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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第1章 最悪のファーストコンタクト編
23/55

scene:23 ムサカ星系の光撃ムカデ

 ソウヤたちが滞在しているナゼル星系の近くに、ムサカ星系と呼ばれる星系がある。数年前、その星系の惑星ボルタルでレアメタルの大規模鉱脈が発見された。

 当然、ナゼル星人は惑星ボルタルの開発に乗り出した。

 その鉱山惑星で発見されたレアメタルは、レニウム。レニウムは航宙船などに使われる超耐熱合金の素材として大量に必要とされている。

 惑星ミュークで五本の指に入る資源採掘会社マーデル社が開発権を買い取った。数年後、ボルタルから産出されるレニウムは、ナゼル星系の主要な収入源となっていた。


 一般労働者や技師を合わせて数千人の人材を惑星ボルタルに送り込み、順調に開発が進んでいた時、そのムサカ星系に凶悪な星害龍が住み着いたことが判明する。

 鉱山惑星ボルタルへ向かう航宙船が巨大な星害龍に襲われるという事件が起きたのだ。ムサカ星系で確認されたのは、昆虫星害龍6型と名付けられているムカデに似た星害龍だった。全長一二〇メートルほどまで成長し、口からレーザーを発する正真正銘の化け物である。

 マーデル社では鉱山惑星ボルタルに派遣している社員を一時的に帰国させるという決定を下した。だが、その決定を実行するには、軍の協力が必要だった。

 マーデル社のシャムエル社長は、星系政府に頼み救出部隊をムサカ星系へ向かわせた。救出部隊は星系軍の輸送艦二隻と護衛の戦闘艦三隻である。


 シャムエル社長の部屋に、鉱山惑星ボルタルの担当部長ラガマンが飛び込んできた。

 ラガマンとシャムエル社長は、両人とも猫人間のナゼル星人である。

「救出部隊が星害龍によって壊滅的被害を受けたと、連絡が入りました」

 シャムエル社長が頭を抱えた。

「にゃんということだ。ボルタルに取り残されている作業員と技師は、大丈夫にゃのか?」

「食料や水に関しては、十分にゃ備蓄があります。二ヶ月は大丈夫にゃはずです」


 シャムエル社長は強い決意を秘めた顔付きになる。

「トイガー国家主席に、もう一度お願いする。ムサカ星系に関する情報を集めてくれ」

「分かりました」

 シャムエル社長は国家主席に連絡を取り、再度の救出部隊派遣を嘆願した。その嘆願を受けたトイガー国家主席は、星系軍軍令部総長を呼び出し、次の救出作戦を立てるように命じた。


 命じられたアビシン軍令部総長は、参謀のヒマラン少将と検討を始める。

「急いで救出作戦を立てねばにゃらにゃい」

 軍令部総長の発言に、ヒマラン少将がヒゲを震わせる。

「星害龍を倒さにゃければ、救出部隊を派遣するのは無理です」

「そうだにゃ……星害龍退治に使用できる戦闘艦は、何隻だ?」

 ナゼル星系には、数十隻の戦闘艦が配備されている。その中で巨大ムカデと戦える艦は一二隻。五隻は惑星ミュークの防衛体制から外せないので、使える戦力は七隻だった。

 しかし、その中の三隻が前回の救出部隊の護衛任務中に大破した。


 その情報を聞いた軍令部総長を始めとする星系軍幹部は、全員がパニックに陥るほど驚いた。三隻の戦闘艦が負けたという事実は、相手が巨大ムカデが一匹なら、あり得なかったからだ。

「複数の星害龍が相手とにゃると、現在の戦力だけでは難しいかもしれん」

「三ヶ月後には、新造艦が完成します。それを待ってはどうでしょう」


 軍令部総長が渋い顔になる。

「私もそうしたい。だが、惑星ボルタルに取り残されている者たちの物資が、二ヶ月で尽きる」

 ヒマラン少将が低い唸り声を出しながら考え始めた。

「そうだ。屠龍猟兵組合に依頼を出しては」

「星害龍の討伐依頼か」

「いえ、彼らの戦闘艦で星害龍を仕留めるのは無理でしょう。ですが、輸送艦を守る盾にはにゃるはず」


 軍令部総長は、ナゼル星系の屠龍猟兵組合に登録している屠龍猟兵の戦力を思い出した。

「奴らの屠龍戦闘艦は、我が軍のフリゲート艦と同程度の武装しかにゃい。もし、星害龍と戦闘ににゃれば、壊滅する可能性が高いのではにゃいのか」

「星害龍と戦うのは、あくまでも我軍の戦闘艦です。ですが、輸送艦を守りにゃがら戦うのでは、十分にゃ戦闘力を発揮できにゃいかもしれません」

「にゃるほど、少将は前回の作戦で失敗したのは、戦闘艦が輸送艦を守りにゃがら戦ったためだと考えておるのだにゃ」

「本来の力を発揮できれば、我軍が敗北するにゃど考えられません」


 軍令部総長は考える時の癖なのか、毛づくろいを始める。

「分かった。屠龍猟兵を数チーム雇い、護衛させることにしよう。何チームが必要だ?」

「この際ですから、あの星害龍にダメージを与えられる可能性がある屠龍猟兵チーム全員に声をかけましょう」

「そうだにゃ」

「星害龍が複数匹いるかもしれにゃいという情報は、伏せた方がよろしいかもしれません」

「屠龍猟兵が集まらにゃいと?」

「奴らだって、リスク管理はするでしょう」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 そのメールに気付いたのは、ブリッジで水の貯蔵量をチェックしていたアリアーヌだった。屠龍猟兵組合に登録すると同時に、アリアーヌたちはメールアドレスをもらっていた。そのアドレスに屠龍猟兵組合からの情報や依頼メールが届くのだ。

「これは……教授、仕事の依頼が来てますよ」

 教授を呼んだアリアーヌは、メールを教授に見せた。

「これは……輸送艦の護衛依頼……」

 教授は初めてきた護衛依頼に戸惑っていた。護衛依頼は、ある程度経験のある屠龍猟兵チームにしか依頼が来ないものだったからだ。

 護衛依頼と聞いて、ソウヤたちがブリッジに集まってきた。

「どんな依頼なんや?」

 内容を見るとムサカ星系へ飛ぶ輸送艦の護衛というものだった。護衛を雇う理由は、昆虫星害龍6型が出没するからだと言う。

「昆虫星害龍6型って?」

 モウやんが教授に尋ねた。教授は端末を操作し、昆虫星害龍6型の動画をモニターに映し出す。

 モニターに巨大なムカデが映し出された。航宙船に向かって口からレーザーを発している。

「えげつない化け物やな」

「これはレーザーですよね。どのくらいの威力があるのでしょう」

「すげえー。『光撃ムカデ』だ」

 早速、モウやんが名前を付けた。光撃というのはレーザーのことらしい。


 イチが別のモニターに光撃ムカデの情報を表示させ、脅威レベルに注目する。

「脅威レベル4ですか。グラトニーワームと同じですね。危険すぎませんか?」

 戦闘経験の少ないイチたちでは、脅威レベル4の星害龍も危険だった。

「あたしたちだけで相手をするんだったら、そうだわ。だけど、軍の戦闘艦と他にも屠龍猟兵チームを雇うみたいだから大丈夫じゃない」

「そうか、軍の護衛艦が一緒なんだった」


 ソウヤは光撃ムカデの情報を確認し、防御力が気になった。

「こいつ……えらく硬い装甲殻を持っているみたいやで」

 教授はモニターの情報を見て、厳しい顔をした。

「ユピテル号の武装で、そいつの装甲殻を破れるのは、五六口径荷電粒子砲とグラトニー加速投射砲だけのようね」

 五六口径荷電粒子砲は反動の凄まじさから連射は無理であり、グラトニー加速投射砲は近距離でないと装甲殻を貫けない。この二つの武器には、問題点もあるのだ。


「リスクが高すぎる。この依頼は断るべきだ」

 イチが慎重な判断を下した。それを聞いたモウやんが、

「ちょっと待って、報酬を見て。二〇〇〇万クレジットだよ」

「報酬は美味しそうやな。けど、リスクが問題や……教授はどう思う?」

「ユピテル号だけなら、リスクが高いと言えるわね。けれど、軍の護衛も付いている。それを考えると、引き受けてもいいんじゃない」

 教授の言葉で、依頼を受けることにした。


 ユピテル号は中継ステーションのある宙域へと向かった。そこで集合する約束になっていたのだ。この時のユピテル号の形体はリビングベースを異層ストレージに仕舞った状態である。

 護衛として雇われたのは、九チームの屠龍猟兵たち。その戦闘艦は九隻。ナゼル星系で建造された屠龍戦闘艦が七隻。ユピテル号ともう一隻だけが、他の星系で建造されたものだ。

 ナゼル星系の科学技術は、第三階梯に属するものでカエル人間であるロドレス種族より少し低い程度。

 その技術で建造された屠龍戦闘艦は、宙域同盟において平均的なレベルの戦闘艦だった。大きさは全長一五〇メートル未満の衛星級であり、主砲として二〇口径荷電粒子砲を装備している戦闘艦が多いようだ。


 煌く星の海に九隻の屠龍戦闘艦が並ぶ姿は壮観だった。一隻一隻が強力な武器を持ち、地球程度の文明社会なら壊滅可能な戦力を有していた。

 ブリッジの三次元レーダーを眺めていたソウヤは、近付いてくる艦船に気付いた。

「輸送艦と軍の船や」

 惑星級輸送艦二隻と巡洋艦三隻が現れた。


 巡洋艦の主砲は三六口径荷電粒子砲のようだ。光撃ムカデの装甲殻を貫通するには、三五口径以上の荷電粒子砲が必要だと屠龍猟兵組合のデータにあったので、巡洋艦を用意したのだろう。

 巡洋艦は荷電粒子砲の他にレーザーキャノンや高速ミサイルも装備しているが、光撃ムカデに通用するのは三六口径荷電粒子砲だけである。戦闘時には苦労すると思われた。


 護衛艦隊の旗艦ヤタラートの指揮ルームでは、ヒマラン少将が屠龍戦闘艦の基本スペックを閲覧していた。その基本スペックは乗組員である屠龍猟兵が申告したものであり、隠された機能があるかもしれない。だが、おおよその戦力は読み取れる。

「ん! この屠龍戦闘艦は……」

 少将が注目したのは、ユピテル号である。この屠龍戦闘艦は驚くことに五六口径荷電粒子砲を装備していた。

「駆逐艦の船体に、戦艦の荷電粒子砲か。何を考えているんだ」

 強力すぎる武器を一つ装備するより、船体の大きさに合った武器を複数装備する方が、戦闘力は上がるというのが常識だ。但し、高い防御力を誇る星害龍を相手する場合、強力な武器を必要とすることがある。

 高い防御力の星害龍のいる星系を守る軍は、砲艦と呼ばれる特殊な艦を建造する。主砲を撃つためだけに設計された特殊な艦で、発射時に発生する反動の吸収装置や照準装置、船体制御システムが組み込まれる。


 ユピテル号は、明らかに砲艦ではない。五六口径荷電粒子砲の発射時には、大変なことになるだろう。

「屠龍猟兵とは、無茶なことをするもんだ。だが、あの屠龍戦闘艦にゃら星害龍を仕留められる」

 少将はモニターに映る駆逐艦タイプの屠龍戦闘艦を見詰めてから、出発の命令を出した。


 まず、巡洋艦が先頭を進み、跳躍リングに飛び込んだ。次に輸送艦、屠龍戦闘艦の順序で跳躍リングを潜る。ユピテル号は最後尾で遷時空スペースに飛び込んだ。

 ソウヤたちは何度も遷時空スペースを経験し慣れたようだ。平気な顔でモニターに表示される航行データを読み取れるようになっていた。

 艦内にはルオンドライブの低い稼働音が響いている。


 イチは教授が真剣な顔で考え込んでいるのに気付いた。絶世の美女である教授が考えている姿は、絵になる。

「イチ、美人やからって、女の人をジッと見とると誤解されるで」

 ソウヤの声にイチがハッとする。イチは顔を赤くし慌てたように、

「ち、違うよ。教授が真剣な顔で考えているから、何だろうと思っただけさ」

 それを聞いて、教授が笑う。

「何だ。あたしに見惚れていたんじゃないのか」

 イチが顔を赤くする。

「教授、イチをからかうんやないで。それより、何を考えてたん?」


 真剣な顔に戻った教授が、モニターに星系軍の巡洋艦三隻を表示した。

「ナゼル星系の巡洋艦がどうしたのです?」

 アリアーヌが疑問に思い問う。

「相手は光撃ムカデ一匹だという話じゃない。それなのに巡洋艦三隻というのは過剰戦力だと思わない? しかも、護衛に屠龍戦闘艦を九隻も雇っている」


 ソウヤたちは悪い予感を覚えた。

「まさか、相手は光撃ムカデじゃないというのですか?」

 イチが大きな声で言った。

「いえ、屠龍猟兵組合の資料データにも、光撃ムカデが確認されたとあるのよ。星害龍の種類には間違いないと思う」

「そやったら、数が違うんやろか?」

「その可能性が高いわね」

 教授は少なくとも数匹の光撃ムカデが巣食っている可能性が高いと言う。


 遷時空スペースを五〇分ほど進んだ時、教授がルオンドライブを切り、通常空間に戻す操作を行った。

 内臓がひっくり返るような衝撃を感じた後、ユピテル号は通常空間に戻る。

「三次元レーダー作動。全計測機器を使用して警戒せよ」

 教授の命令がブリッジに響いた。

 ソウヤは三次元レーダーで星害龍がいないことを確認し、ホッとする。


 このムサカ星系には、五つの惑星が存在する。ボルタルは第三惑星で、地球とほぼ同じ大きさだ。そして、その外側の軌道に巨大ガス惑星が存在する。輪を持つ惑星である。

 このガス惑星の周辺に多くの星害龍が巣食っているらしい。特にガス惑星の輪は『虫の巣』と呼ばれ、無数の宇宙クリオネと砲撃ダンゴムシが住み着いている。

 これらの星害龍を狙って、光撃ムカデが居着いてしまったらしい。


 旗艦ヤタラートから、輸送艦を護衛しながら鉱山惑星ボルタルへ向かえと、命令が伝えられた。

「進路を、ボルタルへ。警戒態勢は解かずに行くわよ」

 教授が指示を出した。

 それから順調にボルタルへ向かって進んだ。速度は一番遅い輸送艦の巡航速度に合わせている。行程の七割ほどを飛んだ頃、三次元レーダーの調子がおかしくなった。

「妨害波を探知。光学装置により分析を開始します」

 アリアーヌの声が響いた。


 ソウヤは目を皿のように見開き、専用モニターを睨む。そこにアリアーヌが分析した結果が表示されていく。

 全長一二〇メートル、多数の足を持つ星害龍がモニターに映し出された。

 それも一匹ではなく、次々に現れる。

「ちくしょう。また、増えた」

 モウやんが叫んだ。

 モニターに表示される星害龍の数が次々に増えていく。数が七個まで増えた。


「クソッ、光撃ムカデが七匹や」

 ソウヤたちは戦闘準備を始めた。ユピテル号の装甲の一部が開き、砲塔が迫り上がる。

 巡洋艦三隻は輸送艦を離れ、光撃ムカデに向かっていく。残った屠龍戦闘艦は、輸送艦の盾となる位置に移動するように指示された。

 ユピテル号は、攻撃許可を求める通信を送る。


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