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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第1章 最悪のファーストコンタクト編
12/55

scene:12 星害龍グラトニーワーム

「星害龍だって!」

 通信機から響いてくるモウやんの声が一番大きい。

「船に戻るわよ」

 教授が素早く指示を出す。イチは器用に壁を蹴ってこちらに飛んでくる。

「アリャッ……誰か助けてぇー!」

 モウやんは無重力状態での方向転換に失敗し、バタバタしながら天井方向に飛んで行く。


「何やってんのや、早くこっちに来い」

 ソウヤは思わず大声を出す。あの星害龍が近付いてくるのかと思うと焦りが出る。とは言え、推進装置のない宇宙服では天井に到達するまで方向展開できない。ソウヤは加速力場ジェネレーター使ってモウやんに追い付き、出口の方へ移動する。

「そうだ、モフィツに連絡しなきゃ」

 イチが通信機でモフィツに呼びかけるが、通信状態が悪い。漂っている破片のせいだろう。

「どうしよう?」

 ソウヤは迷ったが決断する。

「イチたちは裂け目のところで待っといて。俺はモフィツを呼んでくる」


 全力で船首の食料倉庫の方へと飛ぶ。狭い通路を加速力場ジェネレーターを使って移動するのは難しく、時々壁や天井にぶつかる。

「痛てぇー……モフィツの奴め」

 頑丈な屠龍機動アーマーでなければ壊れていたかもしれない。ソウヤは八つ当たりするように漂っている浮遊物を払い除け、がむしゃらに前に進む。

 数十秒で食料倉庫の前に到着。食料倉庫の扉には鍵がかかっていた。鍵がかかっているのは何故だろうと、ソウヤは不審に思う。鍵をかける理由を思い付かなかったのだ。

「モフィツ、中にいるんやろ?」

 少し時間を置いて返事がくる。

「今は忙しいから邪魔するな」

 中で食料を集めているらしい。こんな時に食料なんて、とソウヤは腹を立てた。だが、モフィツが星害龍のことを知らないのを思い出す。

「星害龍が近付いとるんや。逃げるぞ」


 ………………

 …………


「騙そうとしても無駄だ。ここの食料は全ておいらが管理する。船長から任されているんだ。文句は言わさんぞ」

 ソウヤは意味が分からず、頭の中が空回りする。食料に執着するのは兎も角、船長から任されているというのは、何を言っているのだとモフィツの正気を疑う。

「本当に星害龍が近くまで来とんのや」

 モフィツがどうしても信用してくれない。時間がない。一旦戻って教授たちをレ・ミナス号へ連れて行くことにした。

 船体が裂けている場所まで来るとモウやんたちが待っていた。しかも集めた消耗品まで持ってきている。

「モフィツは?」

 モウやんの問いにソウヤは首を振る。

「あいつ鍵をかけて出てこんのや」

「またなのか」

 モウやんが吐き捨てるように言う。イチは溜息を吐いてから冷静にリスクを計算した。この船にいても、レ・ミナス号にいても危険はあまり変わらない。

「自分たちだけでレ・ミナス号へ戻ろう」


 ソウヤは網に包んだ消耗品も一緒に皆を運ぶ。一分ほどでレ・ミナス号へ到着し消耗品を貨物倉庫に入れ船内に入る。屠龍機動アーマーのままコクピットへ行く。

 コクピットにはモフィツを除く全員が集まっていた。正面のモニターには巨大なワームが宇宙空間を泳ぐように進んでいる様子が映し出されている。

 通常空間でのグラトニーワームの推進方法は、加速力場ジェネレーターと同等の機能を持つ器官を体内に持ち、身体をくねらせる動作と同時に、その器官が加速力場を発生させ推進するというものだ。

 天神族がどんな考えで創り出したのかは知らないが、本当に宇宙空間を泳いでいるように見える。


「何を目当てに、グラトニーワームは近付いてくるんだ?」

 モウやんが不思議そうに声を上げた。

「星害龍には人工物を見付けたら近付き、敵のものなら壊せという命令が本能として組込まれているのよ」

 血の気が引いた顔でアリアーヌが説明してくれた。

「そうなると……すでに壊れているサリュビス号ではなく、レ・ミナス号を攻撃する可能性が高いんじゃないか」

 イチが確かめると教授は頷き。

「その通り。一刻も早く逃げ出すわよ」


 教授の言葉で大騒ぎとなった。大急ぎで出発の準備をし壊れかけた屠龍戦闘艦を発進させる。

「宇宙樹の中に逃げ込むよ」

 レ・ミナス号がサリュビス号の傍を離れ宇宙樹に向かって進み始めるとグラトニーワームも方向転換し進路を宇宙樹に向ける。

 グラトニーワームとレ・ミナス号の速度差はほとんどない。いや、グラトニーワームの方が若干速いかもしれない。


 操縦席にはイチが座り操縦桿を握っている。ソウヤが後ろから操縦席の前にある三次元レーダーを覗き込むと白い霧がかかったように白く濁っている。

「レーダーの修理が終わってへんのか?」

 アリアーヌが首を振った。

「修理は終わっています。星害龍が妨害波を出しているのよ」

「へえっ、そんなマネもできるんや」

「だから、人による操縦システムが開発され続けているの。因みにレ・ミナス号の操縦システムは何万年も前から使われている旧型……骨董品よ」

 ソウヤたちの目からは、未来の操縦システムに見えるコクピットの中身を骨董品と言われ、地球との技術格差を感じた。


 モウやんは少し落ち込んだ気分になるが、それどころじゃないのを思い出す。後方を映し出すモニターをチェックすると星害龍が傍に迫っている。レーダーは使えなくとも船外カメラは正常に機能しているようだ。

 グラトニーワームの巨大な姿が映し出されているのを見て、モウやんの心に恐怖が湧き起こる。

「い、イチ、もう少しスピード出ないの?」

 モウやんが焦ったように甲高い声で尋ねた。

「無理。これが最高スピードです」


 グラトニーワームが大きな口を開ける。

「奴の得意技が来るぞ。進路変更の用意」

「は、はい」

「まだよ。まだまだ……今よ!」

 イチが操縦桿を傾ける。この船の操縦桿は正面モニターの下部から突き出ている棒状のもので、先端に幾つかのボタンが付いた握り手(グリップ)が付けられている。

 カチカチカチと機械音を響かせ操縦桿が二時の方向に動く。倒すほど大きくなる抵抗をイチは感じた。

 後ろの方で立って見ていたソウヤたちは不意に横向きの加速度を感じ足を踏ん張る。

「危ないから座席に座って、ベルトを締めなさい」

 教授からソウヤたちに指示が出された。


 グラトニーワームの大きく開けた口の周りに、黄色い電光がいくつも走る。次の瞬間、その口から大きな金属の塊が発射された。

 数秒前にレ・ミナス号が存在していた空間を、グラトニーワームが口から発射した金属塊が猛烈な速度で通り過ぎる。その相対速度は高性能なレールガン並みの速度に達していただろう。だが、宇宙空間での戦いにおいて、音速の数十倍程度では遅い部類である。

 グラトニーワームの発射物は『アイアンシェル』と呼ばれている。小型の星害龍を食料としているグラトニーワームだが、栄養として各種の金属も必要としており金属を多く含む岩石などの漂流物も口に入れ金属だけを腹の中に溜め込んでいるのだ。


「うっひゃー、危なかったぁ」

 モウやんが安堵の声を上げる。太陽光を浴びキラキラと輝く金属塊が船体の脇を通過するのを見た全員がホッと息を吐く。

「このままだともう少しで追い付かれる。どう致したらいいの?」

 アリアーヌが声を上げた。イチがモニターに星害龍とレ・ミナス号のスピードを表示させる。

 グラトニーワームのスピードはレ・ミナス号より少し速い。


『マスター 提案ガアリマス』

 ソウヤの頭にトートの声が響いた。コクピットの監視カメラを覗いていてレ・ミナス号の危機に気付いたのだろう。

「どんな提案だ?」

『超小型核融合炉ト 小型荷電粒子砲ヲ使ッテ撃退シテハ ドウデショウ』

 両方ともサリュビス号で見付けたものだ。


 ソウヤが皆にトートの提案を伝える。

「そうね。使えるかもしれない」

「凄いじゃないか」

「自分も賛成です」

 アリアーヌ、モウやん、イチが賛成した。


 教授だけは不安そうな表情をしている。

「小型荷電粒子砲だと威力不足だわ。それに、間に合うかしら……」

「ためらっとる時間なんてないんや」

 操縦しているイチを残し、ソウヤたちは倉庫へ急いだ。

 超小型核融合炉と小型荷電粒子砲はすぐに見付かる。それからはトートと教授の指示に従い小型荷電粒子砲の設置を始めた。

 だが、すぐにソウヤたちだけでは無理だと分かった。慌てて整備用ロボットであるバウを呼ぶ。


 レ・ミナス号は戦闘艦であるので、元々砲台を設置していた場所がある。

 今は武器が取り外され、ガランとした小さな空間だけが残っている。そこに小型荷電粒子砲を設置し、砲台の下にある空き空間には超小型核融合炉を固定する。そして導線で小型荷電粒子砲と超小型核融合炉をつなぐ。

 大半の作業はバウが行った。ソウヤたちは必要な部品や金具の搬送とちょっとした手伝いをしただけである。

 照準装置は超小型核融合炉の傍に置いた。本来なら船首につなげ、コクピットから狙いを付けるのだが、そこまで改造する時間がない。


 ソウヤたちが荷電粒子砲を準備している間、イチはグラトニーワームに狙い撃たれないように頻繁に軌道を変えアイアンシェルの攻撃を躱していた。

 グラトニーワームが四度目にアイアンシェルを放った時、レ・ミナス号の回避が一瞬遅れた。アイアンシェルがレ・ミナス号の船体を掠める。

 船全体に衝撃が走った。身体を固定していないソウヤたちは、身体が吹き飛び壁に叩き付けられる。

「ぐはっ!」「うわっ!」「きゃあああ」

 教授は固定した超小型核融合炉の筐体に掴まり難を逃れたが、ソウヤ、モウやん、アリアーヌは強い力で壁に激突。モウやんは鼻血を吹き出す。


「あんたたち、痛がっている暇などないよ。次の攻撃が来る前に、奴に一発撃ち込まないと終わりなんだから!」

 教授ががなり立てる。ソウヤたちだけでなく教授もテンパっているようだ。

ソウヤが照準装置に飛び付くとアリアーヌが小型荷電粒子砲を設置した砲台の開閉ドームを開け、舞台の昇降装置せりのように砲台を押し上げ船体の外に出す。

 モウやんはトートの指示に従い、超小型核融合炉を起動させる。

 ソウヤは照準装置の表示画面に映し出されたグラトニーワームの姿を照準装置の中心に持ってこようと小型荷電粒子砲の角度を調整。


 グラトニーワームは、泳ぐように身体をくねらせ進んでくるので照準をつけ難い。ソウヤは巨大なミミズが動くリズムを記憶し、それを元に敵の動きを予測する。

「左……右……左……右……今だ!」

 小型荷電粒子砲の発射ボタンを押した。超小型核融合炉の膨大な電力を使って加速された青白く輝く荷電粒子が砲の先端から発射される。

 発射の反動がレ・ミナス号の船体を揺さぶる。小型とは言え荷電粒子砲の反動は強力である。

 凶悪な威力を秘めた荷電粒子はグラトニーワームの胴体に命中。その強固な外殻に破壊エネルギーを叩き付け穴を開け、グラトニーワームの肉を焼く。


 グラトニーワームは痛みに身悶え、少しスピードを落とす。巨大なミミズは怒ったようだ。連続でアイアンシェルを発射する。

 それに気付いたイチが、罵り声を上げて軌道を変える。

「誰か、こっちに来て手伝ってよ」

 イチの悲鳴にも似た救援要請で、教授とアリアーヌがコクピットへ向かった。


 グラトニーワームの恐ろしい点は、信じられないほどタフで再生能力に優れていることだ。荷電粒子砲により傷付いた胴体は、再生が始まっていた。十数秒で回復しスピードを上げるだろう。

 所詮、ソウヤが使った荷電粒子砲は小型で威力が足りない。仕留めるだけの威力はないと判断し逃げるための時間を稼ごうと荷電粒子砲の発射ボタンを何度も押す。

 七回ほど荷電粒子砲を発射し三度命中させた。距離や敵の大きさを考えると決して誇れる命中率ではない。

 八回目を撃とうとした時、核融合炉と荷電粒子砲をつなぐ導線が焼き切れた。

「あかん、導線が細すぎたんや」

「ええーっ、ど、どうするの……どうすんだよ!」

 モウやんが騒ぎ、ソウヤが肩を落とす。先程までグラトニーワームの姿を映していた照準装置は真っ暗になっていた。

 ソウヤとモウやんには分からなかったが、グラトニーワームはダメージを受け追撃のスピードは鈍っていた。荷電粒子砲はちゃんと役割を果たしていたのだ。


「今のうちに宇宙樹に逃げ込め!」

 コクピットに戻った教授がイチに指示を出す。

 イチは回避行動を止め、レ・ミナス号の全速力で宇宙樹が放つガス雲を目指した。

 荷電粒子砲で傷付いたグラトニーワームは、瞬く間に回復し追撃スピードを上げる。もう少しすればアイアンシェルの射程距離に入りそうだ。


 怒りで目をギラつかせたグラトニーワームが大口を開け、アイアンシェルを放とうとしていた。

「ダメ、アイアンシェルよ!」

 アリアーヌが悲鳴のような声を上げた。


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