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長方形のテーブルには、ステーキや揚げ物やパスタといったものが盛られた皿が並べられ、あるいは空になった皿は重ねられていた。その前に座る茂は、肉をナイフとフォークを使って、一口サイズに裂くとそれを頬張りそしゃくする。
「先輩、凄い食欲すね。でも、安心しましたよ」
「まあな。しかし、俺ばっかりがっつり食べちゃって悪いな。歩咲は育ち盛りなのに、本当にデザートだけでたりるのか?」
店内に入るまでは、お子さまとはいえ異性とふたりきりの食事。彼女いない歴年齢と、過酷な環境で生きてきた耀一が緊張しないわけがない。
そのはずだったが、幸か不幸か食欲に逃げることにより、いまのところ落ち着いている。
耀一だった頃から食欲旺盛だったが、それは茂になっても継続されていた。好き嫌いはなく、美味い料理なら十人前をぺろりと平らげてしまうほどだ。
「先輩、その発言は少し年寄り臭いですよ。それと、アユは少食ですし、いまはこれぐらいが丁度ですから」
「年寄り臭いって、酷えな。地味に傷つくぞ」
「あはは、冗談ですよ。その代わり、支払いも心配せずじゃんじゃん食べちゃってください」
茂の前でイチゴパフェを食べていた歩咲が言う。人は見かけによらないというが、目の前のギャルは気前がいいお嬢様であった。
家に寄りつきにくい以前の茂は、学園から生徒たちにバイト先を紹介してくれるシステムがあり、それを歩咲は割のいいバイトをちょくちょくやって、よくご馳走していたと話す。たから遠慮なく、と歩咲。
「いやいやいや、そんなわけにはいくかっ! どこのヒモ男だよっ。食った分はきちんと俺が払うからっ」
そう言って、財布から全財産をテーブルの上に出した。
茂の財布の中身はお札が入ってなく、小銭ばかりである。合計しても、五百円にみたない。
「先輩、全然足りないですよ」
「……すまん。財布にはそれしか入っていなかった」
「はぁ、先輩のその気持は嬉しいですけど、気遣いは不要ってことで」
「じゃ、貸しといてくれっ! これ以上、後輩に奢ってもらうのはかっこわるすぎるっ」
「本当気にしなくて結構なんすけど、じゃ先輩の顔を立てて期待せずに待っていますよ」
肩を落とす先輩を気遣うように、歩咲から白い歯を見せられる。
注文した分をすべて平らげ、アイスコーヒーを持ってきてもらう。茂はブラック派だ。コーヒーの苦味を楽しみながら一息をついていると、歩咲のスマホが鳴る。メールのようで、内容を確認するとクスッと笑う。
「それで、俺に用ってなんだ?」
「え? ただ先輩と話したかっただけですよ」
「おい、また俺をからかっているのか」
「からかうだなんて、ひどーい。可愛い後輩が、一ヶ月ぶりにゆっくりと喋りたいと思うのは当然じゃないですかぁ。先輩が血塗れになったとき、先輩が死んでしまうじゃないかって心底心配したんですよ。不安でなにやっても集中できないし、楽しくないし、寝つけないし。見てくださいよ私の肌、荒れちゃっていますから」
歩咲は対席から飛びつかん勢いで茂の真横に移り、そしてにじり寄る彼女は自分の腕を差し出してくる。その際、寄り添ってまたも密着してきた。ことさらなのかわからないが、ボディタッチの多さに感謝しかない。制服越しにやわらかな感触とぬくもりが腕から伝わり、圧迫されて形を変えている胸が視界に飛びこんでくる。
柔い身体が触れ、茂は固くなってしまう。
(十六歳の少女になに緊張しているんだ、俺は!)
もう、何度目になるだろうか。茂は己を罵しった。自分の半分ほどしか生きていない少女を、女と意識するとはと頭を抱える。ロリコンでも、シスコンでも、年下が好きでもないというのに、少し触れたぐらいで夢心地となってしまう。そのまま溶けていく己に戸惑った。
「先輩、聞いているんです?」
「あ、ああ、聞いてる聞いてる」
「もしかして先輩、女の子と触れたぐらいであがっているんですか? この店にくる間も、身体を硬くしていたみたいだったし」
またも、後輩の歩咲から意地悪い笑みを浮かべ、先輩の茂をからかおうとしている。それはずばりと図星をついていた。茂との密着は維持したままだ。意識した分、彼女の体温をより敏感に感じてしまう。
「――あ、あたりまえだろ。未成年とはいえ、歩咲みたいな魅力的な子と触れ合って緊張しない男なんているものか」
やむを得ず、胸中を吐露した。死んだ目をする茂は、右手の窓に視線をずらす。
押し黙る歩咲。
横手にいる、指摘した少女の顔をちらりと覗き見ると、薄らと頬を朱に変化されていく。
「うぅぅぅ、先輩おかしすぎ。そんなこと言われたらアユは……」
歩咲は何かを我慢するように身を丸め、両手を握りしめる。不意を突かれた一言に憤りよりも羞恥が先に立ち、歩咲は調子を狂わしたように見える。
サドっ気のある少女は攻めるのは得意としても、意外と攻められるのは不得意のようだった。
おかしな空気に包まれ、沈黙となる。なんだか気恥ずかしくなって、それを誤魔化すように茂は再びアイスコーヒーを飲みはじめた。
そこへ、不意に投げかけられた声が、二人の微妙な空気を壊す。
「よお、会いたかったぜ――暴虐の魔王」
突然声をかけてきたのは、いかにも物騒な言動をおこしそうな輩だった。人数は十人ほどで、誰もが精悍な悪顔。がっちりした体格をしている。そのひとりが勝手に相席して、茂らの前にどっしりと腰を落とす。
ぱっと見て歓迎できるような男ではなく、面倒事を呼び込みそうな印象を強く感じてしまう。
「先輩、怖い!」
「とても、そんな感じないから」
むしろこの展開を楽しんでいるようにも見られた。自ら喧嘩事を好むと公言するような女子だ、思いも寄らない火種を歓迎しているに違いない。
ついさきほどまで可愛らしい顔を垣間見せた後輩が、茂の腕に抱きついてくる。自分のキャラにない姿を披露してしまって、それを一生懸命有耶無耶にしようとしているようにも思えてならなかった。
「ひどーい! こんなにも可愛い後輩が怯えているのに、信じてくれないんすか?」
「よく自分で可愛いって、言えるな」
「でも、先輩はアユを魅力的と思ってくれているんですよね」
言い返せない茂は、ただただ苦い顔を浮かべた。
己の腕にひっついてくる歩咲は、茂がまったく信じないことに怒っていますと顔をさせ、ぐいぐいと実った胸を押しつけてくる。今日だけで何度も茂の腕に押しつけられ、この感触は彼にとってそう簡単に慣れるものではない。
ドンッとテーブルを叩かれる。男のごつごつとした拳を振り下ろしたのだ。
「俺らを無視して、ふざけているんじゃねぇ。軽く大男を蹴り飛ばす撲滅の鬼女が、俺らに怯えるたまじゃねぇだろうが」
「えーと、誰でしたっけ? アユたち、いちいち雑魚の名前なんか覚えてられないすよねぇ」
「……ブラッドエンジェルの幹部、斉藤だ」
「ああ、そんな男いましたね。確か、アユに左腕を折られた奴」
傍らの歩咲は、表面状は先ほどと変わらぬままだというのに、すれはあくまでも見た目だけ。少女は斉藤という男をあきらかに挑発じみた言葉を吐く。その声には殺気を乗せられ、瞳には凄絶な光を瞬かせていた。応じる斉藤と呼ばれた男も、負けずに睨み返す。瞬間、ふたりの視線は絡み合い激突し、死の香りを含ませた無形のプレッシャーが噴き出した。
数秒前の可愛らしい後輩が豹変し、不良の枠を越えた威圧感を発している。微動もせず、ぶつかり合う視線の刃は、間合いに足を踏み入れたとたん、脳に死を植え込ませる鋭さを秘めていた。
室内の張り詰める空気が破裂するかと思われたところで、茂が無頓着に割り込んだ。
「おい、止めとけよ、歩咲」
「でも、先輩」
茂は歩咲の頭を撫でながら、怒りを収めるように言う。その撫でる行為は癖だった。こっちの世界にやってくる前、割と仲がよかった少女にやっていた行為である。沸点の低い彼女に、こうやって宥めると大人しくなったものだった。
それをついついやってしまった茂は、
「歩咲はそんな怖い顔をするより、笑っていたほうが似合うと思うけどな」
すると、歩咲は狼狽し、羞恥のキャリパーを大きく越え、思考停止を迎えてしまう。おとなしくなった後輩を放置し、茂は話を進める。
「それで、俺らになんのようだよ」
「須賀さんが、お前らに会いたいと言っている」
「須賀って誰だ?」
いまだ思考停止している歩咲の肩を揺らし、彼女の正気を取り戻させ茂は尋ねた。
恨みがましい目で睨まれるも、後輩は質問に答えてくれる
「こいつらの頭で、異能者ですよ。それで、こいつらは須賀亮平の兵隊です」
そもそも、この者らはブラッドエンジェルというチームの不良であった。亮平はそのチームの頭で、一声かければ武闘派の若者が百人集まる。誰もが、亮平を畏れているのだ。
そんな彼らが自分たちになんのようだと思うのと同時に、異能者と聞き覚えのない単語の疑問を持つ。
「異能者って、なんだ?」
「やはり、聞いたとおり、記憶を失っているというのは本当だったか」
「なんで知っているか疑問だけど、間違いない」
「先輩、嫌われている上に各所で恨みを買っていますからねぇ。先輩を困らせられるような連中に、情報をリークするのは自然な流れですよ」
他を考えれば、近年SNSが流行しており、当たり前となっている。誰かがネットをあげれば拡散して広まるのはあっという間。彼らが知っていてもおかしくはない。
「で、異能ですけど、闘気を扱う人間に本条が開発したRH-890という薬を使えば、その異能と呼ばれる力が発動するんですよ」
異能とは闘気変質させ、通常のそれとは異なる力。その力は属性が存在し、さらにその属性は多種多様である。風や火を操れる属性もあれば、治癒や千里眼という属性もあった。
闘気とちがって偏った能力となるが、その能力を上手く使えこなせれば大きな武器となるのは確かで、またはその力を商売として富を得られる可能性も大きい。
しかし、反対にリスクもあった。
RH-890を投与すれば必ず異能に目覚めるわけではなく、六割程度の確率で身体が拒否反応を引き起こして二度と闘気を使えなくおそれがあった。最悪、なんらかの後遺症が残る可能性もある。さらにいえば、属性は自分が望む属性に選べず、持って生まれた気の性質と運よって決まるのだ。
リスクが大きすぎて、異能を求める者はごく少数となる。しかも、世間では異能者に向ける目は厳しくもあった。
闘気のようにもともと誰もが備わった力とは違い、異能は薬を投与して人間の身体をイジるという禁忌のイメージが強く、一部から差別対象となっている。それもあって、異能者の数は一向に増えずにいるのが現実だ。
「なるほど。須賀はその成功者というわけか」
「異能者になる奴なんて、気が知れないすね」
歩咲はどうでもいいとした口調で述べた。
魔法のような力には魅力的であるが、リスク高いなら無理強いしてまで欲しいものではない。
「須賀は近くにいるのか?」
「ああ、近場の建物でお前を待っている」
茂の疑問に、強面の男は顔色を変えず語った。
「わかった、会おう」
「いやいや、どうしてそうなるんですか、先輩。十中八九罠ですよ。須賀とアユたちは良好な関係ってわけじゃなく、むしろ険悪な仲ですから」
ブラッドエンジェルとは頻繁に諍いを起こして、因縁がある関係である。ともすれば高確率でなにかを企んでいるのが予想されると、歩咲は言いたいようだ。
まったくもってその通りで、進んで首を突っ込む理由も道理もなにもない。
だが、そこまで聞いても、微々たる逡巡もすることもなく、即答する。
「だからって、断っても面倒事に発展しそうだろ? なら、堂々と乗り込んだほうがいい」
それを肯定するように、斎藤の頬をつり上げる。
ならば、答えは決まっている。身内に手出しされるぐらいなら、たとえそこが死地だろうとも危険を顧みず、己でどうにか終わらせられるならそのほうがよっぽどいい。
そう茂は、歩咲に自分の考えを伝えた。
「先輩、冷静になってくださいよ。身内たって、あれだけ嫌っていたのに……て、止めて聞きそうもない顔をしているし」
「気が乗らないなら、歩咲は残ってもいいぞ。須賀は俺だけに用があるんだろ?」
「俺は、暴虐の魔王を連れて来いってしか言われてない」
「だってよ」
「ふざけているんですか。先輩が危険な目に遭いそうだっていうのに、アユがついていかないわけがないでしょ」
美少女の後輩からジロリと睨め、茂は軽く咎められる。
茂は素直に悪かったと謝罪し、今度リマから小遣いを前借りして飯でも奢ろうと考えた。
* *
茂と歩咲らふたりは、ファミレスへと入店した。
レイナもそれに続こうとする。だが、形のいい眉が憂慮にしかめ、アーシャが待ったをかけた。
「念のため、向かいの喫茶店で様子を見たほうがいいと思います」
二人の会話が聞けないが、後を尾けてきたのがばれるのは嫌なのもあってアーシャに同意した。それに、悪巧みに長けた歩咲の場合、罠の可能性がけっして低くはない。真意がわからない以上、少し様子をうかがったほうが得策だろう。
そのため、向かいの店で訪れるふたり。初めて入店する喫茶店。店構えやこぢんまりした様子から、個人店だろう。店内は落ち着いた色彩をつかった内装と、テーブルや席といったものの一つひとつがこの空間に調和する備品の数々。亭主のこだわりを窺えさせる。
レイナらは即断で窓際に座る。運よく茂たちも窓際で、彼らの姿はちょうど見えた。
レイナが注文したのはフルーツジュースをお願いし、アーシャはカフェオレだ。それぞれが、自分が頼んだ飲み物を口にして、二人に目を凝らす。
茂と歩咲のふたりは楽しそうに食事をし、会話を楽しんでいる。さながら、バカップルのように乳繰り合って、茂の顔は終始弛みきっていた。自分たちがやっている監視が、馬鹿らしくなってくる。
何事にも、冷静に対処しようとする妹がムッとしたような顔をさせ、彼女を包む空気が重くなっていた。
彼女が手に持っていたカップにひびが入り、そして割れる。中身がテーブルにこぼれ、広がっていく。
妹の怒り具合に驚き、かえってレイナは冷静でいられた。
「確かに、こっちの気もしらず女にかまかけていて腹は立つけど、あんたがそこまで怒るほど?」
「怒っていません」
「どの口が叩いているのよ。まったく五年前のあんたなら、私たちの後を追いかけて可愛いらしい顔を浮かべていたのに、今じゃすっかりすました顔が板についたわよね」
昔は甘えたがりの少女だったというのに、茂が来てから徐々にそれもなくなって毅然たる態度となった。茂の横暴な態度もあって、アーシャなりにリマやレイナに負担をかけまいとする考えからの行動だろう。そう思うと、やはり茂のことが許せない気持ちが増すばかりだ。
「手のかかる兄や姉がいるのだから、しかたがないと思います」
「……なぜ、私も?」
「当然です。茂兄さんに怒りを覚えるのは仕方がありませんけど、もう少し抑えてくれないと家の中まで雰囲気が悪くなって落ち着きません」
「う……悪かったわよ。だけど、私にはどうして、あーも二人があんな奴を気にかけているのかが、ちっともわからないわ。あいつが女に言い寄られたぐらいで、動揺しちゃうのも同じにね」
おしぼりで、零れたカフェオレを拭き取りながらレイナが思ったことを述べた。
アーシャは少し拗ねたように唇を尖らせる。
「――そんなことありません」
「自覚がないなら、重症よね」
「なんだかんだいって、茂兄さんを気になるレイナ姉さんだけには言われたくありません」
「気になるじゃなくて、私は監視だからふたりとは違う!」
否定するも、アーシャの目は納得してないと語っている。レイナは言葉を続けようとしたところで、茂らのもとに怪しげな集団が現れた。
「なにあいつら、歩咲の悪巧みにしては険悪な様子ね」
「さあ、なにか動きを見せるまで、もう少しまったほうがいいと思う」
「でも、いいの? あいつが危険かもしれないけど」
今日の授業で、茂は闘気を使えなくなっていたことをアーシャに話す。茂の隔絶した強みは、天性の闘気の優秀さにある。気の総量と精密な制御さは、他を圧倒していた。
その強みがなくなれば、ただの喧嘩なれした不良だ。ひとりならいざ知らず、多人数なら確実に負けるだろう。
「大丈夫です。私の視界に収まっているかぎり、いつでも殲滅できますから。それにしても、茂兄さんをあれだけ嫌いと言っているくせに、やっぱり心配ですか?」
「うっさいわね! 茂になにかあれば、姉さんが哀しむでしょっ」
逸っていた己の気持ちを指摘され、レイナは顔をしかめる。彼らに動きがあった。茂と歩咲は立ちあがり、場所を移動するようだ。
「私たちも行くわよ」
レイナの言葉に同意し、アーシャを連れて喫茶店を後にした。
茂らに気づかれない程度に距離をあけ追っていると、彼らは人通りの少ない閑散とした路地に入っていく。雑居ビルに囲まれた路地は陽光を遮り、薄暗い。自分たちが踏み込んだ場所が、知った街から切り離されたような錯覚を覚えてしまう。
彼らの背中が視界に収まっているはずだが、入り組んだ場所もあって見失いそうだ。
慎重な足取り進むレイナであったが、その歩みは不意に止めた。嫌な気配を感じたのだ。アーシャも気づいたようで、気配を捉えた方を見つめる。
「はーい、ストップ。ここから先は行かせられねえ。素直に引き返してくれるなら、こっちは手出ししないがどうする?」
建物の陰から、男性の姿を現す。リマと同じ年か、少し上だろうか。唇の両端を大きく広げ、好戦的に瞳を灯していた。体躯は細身で、パワータイプではなさそうでる。
一人だけではなく、その背後に五人が控え、先頭に立つ彼とは対照的に屈強そうな体格をさせていた。
悟られないように注意を払っていたが、どうやら彼らに気づかれていたようだ。
「レイナ姉さん、この人たちは私が相手するから先に行ってください」
「けど、ふたりで相手すれば早いでしょう」
「そうしているうちに、茂兄さんの姿を見失ってしまったら、探す手間がかかっちゃいます。だから、行ってください」
「残念だが、行かせねぇよ。上から邪魔な奴らがいたら排除するように言われている。それに、あのサリヴェールフ姉妹と戦えるチャンスはめったにねぇし、本当に逃げられると困るがよ」
男は笑んで、瞳に怪しい光を増していく。この男は戦闘狂だった。初めから、レイナとアーシャを逃すつもりはなく、レイナらを倒せば彼らの名を高められると考えているのかもしれない。
男が先手を取ろうと動いた。そのときだ、彼らは唐突に為す術もなく、あたかも見えざる手で殴打されたようにその身に衝撃を受ける。その威力は凄絶で、彼らは一緒くたに薙ぎ倒された。肉が打ちつけられる鈍い響きがともなう。
左右の壁や地面に叩きつけられる。受けた輩は壁面にひびが入り、地面へと沈ませた。
「いまです!」
「……ごめんっ」
レイナは苦々しいながら妹を残し、茂の背中を追ってこの場から走り去った。
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