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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第1章 最悪のファーストコンタクト編
20/55

scene:20 ナゼル星系

 第二惑星ミュークへの航行中、ソウヤたちは勉強を続け、理系大学生程度の科学知識を身に着けた。

 ミュークに後一日で到着するという頃、ソウヤたちは異層ストレージからクラーケンの死骸を取り出し、ユピテル号の船体に縛り付けた。

 ユピテル号が異層ストレージを搭載していることを隠すためだ。クラーケンのせいで操縦は難しくなったが、船舶用制御脳の補助でなんとか前進する。

 一日後、ユピテル号はミュークへ到着。

 ミュークは地球に似ていた。地球より海の面積は狭いが、青い海と緑に覆われた陸地が印象的な綺麗な惑星である。大きな衛星も一つあり、そこも地球と同じだ。

 惑星と衛星のラグランジュポイントにスペースコロニーが幾つか浮いている。ラグランジュポイントとは惑星と衛星の万有引力と回転による遠心力が上手く釣り合うポイントであり、そのポイントなら安定してスペースコロニーの運営が可能なのだ。

 ユピテル号はその一つ『ニューミュークⅢ』に近付く。全長八〇キロほどで、直径が約八キロの円筒形をしたスペースコロニーだ。その両端には係留ポートがあり、素材買取ショップも存在する。


 ユピテル号を素材買取ショップの係留ポートへ接舷。教授とアリアーヌ、ソウヤの三人が素材買取ショップへ向かう。

 ちなみに、イチとモウやんは留守番である。モウやんは不満そうにしていたが、ジャンケンの結果なので仕方ない。

 無重力の係留ポートから、大きなエレベーターに乗って、スペースコロニー内を外縁部へと下りていく。下りるに従い、重力を感じ始めた。

 こういうスペースコロニーでは、重力制御装置により重力を発生させる方法ではなく、コロニー全体を回転させることで擬似重力を得ている。

 エレベーターが止まった。施設内は地球より少し小さな重力があるようだ。

 スペースコロニーの素材買取ショップは巨大だった。大型総合スーパー並みの規模があり、多くの地元民や屠龍猟兵、船乗りが利用している。


 三人は買取コーナーへ向かう。星害龍の素材を売りに来ているナゼル星人の屠龍猟兵が数人いるだけで、買取コーナーは混雑していない。カウンターの内側では、猫人間であるナゼル星人の女性が買取の対応をしている。

 顔はアメリカンショートヘアを擬人化したような感じで、手足は子供のふっくらとした手足に毛が生えている感じだろうか。ソウヤたちは可愛いと思った。


「いらっしゃいませ、買い取りですか?」

 教授が頷きながら、

「ああ、九番に停泊しているユピテル号の者だ。獲物は軟体星害龍7型よ」

 軟体星害龍7型はクラーケンの正式名称である。

「ええーーっ! 軟体星害龍7型ですか。よく仕留められましたね」

 ショップの店員が頭の上から突き出ている耳をピコピコさせながら驚いていた。クラーケンは滅多に遭遇しない星害龍で、腕利きの屠龍猟兵でも倒すのが難しい強敵だからだ。

 背後でざわざわと騒ぐ気配が広がる。同じ屠龍猟兵がクラーケンを倒したと聞いて、驚き騒ぎ始めたのだ。


 クラーケンの素材を売却。但し、龍珠と口の部分は売らない。教授が他に使い道があると言ったからだ。

 素材買取ショップの回収ロボットがユピテル号へ飛び、船体に縛りつけてあるクラーケンを回収する。

 素早く検品が行われ、売却価格が決まった。

 売却価格は九二〇〇万クレビット。全部売れば一億八〇〇〇万だと聞いていたので、龍珠と口の部分は特別に高いんやとソウヤが考えていると、教授にイチに連絡しろと指示される。

 ソウヤはクラーケンが無事に売れたことを、買取コーナーに設置されている小型通信機を使ってイチに連絡する。

 途中、モウやんが割り込んできて。

『早く買い物を済ませて、僕たちと交代してよ』

「久しぶりのショッピングなんや、そんなにかすな」

 通信を終了し、ソウヤたちはショッピングへ向かう。アリアーヌが服を買いたいと言うので、まず衣服コーナーだ。


 売り場の方には多くのナゼル星人が買い物を楽しんでいた。ここの施設は素材買取ショップと呼ばれているが、地元の者が多く利用するようになり、普通の商業施設と変わらない形態へと変化しているようだ。

 ただ利用している客の中には、ナゼル星人でない種族も二割ほどいた。

 異星からの訪問者のようだ。

 衣服コーナーでは、異星人用の衣服も売っている。

 アリアーヌが服を選び始めると、ソウヤは一人で回ってくると教授に伝え、屠龍猟兵向けの商品が並んでいるコーナーへと向かう。


 そこには様々な武器や兵器などの他に、星害龍の解体用ロボットなどが陳列されている。

 ナゼル星人は第三階梯種族なので、遷時空跳躍装置は製造できない。その代り独特の天震理学と精密工学が発達しており、独自の屠龍機動アーマーも開発されている。

 ソウヤは置いてあるカタログを見て、今使っている練習用屠龍機動アーマーがナゼル製かもしれないと思った。

 カタログに載っている屠龍機動アーマーも猫耳が付いていたからだ。


 この星での主流は、パーティクル銃を大型化したパーティカルキャノンをメイン武器とした屠龍機動アーマーのようだ。

 屠龍機動アーマーのコーナーには、展示品として三つの屠龍ポッドが置かれており、それらはパーティカルキャノンを装備する屠龍機動アーマーである。

 理由を店員ロボに尋ねた。

「コノ星系ニ出没スル星害龍デ最モ多イノガ、機雷星害龍3型ダカラデゴザイマス」

 機雷星害龍3型とは巨大なウニのような星害龍で、敵を見付けると突進してきて体当たりし爆発するらしい。この爆発の時に卵を撒き散らすので、爆発前に威力のある武器で仕留めるのが基本のようだ。


 ソウヤは価格を見て顔をしかめた。

 高いもので二〇〇〇万クレビット、売れ筋のアーマーは九〇〇万クレビットという値段が付いている。

「高過ぎや」

 練習用の屠龍機動アーマーではなく、本物の屠龍機動アーマーが欲しかったソウヤが溜息を吐いた。

「なあ、もう少し安い屠龍機動アーマーはないんか?」

「中古デ良ロシケレバ、ゴザイマス」

「へえ、中古もあるんや」

「倉庫ニ置カレテイル物デス」

 店員ロボに案内されて倉庫へ行くと、広い倉庫の中に幾つかの卵型屠龍ポッドが置かれていた。

「中古品が何で置かれているんや?」

「コレハ返品サレタモノデス」

 スペースコロニーの小さな会社で開発されたものなのだが、装備されているパーティクル銃では機雷星害龍3型を仕留めることができず、返品されたようだ。

「コノ屠龍機動アーマーハ画期的ナ機能ガ組ミ込マレテイルノデスガ、使イコナセルオ客様ガ イナカッタヨウデス」

 店員ロボから聞いた話では、この屠龍ポッドには、星害龍の素材や希少な金属を使って屠龍機動アーマーを改造可能な機能が付いているらしい。

 だが、そんな機能を付けたせいで初期の戦闘能力が低い。それでは機雷星害龍3型を倒せず、この星系では欠陥品だと言われ、開発した会社は倒産したようだ。

「一基三〇万クレビットデ、オ売リシマス」

 不人気な中古車のような安い値段だが、ソウヤが勝手に決める訳にはいかない。


 ソウヤは教授たちの所に戻って、屠龍機動アーマーを買いたいと事情を話した。

「しかし、その屠龍機動アーマーは欠陥品だと返品されたものなんでしょ」

「そうなんやけど、練習用よりはマシやと思う」

 そこにアリアーヌが賛成してくれる。

「それくらいなら、いいのではないですか。クラーケンを仕留めたのは、ソウヤなのですから」

「分かった。まずあたしが確認して大丈夫そうなら、買ってもいいぞ」

 ソウヤは教授とアリアーヌに礼をいい、二人と一緒に屠龍機動アーマーのコーナーへ戻る。


 教授は店員ロボから中古屠龍機動アーマーの説明を聞き承諾した。

 中古の屠龍ポッドを買い、船に送るように手配してもらう。

 それから中断したアリアーヌの服選びを終え、何点かの服を購入する。

 その後、教授の発案でグラトニーワームの革を使い高機能宇宙服の製作を発注する。通常時には普通の服として着て、非常時には宇宙服になるという優れものである。サリュビス号の正規船員たちが着ていた船員服に似ているが、あれは簡易宇宙服になるだけの低価格品で、ソウヤたちが発注したのは、本格的な宇宙服になる高級品である。


 ソウヤは留守番を交代するために、ユピテル号へ戻りイチとモウやんが素材買取ショップへ行くのを見送る。

 しばらくブリッジで待っていると素材買取ショップの配送ロボットが屠龍ポッドを配達にきた。

 ソウヤはハッチを開け屠龍ポッドを受け取る。猟兵出撃区画に、レ・ミナス号から運んできた屠龍ポッドと並んで今回買った屠龍ポッドを設置する。

 設置作業はレ・ミナス号の整備用ロボットだったバウ率いるカワズロボが行う。ユピテル号の電源から太い電線ケーブルが引かれ新しい屠龍ポッドにつながれる。


「トート、この屠龍機動アーマーは欠陥品やと思うか?」

『店員ロボノ説明デハ、コノ宙域ニ出没スル機雷星害龍3型ヲ倒セナイト言ッテイマシタノデ、役ニ立タナイト判断サレタト思ワレマス』

「そやけど、これって改造ができるんやろ。改造すれば良かったんやいか?」

『情報不足デス。コノ屠龍ポッドト接続シテ調ベテモヨロシイデスカ』

 ソウヤは許可を出し、屠龍ポッドの接続プラグに送受信機を差し込む。回線がつながり、トートが屠龍ポッドからデータを引き出し始めた。

 五分ほどで終わり、トートが分析した結果をソウヤに説明する。

 それによると、屠龍機動アーマーの改造には高度なマイクロ・ナノ工学の知識と天震理学の知識が必要だと言う。そんな知識を持つ屠龍猟兵は稀であり、購入者は屠龍機動アーマーの改造ができなかったようだ。


「一つ質問があるんやが、星害龍や希少金属を材料にするんやろ。ああいうもんは硬くて加工しにくいと思うんやが、どうやって加工するんや」

『コノ屠龍ポッドハ、天震力ヲ使ッテ特殊ナ力場ヲ形成シマス。ソノ特殊力場内ナラ簡単ニ加工ガ可能ナノデス』

 トートがもっと詳しく説明しようとしたが、ソウヤは止めた。聞いても理解できないと分かっていたからだ。

「それで、お前なら改造可能?」

『簡単ナモノナラ可能デス。大幅ナ改造トナリマスト知識ガ不足シテイマス』

 大幅な改造をするには、宇宙樹で手に入れた『天震理学』『材料工学』『兵器・軍事工学』『マイクロ・ナノ工学』を知識データベース化する必要があるらしい。


「分かった。その四つを知識データベース化してくれ。それと簡単な改造というのはどんな奴や?」

『ボソル粒子弾ノ発射装置デアルパーティクル銃ノ威力増強ト装甲ノ強化デス』

「パーティクル銃をパーティカルキャノンに変えるんやな」

『違イマス。パーティクル銃内部ニ、ボソル粒子ヲ圧縮スル機能ヲ追加、ソレト天震力ニヨル発射速度ノ増速ヲ行イマス』


「ふーん、威力はどのくらいになるんや?」

『パーティカルキャノンニ、匹敵スル威力トナリマス』

 ソウヤはすぐに改造してくれと言おうとして、材料が必要なことを思い出した。

「改造するには材料が必要なんやろ。何が必要や?」

 トートによると、鉄やモリブデンなどの金属とクラーケンの口部分が少しだけど必要らしい。金属はパーティクル銃の改造に、クラーケンの口は装甲に使えるそうだ。


 トートと話している間に教授たちが帰ってきた。

 モウやんがソウヤの顔を見ると、

「屠龍機動アーマーを買ったんだって」

「ああ、お買い得な奴があったんで、うたんや」

「へえー、僕たちも凄いのを買ったんだぞ」 

 モウやんが買ったのは、野菜や果物、それにハムやソーセージなどの加工肉だった。卵も欲しかったらしいが、売ってなかったらしい。

「イチは何を買ったんや?」

「航宙船の操縦ノウハウが入っている情報ブロックと、映画みたいなものが五〇本入っている情報ブロックだよ」

「僕はアニメが良かったんだけど、アニメはなかったんだ」

 モウやんが文句を言う。アニメは地球独自の文化だという可能性がある。


 教授は野菜工場システムで使う野菜や果物の種と肥料などを購入したらしい。

 野菜工場システムは、リビングベースの二階部分に五アールほどの広さのものが設置してあった。元が小型戦艦にあったものなので、五人しかいない現状では過剰な設備だ。

 教授が購入した種は、落花生やそら豆に似た豆類の種が多かった。但し、教授はイチとモウやんの希望も聞きサツマイモ、ジャガイモ、キャベツやきゅうり、トマト、メロンなどに似た野菜と果物の種も購入している。ジャガイモは小型戦艦で回収したものとは違う品種のものらしい。

 もちろん、全員の身体に毒となるものは対象から外している。販売コーナーでは野菜や果物の遺伝子情報と成分分析情報を提供しており、それを分析することで購入者に害があるかどうかを判定できるようになっているのだ。


 買い物の話が済んだ後、教授が一つの提案をした。

 アリアーヌに屠龍猟兵組合へ加入してもらおうという提案である。

 教授はここの素材買取ショップで、屠龍猟兵組合へ加入するための試験を受けられるという情報を仕入れてきていた。

 屠龍猟兵組合に加入すれば、星害龍の素材を売る時の手数料が有利となり、屠龍猟兵組合が抱えている様々な依頼を引き受けられるようになる。

 そして、一番大事なことは、宙域同盟に所属するナゼル星系なら特別法人企業を設立することができるという点だ。

「どう、アリアーヌ。試験を受けてみない」

「でも、その試験は難しいものじゃないのですか?」

 屠龍猟兵組合の試験は、星害龍の知識と屠龍猟兵としての行動規範、そして、戦闘能力が試される実技試験がある。


 試験内容を聞いたアリアーヌは、前の二つは勉強すればいいとしても、戦闘能力はどうすればいいかと悩んだ。

「戦闘能力について心配しているの? 大丈夫、試験の時に相手にさせられるのは、機雷星害龍3型と聞いている。ちょっとした装備があれば、アリアーヌでも倒せるようになるわ」

 教授に説得され、アリアーヌは承知した。

 ソウヤたちも試験を受けたがったが、教授から無理だと言われた。

「どうしてなんや?」

 ソウヤの質問に対して教授が、

「屠龍猟兵組合の加入試験を受けるには、市民権がないとダメなのよ」

「また市民権か」

 モウやんが愚痴る。

「仕方ないだろ。それより星害龍を倒す装備はどうするんです?」

 イチが確かめると、教授が何でもないことのように、

「買うと高いから、自分たちで作るわよ」


 ソウヤたちは、このスペースコロニーにしばらく滞在することになった。

 アリアーヌが勉強している間、ソウヤたちも勉強を続けた。とはいえ、トートの授業を受けるのは午前中だけにして、午後からは自由時間とする。

 イチは航宙船の操縦に関する勉強を行い、モウやんは野菜工場システムを使って、新しい野菜や果物を育て始めた。小型戦艦から回収した種を使って栽培した時は、ジャガイモくらいしか栽培に成功していない。どうやらモウやんが肥料を与えすぎたらしい。

 そして、ソウヤは屠龍機動アーマーについて修業を開始する。

 今まで適当に動かしていたが、スペースコロニーで屠龍機動アーマーの教本的な情報ブロックを見付け、基本から学び始めたのだ。


 教授はアリアーヌが使う駆龍艇の設計を始めた。

 屠龍猟兵の中にもボソル感応力がなく、屠龍機動アーマーを使えない者もいる。そういう者は武装機動甲冑や駆龍艇で戦う。

 武装機動甲冑はパワードスーツと呼ばれるものと同じで、星系軍の宙域機動部隊が正式装備として採用している。武装機動甲冑も屠龍機動アーマーと同様に種族毎に様々なものが開発されており、その性能もピンからキリまであった。


 もう一つの駆龍艇は、小型の星害龍を倒すために開発された超小型戦闘艇である。屠龍猟兵は屠龍戦闘艦を所有している。なのに、駆龍艇が開発されたのは、小惑星が集団となって漂っている宙域などに小型星害龍が棲み着いている場合があるからだ。

 屠龍戦闘艦が入り込んで戦闘するには不向きな場所なので、駆龍艇のような超小型戦闘艇が開発された。


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