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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第1章 最悪のファーストコンタクト編
22/55

scene:22 ラグズレックの社員

 屠龍猟兵となったアリアーヌは、スペースコロニーの行政センターで特別法人企業を設立した。会社名は『ラグズレック』、アリアーヌの母星の古い言葉で『龍を狩る者』という言葉らしい。

 そして、アリアーヌを除く四人はラグズレックの従業員となった。この企業で半年間働けば、ソウヤたちは準市民権を得られる。


「僕たちはこれからどうすればいいの?」

 モウやんが教授に尋ねた。

「ラグズレックの社員となったのよ。会社の利益を上げるために仕事をするに決まっている」

 ソウヤは仕事と聞いて顔をしかめる。ケロール船長たちにやらされた仕事は、どれも嫌なものばかりだったからだ。

「屠龍猟兵の会社やから、星害龍を倒せばええのか?」

「そうね、星害龍を倒して死骸を売るというのも仕事の一つ。だけど、屠龍猟兵組合に依頼される仕事の中には輸送の仕事が多いのよ」

 イチが納得できないという顔をする。

「それって宙域輸送会社の仕事ではないんですか?」

 宙域輸送会社は、惑星上ではなく宇宙空間で荷物を運ぶ会社である。

「安全な航路なら、そうなんだけど……屠龍猟兵組合に依頼が来るのは、星害龍が出没する航路や危険な障害物が存在する航路を通らねばならない仕事ばかりなの」

 どうやら普通の宙域輸送会社では断られた荷物の輸送が、屠龍猟兵組合に依頼されるようだ。


 モウやんが荷物を運ぶ仕事だと聞いて、不服そうな顔をする。

「だったら、荷物の輸送をするの?」

「いや、まずは弱い星害龍を倒して実績作りからだね」

 実績のない屠龍猟兵には、輸送の仕事は任されないらしい。弱い星害龍という言葉で、アリアーヌは突撃機雷ウニを思い出す。

「もしかして、突撃機雷ウニを狩るのですか?」

「この星系の小惑星帯には、突撃機雷ウニの他に昆虫星害龍4型が生息しているそうよ」


 教授は昆虫星害龍4型と屠龍猟兵が戦っている映像を見せてくれた。

 屠龍猟兵は駆龍艇を装備しており、遠距離から昆虫星害龍4型にスペース機関砲を撃ちまくっている。

「こいつ、ダンゴムシみたいな奴だな」

 モウやんが見た印象を告げる。そのダンゴムシが口から火の玉を吐き出した。

「何や、あの火の玉は?」

「あれはプラズマボール、プラズマライフルと同じ原理でプラズマを攻撃に使っているのよ」

 駆龍艇を駆る屠龍猟兵は、プラズマボールをぎりぎりで躱し反撃する。駆龍艇から発射された機関砲弾が、ダンゴムシの頭に命中し、頭部装甲殻を破壊。但し、致命傷ではなかったようで、ダンゴムシがプラズマボールを吐き出し反撃する。

 五分ほど続いた戦いは、最後に機関砲弾がダンゴムシの頭を吹き飛ばして終了。


「突撃機雷ウニより、強いんじゃないか?」

 イチの意見にソウヤたちが賛成する。

「そうだね。その砲撃ダンゴムシのなんちゃらボールは危険だ」

 モウやんは教授の説明をあまり聞いていなかったようだ。

「プラズマボールや。それに砲撃ダンゴムシちゅうのはなんや?」

「そんな感じの星害龍じゃないか」

「まあ、ええけど。大きさは駆龍艇と同じくらいやったな」

 砲撃ダンゴムシの大きさは、五メートルほど。星害龍の中では大きな方ではない。しかし、スペース機関砲の一撃で仕留められない映像を見て、頑丈な化け物だと分かる。


「でも、ユピテル号の武装を使って攻撃すれば、一撃で粉々になりそうじゃない」

 アリアーヌに言われ、教授が渋い顔をする。それでは星害龍の死骸を回収できない。

「ユピテル号の武装は使わない方がいい。死骸を回収して売らなきゃ利益が出ないわよ」

「そうなると、屠龍機動アーマーか駆龍艇で戦うのか……屠龍機動アーマーの武器で砲撃ダンゴムシの装甲が破れるの?」

 モウやんが屠龍機動アーマーの武装を心配する。そのことはソウヤも気になっていた。


「トートに確かめてみたら、買った屠龍機動アーマーを改造できるそうや」

「改造って、どんな風に?」

「パーティクル銃の威力を増強し、装甲を強化できる言うてた」

 そのためには鉄やモリブデンなどの金属とクラーケンの口部分が必要だと知らせる。

「必要な金属は異層ストレージに収納されているから、それを使えばいい」

 教授が端末で調べ、クラーケンの巣になっていた大型工作艦から各種金属も大量に回収してあると教えてくれる。


 トートに屠龍機動アーマーの改造指示データを作成するように頼む。この改造指示データは数値化されたもので、ひどく難解なものだ。この改造指示データの作成が難しかったから、この屠龍機動アーマーを最初に買った屠龍猟兵が返品したのかもしれない。

 だが、トートにとって改造指示データなど難易度の低いものだった。一時間ほどで改造指示データを組み上げ、屠龍ポッドにセット。必要な金属とクラーケンの口部分一キロほどを中に入れ、改造処理をスタートさせる。


 屠龍ポッドの内部で機械音が鳴る。一分ほど屠龍ポッドを眺めていたが変化がない。

「トート、改造には時間がかるんか?」

「ハイ、地球時間デ三時間ホドガ必要デス」

「そうなんや、こうしていてもしょうもないから、教授のところへ行こう」

『ソノ前ニ、ゴ相談ガ アルノデスガ』

 トートが相談があると言うのは初めてだ。ソウヤは何だろうと尋ねる。


 その相談によると、トートが現在行っている情報ブロックの知識データベース化作業で問題が起きているらしい。具体的には、記録されている情報を紐づけて体系化するのにトートの計算能力では時間がかりすぎるそうだ。

 こういう処理には閃きが必要だと言う。だが、人工知能に閃きの機能は存在しない。

「だったら、どうしたらいいんや?」

『マスターノ脳ノ一部ヲ、使ワセテモライタイノデス』

「何でや?」

『知的生命体ガ持ツ閃キガ必要ナノデス。ソレニハ人間ノ脳ガ必要デス』

「ちょ、ちょっと待ってや。教授に相談するから」


 ソウヤはリビングベースの研究室へ行き、教授に相談した。話しやすいように、トートは教授の耳にある送受信ピアスと通信回線を繋ぐ。

「トートはソウヤの脳の状態を把握しているの?」

『ハイ、マスターノ脳ハ効率的ニハ開発サレテオラズ、スカスカ ノ状態デス』

 スカスカと聞いて、ソウヤは傷付いた。

「なんや、俺が馬鹿だと言ってるんか?」

『違イマス。効率的ナ使イ方ガ、ナサレテイナイダケデス』

 ソウヤが教授に視線を向ける。

「知的生命体の脳とは、そういうものが多いんだ。ソウヤに限った話ではない。……トート、ソウヤの脳の状態と使い方についての情報を纏めたデータを送れる?」

『ハイ、教授。可能デス』


 教授はトートから送られたデータを確認し、ソウヤの脳に障害が残るようなことはないのが分かった。但し、教授が持つ知識で調べた限りにおいてだ。

 教授は脳と機械の融合という分野について研究した過去があり、知的生命体の脳に関して専門的な知識を所有している。こういう分野は各星系国家でも研究されているが、大部分は国家機密として秘密にされていた。国民の知的生産性を上げる研究なので、国力増強に直結しているのだ。

 教授は念入りに調べ上げた。その結果、大丈夫だろうと判断する。ただ教授にとって地球人の脳は初めてであるという点が不安要素だ。

「脳の一部を改造したら、その部分をソウヤ自身が使えるようにできる?」

『ソレハ可能デス』


「ちょっと、教授。俺の脳なんやぞ。勝手に話を進めんといてや」

「あらっ、ごめんなさい。でも、問題ないわよ。スカスカなんだから」

 ソウヤはガクリと膝を突き肩を落とす。教授はからかうように言っているが、データを慎重に検討した結果である。トートが提案した方法は、ソウヤの脳機能を現状のまま残し新機能をプラスする方法らしい。

 教授の太鼓判を得たトートに、ソウヤは許可を出した。トートの計画では脳の五パーセントを改造し使うらしい。改造には希少金属と栄養源が必要で、それを一ヶ月間毎日摂取しなければならない。


「なあ、教授。アリアーヌの駆龍艇は、砲撃ダンゴムシを相手して大丈夫?」

「スペック的には問題ないわ。映像で見た屠龍猟兵の駆龍艇と同程度の戦闘力はあるんだから」

「そやけど、初めて戦う奴やで、手子摺るんやないか?」

「そうねぇ。プラズマボールに被弾する可能性を考えると、今の駆龍艇では危ないかも」

 駆龍艇に使われているのは、二層装甲鈑である。頑丈ではあるのだが、耐熱性は高くない。プラズマボールが命中した場合、致命的ダメージを受ける可能性がある。


「耐熱性か……三層装甲鈑には耐熱性の高いものがあるのだけど、サルベージ品の中にはなかったわね」

「教授、金はあるんやから買おう」

 ソウヤと教授はスペースコロニーの中で三層装甲鈑を販売している会社を探し、そこから耐熱性の高いものを選んで発注した。翌日には配達され、カワズロボを使って駆龍艇の装甲を張り替える。

 教授は中型スペース機関砲一門だった武装に、小型スペース機関砲一門を追加。メインウェポンが故障した時の予備武器とする。


 改造した屠龍機動アーマーは、猫耳がなくなり他のデザインも少し変わっていた。ソウヤが映画やテレビで見たヒーローを参考にして、トートに変えるよう要望したのだ。御蔭でメタリックレッドとブラックで塗り分けられたスマートなボディとなり、背中の空気循環装置と天震力ボトル、制御機構が一つに纏められた統合制御パックは、目立たないダークレッドに塗られている。

 ソウヤは素材買取ショップで屠龍機動アーマー専用のアンダーウェアを買い、全裸で屠龍機動アーマーを装着することはなくなった。


 思考制御を苦手とするモウやんは、屠龍機動アーマーを諦めたようだ。その代り駆龍艇に夢中になった。アリアーヌと交代で駆龍艇を操縦し、突撃機雷ウニや砲撃ダンゴムシを狩るようになる。

 駆龍艇による狩りは単純で、遠距離からスペース機関砲で射撃し撃破するだけ。一方、屠龍機動アーマーでの狩りは、加速力場ジェネレーターを駆使して星害龍の周りを飛び回り、近距離からパーティクル銃の粒子弾で攻撃しなければならない。


 アリアーヌが屠龍猟兵となってから一ヶ月後。

 駆龍艇を操縦するモウやんと屠龍機動アーマーを装着したソウヤは、小惑星帯で砲撃ダンゴムシの狩りをしていた。

「ソウヤ、そっちに行ったぞ」

 屠龍機動アーマーの通信機から、モウやんの声が響く。ソウヤは砲撃ダンゴムシがプラズマボールを吐き出そうとしているのに気付いた。砲撃ダンゴムシは体内でプラズマを生成する時、頭にある二本の触手を震わせる習性があるのだ。

 その動きを察知した屠龍機動アーマーの探知システムは、ソウヤに警告サインを出す。ソウヤは回避行動を取り、プラズマボールを躱した。


 反撃のためにソウヤが近付くと、砲撃ダンゴムシは防御姿勢をとった。体をまるめ巨大なボールのようになるのだ。ソウヤは頭部だと思われる部分にパーティクル銃の狙いを定め粒子弾を撃ち込む。

 粒子弾が撃ち込まれた部分の装甲殻が爆ぜ、破片と体液が宇宙に飛び散る。だが、宇宙では爆発音も苦痛の叫びもなく静かだ。

 突如、砲撃ダンゴムシが丸めていた体を伸ばし襲ってきた。全部で二〇本ほどある足を使い、屠龍機動アーマーを捕らえようとする。

 ソウヤは冷静に砲撃ダンゴムシの口部分に粒子弾を撃ち込む。砲撃ダンゴムシは体を痙攣させ、最後にはピクリとも動かなくなり死んだ。


 モウやんは駆龍艇の探査システムが砲撃ダンゴムシを捉え次第、スペース機関砲で狙いを付け撃つ。偶に砲撃ダンゴムシが放つプラズマボールが飛んでくることがあったが、プラズマボールの飛翔速度は遅く、簡単に躱せる。

 その日、モウやんが六匹、ソウヤが四匹の砲撃ダンゴムシを仕留めた。その死骸はユピテル号に持ち帰り、素材買取ショップで売り払う。

 砲撃ダンゴムシは宇宙クリオネの五倍から一〇倍の値段で売れた。装甲殻が工業製品の素材となるらしい。


 モウやんが素材買取ショップから支払われた金額を見て暗い顔をしている。それに気付いたイチが声をかけた。

「どうしたんです?」

「この調子で稼いで、どれくらいで遷時空跳躍装置が買えるんだ?」

 イチは溜息を吐いた。

「砲撃ダンゴムシを倒しても、買えませんよ」

「それじゃあ、地球に帰れないじゃないか。どうするんだよ?」

「教授が言っていたでしょ。まずは市民権を取ってからです」

「でも、市民権を取ってから、どうするんだ?」

「ちゃんと、航宙船の操縦免許とって、屠龍猟兵組合からの仕事を請け負うんですよ」

 砲撃ダンゴムシ程度の星害龍を倒しても、大した収入は得られない。だが、屠龍猟兵組合に依頼されるような仕事は、割と報酬が良いようだ。

 モウやんは仕方なく砲撃ダンゴムシを倒して素材買取ショップに売る生活を続けた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 標準時間で半年が過ぎた。この標準時間の一日が地球の一日と同じだとはソウヤたちも思っていない。だが、感覚的には大体同じだと感じていた。

 宙域同盟が標準として定めている一日は、一二時間。一時間は一二〇分である。そして、一ヶ月は三六日、一年が一〇ヶ月と定められている。


 ソウヤたちは準市民権を取得した。それから宙域同盟の宙域市民権を取得できる試験を受け、宙域市民権を手に入れた。

 試験と言っても、試験官と対面しての口頭試験である。恒星間基本法や一般常識、基本的な科学知識が質問され答えるというものだ。

 教授は楽々と全問正解し、ソウヤたちは何とか答えて合格。それぞれが星間金融口座を作り、口座チップも手に入れた。


 教授が屠龍猟兵組合に入るべきだと言うので、アリアーヌ以外の全員が勉強し屠龍猟兵となった。その間、アリアーヌは航宙船操縦免許の勉強を始めていた。

 さすがに航宙船操縦士1級は無理だが、2級の免許を目指していた。航宙船操縦士2級を取れば、準惑星ドワーフ級までの航宙船を操縦する資格を持つことになる。

 但し、遷時空跳躍船を操縦するには、航宙船操縦士1級が必要だった。


 航宙船は大きさにより、等級が決まっている。

 全長が五〇メートル未満の艦船を小惑星アステロイド級、五〇メートル以上八〇メートル未満を彗星コメット級、八〇メートル以上一五〇メートル未満を衛星ムーン級、一五〇メートル以上二〇〇メートル未満を準惑星級、二〇〇メートル以上二五〇メートル未満を惑星プラネット級、二五〇メートル以上一〇〇〇メートル未満を恒星スター級と呼ぶ。

 この規定からすると、駆龍艇は小惑星級、ユピテル号は準惑星級となる。


 全員が屠龍猟兵組合に入ることで、ソウヤたちは本物の屠龍猟兵チームとなった。


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