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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第1章 最悪のファーストコンタクト編
18/55

scene:18 アリアーヌの事情と脱出

 アリアーヌはケビスダール星の枢密議員ルベルト・ヴァン・ロンジールの娘として生まれた。

 ロンジール家は、四代前から枢密議員を務める名家である。

 但し、伝統ある家柄だったが、経済的には凋落していた。そこでルベルトの父親は、息子を資産家マルプルク家の次女テレーゼと結婚させた。

 政略結婚だったが、テレーゼはルベルトに一目惚れし結婚。

 アリアーヌが生まれ、一〇歳までは幸せだったとアリアーヌ自身は記憶している。

 だが、一一歳の春、母親テレーゼとマルプルク家の祖父母が航宙船の事故で亡くなった時から、ルベルトの態度がおかしくなった。

 祖父母やテレーゼの遺産をアリアーヌから少しずつ取り上げ始めたのだ。株式や債券などから始まり、不動産まで取り上げた。


 そして、アリアーヌが一二歳になってすぐに、ルベルトは枢密院副議長ゼルギウスの娘エルネスタと再婚。

 その頃から、ルベルトのアリアーヌに対する態度が明らかに冷たくなった。

 アリアーヌはどうしてもエルネスタと馴染めず、屋敷で孤立するようになる。


 ある夜、アリアーヌが悪夢を見て夜中に起きた。

 月明かりが二階の窓から差し込み、暗い部屋の中に一筋のラインを作っていた。窓に近付いたアリアーヌが、そっと窓を開ける。

「アリアーヌはどうするの?」

 不意にエルネスタの声が聞こえた。声の主は一階のリビングにいるらしい。窓の外に建っている倉庫の壁に声が反射して聞こえるようだ。

「一応、私の子だぞ」

 ルベルトの声である。

「でも、あの子の財産はほとんど手に入れたのでしょ」

「まだ、アバター具現化装置の使用権が残っている」

「それは高額なものなの?」

「時価にすると二億クレビットはするだろう」

「それを奪った後は、どうするの。私は他人の子供なんか育てたくないわ」

「心配するな。寄宿学校に放り込めば勝手に育ってくれる。ゆくゆくは私の役に立つ男と結婚させるから、投資だと思って育てればいい」


 アリアーヌは目眩を覚え床に座り込んだ。

 その目から涙が溢れ出し頬を伝わり床を濡らした。

「どうしてなの……お父様」

 涙が枯れるまで泣いた後、父親とエルネスタに対して怒りが湧き起こる。

 翌朝、怒りを抱いたまま行動を起こしたアリアーヌは、両親が出掛けた留守に部屋に忍び込み、父親が保管していた星間金融口座のカード型メモリーチップを持ち出す。

 その口座を使って、レストリア星行きの乗船券を購入し、荷造りをすると屋敷を出た。


 ルベルトが、娘の失踪に気付いたのは、レストリア星行きの航宙船が出発した後である。

 娘が行方不明となったことを警察に届け、航宙船に乗ったことが判明した時、その航宙船が宇宙海賊に襲われたという知らせが入った。

 このニュースは、ケビスダール星系のローカルニュースとして報道され、アリアーヌが枢密議員の娘であることと宇宙樹のあるミクナイル星系で使うアバター具現化装置の使用権を所有していることが話題となる。

 とは言え、ローカルニュースなので他星系へは知られず、ケビスダール星人の間だけで話題となっただけだった。

 だが、偶々ケビスダール星系に滞在していたサリュビス号のケロール船長たちはニュースを見て知り、宇宙海賊に拐われたのなら、闇シンジケートから下級民として売りに出されるかもしれないと思い付き、闇のオークションでアリアーヌを手に入れたのだ。

 ケロール船長たちは幸運だった。闇シンジケートの人間は、アリアーヌがアバター具現化装置の使用権を所有していることを知らず、安値で手に入れられたからだ。

 アリアーヌはサリュビス号へ乗り込むことになり、ソウヤたちと出会う。

 そして、今、脅威レベル5の星害龍クラーケンが作った巣から逃げようとしていた。


  ◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆


 アリアーヌはブリッジの天井に設置された照明が灯るのを見て、補助動力炉が起動し、船全体に電力が行き渡ったと分かった。

「良かった。補助動力炉が、ちゃんと動いた」

「当たり前よ。カワズロボとあたしが念入りに整備したんだから。動かない訳がないわ」

 教授が心外だとばかりに声を上げる。

「次は航宙船用制御脳の起動や」

 ソウヤが起動スイッチを入れた。大型工作艦から取り外した航宙船用制御脳に電源が入り、トートにより改修された制御脳システムが立ち上がる。


 メイン動力炉である大型核融合炉が起動した後、カワズロボによる各機関の点検が始まった。二時間ほどで点検が終わり、異常がないことが確認される。

 リビングベースを異層ストレージに収納。リビングベースを収納しても異層ストレージの収納容量の一割ほどを使っているだけなので、まだまだ余裕がある。

 全員がブリッジの座席に座り、カワズロボが工作艦の開閉ハッチを開けるのを待つ。カワズロボたちが工作艦の機材を使ってハッチを開けた。ぎりぎり大型駆逐艦が通れる広さである。

 カワズロボたちが船に戻った後、イチが船のあちこちに取り付けられている軌道制御用スラスターだけを使って、工作艦の外に出る。


 船が宇宙空間に出たのを確認したソウヤは、歓喜の声を上げた。

「やった……俺ら、宇宙戦艦……いや、屠龍戦艦を作り上げたんや」

 イチとモウやんの顔にも笑みが浮かぶ。

「屠龍戦艦じゃなくて、駆逐艦、もしくは屠龍戦闘艦よ」

 アリアーヌが訂正した。だが、地球人にとって、この船は屠龍戦艦と呼ぶのが相応しいとソウヤたちには思えたのだ。

「ええやん、気分的に屠龍戦艦という感じなんや」

 聞いていた教授が、呆れたという顔をする。


 モウやんが操縦しているイチに声をかける。

「その調子だよ。三次元レーダーは使ったらダメだからね」

「そんなこと、分かってるよ」

 レーダーの類を使うとクラーケンに気付かれる恐れがあるからだ。

 ソウヤとモウやん、アリアーヌは、船外カメラからのモニター映像を食い入るように見て、クラーケンの姿を探す。

「クラーケンはいねえぞ」

「こっちの映像にもおらんでぇ」

「私の方にもいないわ」

 三人が報告した。それを聞いて、教授がメインエンジンを動かすよう指示を出した。


 操縦席に座ったイチが、メインエンジンのスイッチを入れると、巡洋艦から取り外した二基のメインエンジンが点火し、高温高圧の青白いプラズマを噴き出す。

 戦闘艦のメインエンジンに使われている推進剤は『カヴォル推進剤』と呼ばれる特殊なもので、水素やメタンから作られる安価な推進剤より高価なものである。

 カヴォル推進剤は難破していた戦闘艦に大量に積まれていたので、全量を小型戦艦から取り外した推進剤タンクに移し、異層ストレージに収納されている。

 大型駆逐艦サイズの艦船なら半年は困らない量だ。


 この星系から脱出する方法は、星系外縁部を周回している跳躍リングまで行き、遷時空スペースへ飛び込むことだ。新しい屠龍戦闘艦にも遷時空跳躍装置がないのだから、仕方ない。

 天神族が作った跳躍リングには、特殊な装置が組み込まれていて星害龍が近付かないらしい。

 その技術を他の種族にも広めてくれれば、とソウヤたちは思う。だが、天神族は秘密にしているそうだ。

「この船の名前を決めた方がいいんじゃない」

 モウやんがブリッジにある耐G座席に座って声を上げた。

「そうやな、何にする?」

「ロンジニル号なんて、どうかしら」

 アリアーヌが提案するが、ソウヤを含めた皆の反応は芳しくない。何故なら、ロンジニルとはアリアーヌの姓名であるロンジールをもじったものだからだ。


「ロンジニル号ね」

「悪くはないんやけど」

「アリアーヌの船みたいじゃん」

 あまり芳しくない反応に、アリアーヌが口を尖らせる。

「だったら、何がいいのよ」

「テリヤキ号」

「ダメだ」「ダメや」

 モウやんの提案を、イチとソウヤが即座に却下した。

「教授は何がいいと思います?」

 イチが教授に尋ねた。

「そうね……『モヒカン』というのはどう。スクリル星の第四惑星の名前よ」

 スクリル星人である教授にとっては意味のある名前なのだろうが、ソウヤたちにとってヤンキーな兄ちゃんを連想するので却下である。


「ソウヤとイチは何がいいの?」

 アリアーヌが文句ばかり言っているソウヤとイチに尋ねる。

 イチは『ポセイドン』、ソウヤは『ユピテル』という名前を提案した。ポセイドンはギリシャ神話に出てくる海洋の神、ユピテルはローマ神話の主神である。

 ソウヤが日本でマイナーな神であるユピテルを知っているのは、『世界の神々』という本を読んでいたからだ。

 結局、新しい船の名前は『ユピテル』に決まる。主神なら屠龍戦闘艦にも御利益ごりやくが有りそうだということと、ポセイドン号という名前の船が転覆する映画を記憶していたモウやんが『ポセイドン』を拒否したからだ。

 新しい船の正式名は『屠龍戦闘艦ユピテル』と命名。また略称は『ユピテル号』である。


 【屠龍戦闘艦ユピテル】

  ・<全長・全幅>   全長:一七〇メートル、最大幅:五〇メートル

  ・<装甲>      五層装甲鈑(二重バリア展開可能)

  ・<制御管理システム>第四世代軍用制御脳

  ・<メイン動力炉>  大型核融合炉一基(一基:一二GW)

  ・<補助動力炉>   中型核融合炉二基(一基:三.二GW)

  ・<メインエンジン> 巡洋航宙艦用プラズマ推進器二基

  ・<サブエンジン>  小型プラズマ推進器二基

  ・<補助推進装置>  加速力場ジェネレーター、天震力貯蔵タンク、天震力充填装置

  ・<高次元推進装置> 通常小型ルオンドライブ

  ・<探査システム>  駆逐艦用三次元レーダー

  ・<搭載武器>    五六口径荷電粒子砲一門、一六口径荷電粒子砲二門

             一二口径レーザーキャノン一門

  ・<特殊装備>    グラトニー加速投射砲、異層ストレージ、リビングベース



 名前が決まった頃までは順調だった航海も、跳躍リングまで半分という距離でグラトニーワームに発見された。

 近付いてくるグラトニーワームを見て、教授の指示でレ・ミナス号から移設されたグラトニー加速投射砲に天震力を流し込み始める。

 グラトニーワームが引き返し始めた。だが、引き返したグラトニーワームがUターンする。

「何で戻ってくんの~」

 モウやんが頭を抱えながら声を上げる。

「イチ、どうなっとるんや?」

「おかしいな。グラトニー加速投射砲には天震力を流してるし、グラトニーワームは仲間だと勘違いするはずなんだけど」

 教授がグラトニーワームが写っている映像を睨んでいる。

「もしかすると……アリアーヌ、無人偵察機をグラトニーワーム目掛けて発射して」

 無人偵察機は巡洋艦から大量に見付かっており、それをユピテル号に乗せていた。

「でも、星害龍に近付けると通信が妨害されるんですけど」

「構わない、やって頂戴」


 アリアーヌが無人偵察機を発射。

 一機の無人偵察機がユピテル号から離れると、ブリッジ上部にあるモニターに無人偵察機からの映像が映し出された。無人偵察機がユピテル号から遠ざかるに従い、グラトニーワームの姿が大きくなる。

 グラトニーワームの姿が、画面の二割ほどを占めた時、その背後にポツリとした点が見えた。その点は次第に大きくなり、クラーケンの姿となる。

「まずいわ。イチ、スピードを上げて」

 教授が慌てて指示を出す。

 ソウヤとモウやんはユピテル号の武器を使える状態にする。船体外装に取り付けられているドーム状の防護装甲がスライドし、一六口径荷電粒子砲や一二口径レーザーキャノンの姿が現れる。


 クラーケンがグラトニーワームに追い付き、巨大な蛇のような体に足を巻き付けると怪力で絞め殺す。恐ろしい力だった。鋼鉄よりも頑丈なはずのグラトニーワームの体が千切れ宇宙に漂い始める。

 クラーケンは次の獲物であるユピテル号を目指し突進する。

「何でだ。獲物なら一匹で十分だろう」

 モウやんが喚いた。

「アリアーヌ、三次元レーダーを起動」

 アリアーヌがレーダーのスイッチを入れると、関係する装置が起動しブリッジが賑やかになる。

「ダメや。三次元レーダーに反応しない宙域がある」

 ソウヤは三次元レーダーの立体映像の一部に黒いままの部分があるのを見て声を上げた。その部分にクラーケンがいるのだ。


 クラーケンの移動スピードの方が若干だが速いようだ。少しずつユピテル号とクラーケンの距離が縮まっている。

 モウやんが一二口径レーザーキャノンの発射ボタンを押した。レーザー光線は真空中を直進し、クラーケンの胴体に命中。だが、クラーケンの体表が少しだけ色を変えた程度のダメージしか与えられない。

「あかん。レーザーキャノンの威力って、あんなもんなんや」

 ソウヤがガッカリした声を上げた。それを聞いた教授が、

「いや、この場合はクラーケンの防御力が高すぎるのよ」

 その間にクラーケンが追跡スピードを上げた。


「ソウヤ、荷電粒子砲を試せ」

 イチが後方のクラーケンの姿が映るモニターに注意を向けながら大声を上げた。ソウヤは自分と同じように、イチも焦っているようだと感じる。それも仕方ない。モニターに映るクラーケンは正真正銘の宇宙怪獣なのだから。

 ソウヤは慣れない手付きで一六口径荷電粒子砲の照準装置を操作する。その操作に従い船体からせり上がった一六口径荷電粒子砲の砲塔が旋回し後方を向く。

 照準モニターにクラーケンの姿が映し出された。

「十字線の中心にクラーケンを捉えて……発射や」

 ソウヤが発射ボタンを押した直後、荷電粒子を発射した反動が船体を揺さぶる。

「わっ!」

 モウやんが声を上げる。

 荷電粒子砲から発射された荷電粒子は、ビーム状の帯となってクラーケンへと飛翔し、掠めただけで命中しなかった。

「何やってるの!」

 アリアーヌも興奮した声を上げた。

「荷電粒子は光ではないのよ。命中までにタイムラグがあるのを考慮して狙って」

 教授が難しいことを言う。一六口径荷電粒子砲は初めてなのにと思いながら、ソウヤは照準装置を操作する。

 ソウヤはクラーケンの動きに注目した。クラーケンはタコが海中を進む時のように足をふわっと広げてから、ピンと伸ばす時に加速するようだ。

 口の部分から何かを噴射して加速しているのだろうか。

 ソウヤは、クラーケンがふわっと足を広げた時に発射ボタンを押そうと決めた。

 クラーケンが足を伸ばし加速。そして、足を持ち上げようとした時、胴体を狙って発射ボタンを押した。


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