scene:11 サルベージ
レ・ミナス号の船内重力はコクピットと船室、リクライニングルームを標準重力に設定している。標準重力とは一Gの約九割で知的生命体が生まれた惑星の平均重力らしい。
買い物を終わらせたソウヤたちは、不味いチューブ入り保存食で食事を済ませた。
「なあ、不味い保存食はもう嫌だ。小麦粉を使って何か料理を作れないの?」
モウやんが食事に対して不満を口にするので、仕方なくソウヤが応える。
「調理器具がないんや。バウに作ってもらうまで我慢せんと」
元々船に備え付けられていた調理器具は劣化し使えなくなっていた。バウにオーブンレンジみたいな物が作れないか訊いてみると、作れるというので頼んでいた。
ソウヤたちは交替で睡眠を取りながら、アステロイドベルトに向かう。その間、モフィツは船室に籠もって食料と水の管理すると言い張っている。
腹を立てたソウヤたちは、水と食料を確保したことをモフィツだけには知らせなかった。
「ふん、いつまでも水と不味いチューブ入り保存食を抱えて、立て籠もってればいいんだ」
モウやんが憎々しげに言う。
アステロイドベルトに到着すると、宇宙クリオネを一七匹ほど狩った。レ・ミナス号の船倉が一杯になったので、宇宙ステーションへ戻る。
素材買取ショップで換金しようと係留ポートに行くとまた先客がいた。
こんな辺鄙で大した星害龍もいない宙域には珍しく、ちゃんとした屠龍戦闘艦である。レ・ミナス号より一回り大きくホバークラフトのような形をしている。
もちろん、浮上用ファンや推進用プロペラは存在せず、船尾に何らかの高出力エンジンが二基組込まれていた。武装らしい装備も見える。
奇異に思った教授は、素材買取ショップのオッさんに屠龍戦闘艦の素性を尋ねた。
「ありゃあ、屠龍戦闘艦バリアス号だ」
バリアス号は別の恒星系で討伐を請け負った昆虫星害龍を追って、ここまで来たらしい。逃がした星害龍は脅威レベル4の『グラトニーワーム』で、遷時空跳躍能力を持ち恒星間を旅する力がある。
脅威レベル4の星害龍は第三階梯種族のフリゲート級戦闘航宙艦と同等の戦力を持っている。屠龍猟兵でも中堅以上でないと倒せない化け物だ。
髭面のオッさんから情報を仕入れた後、宇宙クリオネの素材を売って幾つかの電子部品を購入する。レ・ミナス号を修理するのに必要な物だ。お陰でクレビットは無くなった。
購入した部品はバウに渡し、探査システムと操縦システムの修理を頼んだ。レ・ミナス号の三次元レーダーと操縦システムの速度センサーが故障していたのだ。
レ・ミナス号に乗り移ってから二日が経過。
「教授、そろそろ破壊されたサリュビス号に戻ってみませんか?」
イチが教授に提案した。
「そうね、行ってみましょうか」
教授が許可したので、イチはレ・ミナス号の進路をサリュビス号が漂っているポイントへ向ける。
途中、ゲロール船長たちが乗っていた小型艇が破壊されたポイントで、残骸が漂う光景を目にした。漂う残骸の中にオレンジ色の宇宙服が見える。
ソウヤとイチ、モウやんの三人は、コクピットのモニターに映し出される光景を見詰めた。恨んでいたゲロール船長たちだったが、血を流し悲惨な状態になった姿を見ると何だが心が痛む。
「まずは使える宇宙服を探します。第2ハッチ付近にある収納庫の中に、宇宙服の予備が仕舞われていたはず」
教授はソウヤに指示を出す。
レ・ミナス号には使える宇宙服がないので、屠龍機動アーマーで外に出なければならない。出来損ないの特撮ヒーローのような格好だが、贅沢は言えない。
ソウヤはアーマーを装着し宇宙空間へ出るとサリュビス号に近付く。中央部分の七割ほどに大きな亀裂が入り、ところどころに人が入れそうな穴が開いている。
第2ハッチは破壊を免れていた。加速力場ジェネレーターを使って移動し、ハッチの傍に空いている穴から中に入る。通路の中には様々な破片が浮かび、視界を遮っている。
『ソウヤ、中の様子はどうだ?』
イチが通信を寄越した。
「通路に入ったけど……ひどい。色んな破片が浮かんどる」
ソウヤは通路を船首の方に移動した。宇宙服が仕舞われていると聞いた収納庫を発見。ドアは半開きになっている。
中を覗くと大小様々な物が漂っていた。その中には予備の宇宙服らしい物もある。破片を掻き分け近付き、宇宙服を手に入れる。
サルベージした船から回収したものもあるので、大小様々な宇宙服が三〇着ほど宙を漂っていた。その中から仲間たちのサイズに合わせ六着を選びロープで括って運び出す。
ハッチを抜け宇宙空間へと出たソウヤはレ・ミナス号へと移動する。
「大漁や」
連絡艇格納庫に宇宙服を持ち込んだソウヤはイチたちを呼んだ。
故障しているとまずいので、教授が宇宙服に組込まれている自己診断機能を作動させ確認する。六着の中で一着だけ警告を発した宇宙服があった。
「こいつは使えないわ。大気圧代替機能に不具合ありよ」
教授が残念そうに言う。
地球上ではおよそ一気圧の力が人の体を圧している。この圧力がなくなると人の体は膨れ上がり死ぬ。大気圧代替機能は大気の代わりに人の体を圧し膨れ上がって死ぬのを防ぐ。大気圧代替機能は第二の皮膚というべき膜で身体を包み込み人体を守る機能だ。
因みに、地球で使われる宇宙服は服全体に低圧の空気を注入し、その問題をクリアしていた。但し、そのせいで非常に動き難い宇宙服となっている。
「五着あれば十分だよ。早くサリュビス号へ行こう」
モウやんがワクワクした様子で言う。
「アリアーヌはどうする?」
教授が尋ねるとアリアーヌは首を振る。
「バウと留守番をしています」
アリアーヌは遺体が漂う難破船の中には入りたくないようだ。
「それじゃあ、四人で行こう」
モウやんが自分の分の宇宙服を拾い上げながら言った。
「待ちなさい。モフィツはどうするの?」
教授が皆に尋ねると、モウやんが嫌そうな顔をする。
「置いて行こうよ」
教授が美しい顔に苦々しい表情。
「後で知ったら、必ず文句を言うわ。一応知らせて、行くかどうか決めさせましょう」
教授の言葉に従い、イチがモフィツを呼びに行く。
モフィツが籠城している部屋の前に行き。
「モフィツ……これからサリュビス号へ使えるものがないか探しに行きます。あなたはどうします?」
部屋の中からガタッという音が聞こえ。急いで扉を開ける気配がする。
「行くに決まってるだろ」
通路に出てきたモフィツはかなり疲れている様子だ。時々顔をピクッと引き攣らせている。精神的に追い詰められているようだ。
モフィツがどういう理由で籠城なんかしているのか理解できない。異星人の思考回路は地球人と異なるのだろうか、とイチは考えを巡らす。
イチはモフィツと一緒に中央ハッチへ向かう。
「あの屠龍機動アーマーを使って、氷塊を手に入れたのか?」
モフィツがキョロキョロと視線を彷徨わせながら尋ねる。
「もちろんです」
「何でおいらに報告しない?」
「あなたが部屋に引き篭もって、出てこなかったからですよ」
「ブヒッ、そんな重要なことを知らせないのはおかしいだろ」
鼻息を荒くしているモフィツを睨むイチ。
「救難カプセルにあった食料と水を勝手に部屋に運んで、引き籠もるのもおかしいでしょ」
「違う……おいらが大切に管理してやってるんだ」
イチは大きく溜息を吐き、無言のまま中央ハッチに到着。
宇宙服を着込んだ教授たちが待っていた。
「早く着替えろよ」
モウやんが急かせる。教授の横にはアーマー姿のソウヤがいる。
モフィツが教授に視線を向けた。
「教授、サリュビス号には何しに行くんだ?」
「使えるものがあれば、回収するために決まっているじゃない」
「食料を探すのか?」
モフィツの質問に教授は頷く。
「食料があれば、もちろん回収する。けれど、今一番必要なのはレ・ミナス号を修理するための部品や道具よ」
「何っ、目的は食料じゃないのか」
モフィツが気にしているのは、ゲロール船長から管理するように言われた食料だけらしい。
イチとモフィツは宇宙服に着替えた。裸になって宇宙服を着る。ちょっとサイズが大きいようでブカブカである。後頭部以外が透明になっているヘルメットを装着し、ヘルメットの鍵穴に起動キーを差し込みスイッチを入れる。
宇宙服に使われている布が波打ち縮み始め、ブカブカだった宇宙服がイチの身体に合わせてピッタリのサイズとなる。
「へえ、凄いな」
イチが驚いたように呟く。
全員が船外に出る準備が整ったので、中央ハッチから外へ出る。
ソウヤが装着している屠龍機動アーマーの加速力場ジェネレーターを使って、サリュビス号まで移動する。
サリュビス号に到着した五人は、最初に回収品保管倉庫へ向かう。船の倉庫は三つあり、船首の食料倉庫、中央の回収品保管倉庫、船尾の消耗品倉庫である。
回収品保管倉庫は海賊の攻撃でダメージを受けていた。手分けし使えそうなものがないか見て回わる。ほとんどは破壊され金属クズと化している。
破片が漂う中、熱心に探し回るソウヤたちの姿があった。
「超小型核融合炉がありました」
イチが通信機で伝えてきた。
「小型荷電粒子砲があったぞ」
それに応えるようにソウヤが声を上げる。
ソウヤたちは兵器や機械の部品、超小型核融合炉、工具などを手に入れた。
次にどっちの倉庫に行くか議論となった。モフィツは食料倉庫へ行きたいと主張し、教授とイチは消耗品倉庫へ行こうと主張する。
「食料倉庫は海賊の攻撃でひどく破壊されているじゃない。それより消耗品倉庫へ行った方がいいわ」
「それなら教授たちは消耗品倉庫へ行ってくれ。おいらだけでも食料倉庫へ行く」
モフィツが頑なに食料倉庫に固執するので、自由にさせることにした。
教授とイチとモウやんが消耗品倉庫へ向かい、ソウヤだけは回収品保管倉庫で見付けたものをレ・ミナス号へ運ぶ。
加速力場ジェネレーターが使えるのは屠龍機動アーマーを装着した自分だけだと諦め、回収品を荷造りしてレ・ミナス号へ移動を開始した。
アリアーヌに連絡し貨物倉庫のハッチを開けてもらい荷物を運び込む。航宙船内の荷物は必ず固定する決まりになっている。ソウヤは持ってきた超小型核融合炉などを倉庫の棚に置き固定する。
固定には専用の器具があるので簡単である。
「ふう、やっと終わりか。地球なら置いとくだけでええのに面倒なことや」
そこへアリアーヌが現れた。異星のお嬢様であるアリアーヌは、生活能力が低く料理や掃除などの家事には向いていない。その代わりケビスダール星の枢密議員の娘という身分と交渉能力がある。
ソウヤから見てもアリアーヌはお嬢様という感じだ。
「教授たちが大量の消耗品を手に入れたそうです。すぐにサリュビス号へ戻って欲しいと連絡がありました」
航宙船の消耗品とはペーパータオルやティッシュペーパーのような紙類・乾電池・照明具・洗剤・石鹸・潤滑油等である。
超未来的な航宙船の中でもティッシュペーパーは必要なようだ。文明が発達しても鼻水は出るのだ。
その時、バウからトート経由で緊急通信が入る。
『正体不明 ノ 物体ガ近付イテキマス』
ソウヤとアリアーヌの顔に不安な表情が浮かぶ。
「海賊?」
アリアーヌの言葉でコクピットに急いだ。コクピットのモニターに巨大で奇妙な生物が映し出されていた。全体的にはミミズを大きくしたような姿だが、皮膚は金属のような光沢があり、牙の並んだ口、胴体の脇腹に規則的な間隔で並んだ穴、尻尾の部分に剣山のように生えている巨大な棘。
直径三メートル、長さ三〇メートルの化け物だった。
「星害龍……イチたちに連絡や」
ソウヤが声を上げると、アリアーヌが反対した。
「ダメ、星害龍に気付かれる」
エンジンを停止しているレ・ミナス号は、星害龍に気付かれていないようだ。
「だったら、迎えに行く」
ソウヤは慌てた様子で駆け出し、中央ハッチから外へ出る。最高速度でサリュビス号に到着し割れ目から中に入り、漂う破片を掻き分けがむしゃらに進む。
やっと船尾の消耗品倉庫に辿り着く。中に入って見渡すと、宇宙服を着たイチたちが様々な物を掻き集めていた。集められた物は網のようなものに入れられている。
「大変や、星害龍が近付いとる」
ソウヤの声に気付いたイチたちが、一斉に驚きの声を上げた。




