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暴虐の魔王  作者: ショウゴ
7/15

1-6

遅くなりました。

腕に自信がある人材の多くは警備隊の配属を希望している。レイナもそのひとりだ。そんな中、さらに規格外な才能の持ち主がいる。レイナの隣で闘気を操るエルザだ。

 

少々正義感が強いため、茂のような素行不良な生徒と対立しがちである。わからずやの茂でなければ、揉める前に彼女の顔をみた瞬間に戦意喪失するか、脱兎の如く逃げ去るのが大半だ。


絵に描いたようなエリート街道を突き進む少女である。

 

そんな才女に、レイナは若干苦手意識があった。

 

ライバル視していると認めてもいい。レイナもまた、文武兼備と他から認識されがちだが、彼女自身はそうは思わない。


負けん気が強いも、本当の天才はエルザのような人物をいう。自分など遠くにおよばない。

 

レイナは心のどこかで、劣等感を感じてしまう。狭量(きょうりょう)であるが、レイナの醜い感情が彼女を認めようとしなかった。幼稚舎から必ずレイナの上に立ちつづける人間。意識しないわけがない。


「はぁ、本当ちっさいな、私」

 

女子生徒はしっかりと柔軟体操を終えると、闘気のコントロールする訓練だ。早ければ幼稚舎の高学年でできる者もいる。

 

彼女らの両手には、闘気の発動を阻害する腕輪がはめられていた。この腕輪は本条コーポレーションが開発した特殊金属で、フェイラーの腕輪と呼ばれている。

 

その効果は細胞のヴンダーへの負荷をかけることにより、気の総量を増やすことができるのだ。まさに、筋肉トレーニングの筋肥大のようである。

 

成長率の高い時期は十代といわれ、三十代にさしかかれば(いちじる)しくその伸び率が落ちる。そのため、本条学園では積極的に生徒らを、闘気の成長を促していた。

 

つまり、今回も地味な訓練だ。その後はひたすら組手だろう。だが、どれだけ凄い強者も、基礎訓練をはぶいて高みに登った者はいない。

 

負荷をかけたまま身体強化させ、武術の型を訓練はじめる。雷撃のごとく殴打で射抜く、一撃必殺。あまりの威力に、使用相手を選ぶ技だった。技名は、華爪衝(かそんしょう)。天己流の創始者で、雷帝と呼ばれた男が得意とする技のひとつである。

 

本条学園の生徒は天己流を学び、卒業するころにはほぼ全員初段をとっていた。段位は十段階となっており、現在レイナは三段でエルザは四段だ。高等部で四段はかなり優秀であるが、エルザに比べれば劣る。ちなみに一八歳未満でとれる段位は五段までで、リマは高等部にあがる頃にはとっていた。

 

姉の矜持としても、アーシャにおいつかれたくないが、彼女はすでに三段と迫っていた。自信をなくすレイナは、自然と溜息がこぼれる。


「どうした、レイナ・サリヴェールフ?」


「いえ、別に」


「そうか。無理はするなよ」


「はい」

 

彼女に声をかけたのは、女子に天己流を教授する教師の名はラウラ。インドネシア出身だ。本条にスカウトされるほどのその道では有名な傭兵で、幼い頃から戦場で戦ってきた女性である。


「らしくありませんわね。なんだか集中できていない様子ですわよ。私たち(・・・)は(・)()の(・)生徒(・・)と(・)少々(・・)違う(・・)とはいえ、天己流を学んで損はないはず」


「なんでもないったら」

 

エルザが闘気を発動させながら声をかけてきたが、その言葉に素っ気なく答えた。


「あれから、少しは茂との仲は進展されましたの」


「はぁ、なんでそうなるのよ。馬鹿馬鹿しい」


「そう? 以前と違って、茂への厳しい視線が多少和らいでいるように感じましたけど」

 

私は気づきましてよ、と彼女は端正な口元に微笑みを象っている。自分では気づいていなかったが、目ざといエルザに苦虫を噛みつぶしたような表情で睨んだ。


「ぜーたいに、ありえないから」

 

ふと、周囲の騒ぎを聞きつけ、エルザの人情をたたえた瞳から、鋭い刃のような瞳へと切り替わる。背後に振り返って男子の方を窺った。怪訝するレイナもつられてそちらに視線を向けると、そこには茂と対峙する白井がいる。


二人が話し込んでいる間に、周りクラスメイトらは授業を中断して、好奇な目を集めていた。


白井は自己顕示欲が強く、自尊心の塊のような男。茂と違った意味で問題児だ。父親が東京都知事をやっているのに鼻をかけ、不遜で傲慢にふるまう学生である。レイナには、ろくでもない予感しかできない。


「ねえ、本当にやるの。だって、今の彼は闘気を使えなくなったのでしょう」


「危険じゃない?」


「でも、不良がどうなろうと関係ないわよ」

 

近くで話すクラスメイトらの会話から、茂が闘気を使えない、という言葉が飛び込んできた。レイナは絶句する。そういえば、リマと茂が闘気について話していたような気もする。


「そうよね、本条学園の名に泥を塗るような奴が怪我をしようと、誰も助ける気がしないだろうし」


「というか、正直害虫駆除になるんじゃない」


「ははは、それいいすぎじゃない?」

 

三人の女子生徒は茂を好き勝手に悪態ついて、侮蔑の笑い声を響く。彼女らだけじゃない。この場にいる全員が茂を蔑み、お手並み拝見という立ち位置で見ていた。怪我をしようが気を留める者は誰もおらず、些末事。

 

彼女らの態度はやむなしで、茂はそれだけの問題を引き起こしてきたので当然ともいえる。


(私には関係ない)

 

茂から謝罪されようが、レイナにとって彼がどうなろうとかまわない。その気持ちは揺るぎない。彼が蔑み誹謗中傷を受けようと――

 

なのに、胸内の中は静寂を許されず、わだかまりがうねりを上げてかき乱された。見て見ぬふりをしている己にほんのわずか苛立ち、ほんのわずかだが罪悪感を覚えてしまう。


レイナは自分の心情が呑み込めず、戸惑っていると赤髪の少女が口を開く。


「そこ、陰口とは感心しませんわよ。自分たちの品位を下げる行為だと気づきませんの」

 

エルザは三人組を(たしな)め、圧するような厳しい視線を送る。


少女らはばつが悪そうな顔をさせた。彼女たちだけではない、その他の女子生徒らも同様だ。

 

エルザはすぐに動き、男子たちの練習の場に歩きだす。


「ふたりを止めるき」


「当然ですわ。茂とは蟠りがありますが、こういったことには見て見ぬ振りができない性分ですもの。まあ、唯一私に挑むことを諦めない男の彼が、闘気を使えなくなったという話には正直疑問ですけど」

 

茂は闘気の使用者としては優秀というのもあり、そのせいでエルザや学園の風紀の乱れを正す武闘派の風紀委員を手間取らせていた。

 

エルザはレイナの顔を見て、貴方はどうすると語るような目を向ける。ふたりの間はほんの一時であるはずだが長く感じ、レイナは「そう」と一言返しただけだった。

 

赤髪の少女はなにもいわずに目線を打ち切り、エルザはふたりのもとに向かおうとしたところで、


「待て、エルザ。おそらく、坂木先生には何か考えがあるはずだ」

 

呼び止めたのは、ラウラだった。


「一方的な暴力が振るわれようとしていますのに、どんな理由があるというのですか」


「坂木先生は天己流の達人だ。相手の力量をあるていど見ただけで把握できるだろう。それが、ふたりの組み手を許可したということは、問題ないということだ」


「闘気を扱えない人間と戦って無事でいられると? 私にはとうてい信じられませんわ」


「同感だが、私は坂木幸多という人物を信頼できる教師だと考えている。それは彼の教え子であるお前らがよく知っているはずだ」

 

風貌や態度からは熱意がまったく感じられないが、とライラは薄く笑む。エルザは納得してないながらも、渋々彼らのもとに駆けつけるのは思い留まった。

 

ふたりが話している間に、茂と白井の組み手が始まった。

 

白井と対峙する茂。白井はニヤついて、嫌な予感を濃厚にさせる。坂木がそれに気づいているかはわからないが、傍観に徹している。

 

レイナらに聞こえないが白井が何かを語り、茂の返事がすべて喉から出終わる瞬間。

 

突風が茂の傍らを吹き迫った。

 

それが白井だと視認したのは、その動きを事前に読んでいた茂が躱したのちである。そのスピードに乗った少年の速度は、彼の予想を超えるほどではなかった。


白井は避けられると思っておらず、驚きの顔を浮かばせながら彼の側で急停止する。運よく躱したと思いなおしたのか、横殴りに切り返す。

 

白井の表情は怒りに満ち、茂に罵倒を浴びせた。

 

しかし、茂はその拳打の軌道を冷静に捌き、白井の突き出された拳は傾げる首もとを通りすぎる。避けるのと等しいタイミングで、彼の顎に拳をはなっていた。

 

茂の体格に見合った力と速さは、カウンターとなって見事に当たる。白井は膝から力が抜け、その場で横合いに崩れ落ちた。

 

武道場は耳が痛いほどの静寂に包まれ、人の息づかいが聞こえてくる。

 

あっという間の決着に、この場にいる一同は背中に戦慄が駆け抜けた。白井が勝つ決まり切った結果が、思わぬ結果で覆されたのである。彼らの驚きはもっともだ。

 

白井は闘気の総量は足りているが、制御が不得手だった。そのためか、守りの甘さから綻びがうまれ、闘気を活用しない打撃でも通じてしまったのだ。さらにカウンターで顎を強打されれば脳震盪(のうしんとう)が起こり、無視できないダメージを食らうだろう。相手が闘気を使用できないとはいえ、完全なる油断だ。


「終わってみれば、圧勝とは。やはり、問題児にしとくには惜しい人材だ」

 

ライラはそのように呟いた。エルザは信じられないという表情をさせており、その気持ちにはレイラも同感であった。


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