダメだ」
モウやんもイチも暗い顔をしている。ソウヤが教授の顔を見る。教授までも絶望的に暗い表情をしていた。
その時、チェルバが声を上げた。
「皆して、何暗い顔をしているんずら。武器ならまだ残っとるずら」
アリアーヌがぐったりと座席に身体を預けて。
「あの星害龍を仕留める武器がないのよ」
チェルバが変な笑い声を上げる。
「きゃふゅふゅ……何言うとるんずら。屠龍機動アーマーがあるずら」
「馬鹿言わないで、屠龍機動アーマーで光撃ムカデを倒せと言うの?」
「本物の屠龍機動アーマーなら、『天震理術』が使えるはずずら」
アリアーヌは天震理術という言葉に聞き覚えがあった。小さかった頃、母親に読んでもらった絵本の物語に出てきた言葉である。
「あれは特別な屠龍機動アーマーと達人級の屠龍猟兵が揃って使えるものでしょ」
チェルバが首を振る。
「いや、初歩的な天震理術なら、安い屠龍機動アーマーでも可能ずら」
教授が身を乗り出し、天震理術について確認する。
「本当なの……でも、実行するのは難しいんじゃない?」
チェルバが一瞬考えてから答えた。
「言う通りにすれば、大丈夫ずら」
教授が目をギラッと光らせ、ソウヤの方へ視線を向ける。
「ソウヤ、分かっているわね。何としても天震理術を成功させなさい」
「無理無理……そいつがどういうもんかも、知らんのやで」
それに対するイチとモウやんの返答は、いい加減なものだった。
「為せば成るです」
「ソウヤは本気になれば、できる子だよ」
ソウヤは無理やり外したばかりの屠龍機動アーマーを装着させられ、宇宙に放り出された。
ハッチから出たソウヤの目の前には、主砲に絡みついた光撃ムカデの姿がある。
「デ、デカイ……めっちゃ怖いやんか」
近くで見る星害龍は巨大だった。
「チェルバ、どうすればいいんや?」
通信装置からチェルバの声が聞こえてきた。
「最初にボソル粒子を汲み上げる時と同じずら。でも、今回は大量のボソル粒子を汲み上るずら」
チェルバは、天震理術の初歩である<天震弾>のやり方を教えてくれた。その教えに従い、ソウヤは実行する。
精神の深層部にある高次元ボーダーフィールドを越え、高次元空間から、大量の天震力を含んだボソル粒子を汲み上げ通常空間へ持ち込む。
ボソル粒子は人間の思考に反応する粒子である。ソウヤはボソル粒子を大きなボールの形に変える。そのままでは粒子弾と同じなので、それを意志の力で圧縮する。
チェルバの言葉によると、ボソル粒子で形を作った後、ギュギュッと小さくし、右回りにグルンとするとバーンと飛ぶのだそうだ。
「右回りにグルン……そんなんで分かるかーーー!」
宇宙でソウヤが叫んだ。
圧縮まではなんとかできた。次は星害龍に向かって発射するのだが、どうやるのか分からない。
「ソウヤ、右回りにグルンは、回転させるんじゃないか」
モウやんからアドバイスが届いた。
ソウヤは『何を』と思ったが、ボソル粒子を圧縮した天震弾しかない。ボウリングボールの大きさまで圧縮したものを、意志の力で回転させた。
次の瞬間、天震弾が弾けた。音速を超え飛翔を開始する。だが、狙っていた光撃ムカデの頭には命中せず、尻尾に当たる。爆発が起きた。圧縮されていたボソル粒子が爆発したのだ。
星害龍の尻尾が吹き飛んだ。
「な、なんちゅう威力や」
ソウヤが<天震弾>の威力に驚いていると、チェルバの叱責が聞こえてきた。
「アホ、ちゃんと狙うずら」
光撃ムカデが主砲から離れ、ソウヤの方に向かってくる。その迫力はソウヤをビビらせるのに十分な迫力があった。しかも、吹き飛んだ尻尾から体液を噴き出しながら、平然と迫る星害龍の姿は恐怖をもたらす。
「あ、あかん」
ソウヤが弱気になった時、
「ここが勝負どころよ。ソウヤ、頑張ってもう一発よ」
アリアーヌの声援の声が耳に届く。その声はソウヤの心に深く染み渡り、恐怖が吹き飛んだ。慌てて天震弾を作り始める。
ギリギリのタイミングで天震弾が完成。敵の頭を狙って放った。
光撃ムカデが大きな口を開けた瞬間、偶然にも天震弾が口の中に飛び込んだ。一瞬後、口内で大爆発。その威力は頭を吹き飛ばすには十分だった。こうして、最後の光撃ムカデが死んだ。
この瞬間、ソウヤたちの初依頼が完了した。脅威となる星害龍が討伐された星系は、以前の状態に戻ったのだ。
ユピテル号は破壊された巡洋艦からクルーを救出し、輸送艦と一緒にナゼル星系に戻った。
その一ヶ月後、惑星ボルタルの採掘作業が再開される。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
今回の事案により、ユピテル号とソウヤたちの名が知られるようになった。と言ってもナゼル星系周辺の狭い宙域だけの話である。
ユピテル号を修理したソウヤたちは、着実に依頼をこなしながら資金を貯め、遷時空跳躍装置を手に入れるために努力を重ねた。
この頃になると、地球に帰れるようになるには、年単位の時間が必要だと覚悟するようになっていた。それでも三人は諦めなかった。段々と薄れていく記憶の中の両親や姉に、絶対に再会するんだと誓う。
いくつもの冒険と苦労を乗り越えた後、ソウヤたちは太陽系に戻り家族と再会する。だが、その時の地球は、元の地球ではなくなっていた。
宇宙的災害が地球を襲っていたのだ。
今回の投稿分で『第1章 最悪のファーストコンタクト編』は終了です。
次回からは『第2章 太陽系航路編』となります。




