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暴虐の魔王  作者: ショウゴ
2/15

1-1

春日部耀一は目を開けると、気怠い身体を起こして辺りを見回す。寝かされていた場所は、ホテルのような豪華な一室だった。窓にはレースカーテンがかかっており、外の様子が見えないようになっている。もっとも単純に、カーテンを開ければ見えるだろうが、左腕には点滴を投与されて身動きがとれなかった。


一体ここは何処で、自分が置かれている状況が理解できないが、気持ちを落ち着かせてから朧気(おぼろげ)な記憶を辿り寄せる。


「確か、俺は映画の撮影をしていて……」


そして、爆発に巻き込まれて終わったかと思いきや、今は見知らぬ部屋にいた。とても助かるような状況ではなかったのだが、自分の怪我の具合を見ると頭部や腹部や左腕、右足に包帯が巻かれていた。充分重傷であるが、あの事故の規模からすると比較的軽傷に思えなくもない。


「あの爆発のなかで、運よく助かったのか――いや、違う。俺は生き返ったんだ」

 

あの草原で、観察者アグラーノと出会ったことを思い出す。


「そうか、俺は別人になったのか。確か、死んだ人間で生き返すっていってたし、ここは病院か?」


混乱していた耀一は次第に状況を理解してきたところで、眼鏡が似合う知的な女性が入室してきた。

耀一が誰だという顔を見せていると、


「私は君の担当している医者だ」


彼女は愛想のない顔と熱のない口調で担当医だと話し、自分の身に何が起こったのかを説明してくれた。ちなみにここは日本の病院で、一泊数十万する特別室だと教えてくれる。しかも、日本語で。


担当医は日本人で、名は西宮皐月(にしみやさつき)。美麗であるが、残念ながら胸は薄めだ。


どうやら、耀一の新しい身体は日本人と思われる。


耀一は、割のよいバイトをしていたが今は別人だ。そのような大金を払えるか疑問である。


「先生、俺なにやって怪我しちゃたんでしたっけ?」


「何を言っている、(しげる)・サリヴェールフくん」


担当医に可笑しな事を、といった不思議そうな顔をされ、「大丈夫か」と心配される。


一瞬、返事が遅れてしまう。サリヴェールフって、明らかに日本人の苗字ではない。


「……えーと、茂・サリヴェールフって俺の名前?」


「どうやら、あんな事件に遭ってしまい、記憶に混乱が生じているみたいだな」


「みたいっすね」


「落ち着いて私の話を聞いてくれないか? その後に質問を受けつける」

 

耀一はわかったと、頷いてみせた。


ひとまず担当医に耳を傾ける。話によれば、茂という男は六日前に何者かに暴行を受けたようだ。レーザーのような超高温の熱線で、数カ所貫通する傷を負う。その結果、心肺停止する重傷から、生死の境を彷徨っていたらしい。


「ちなみに、貫通箇所は腹と左腕と右足。出血量から普通なら助からないものだが、それが覆せたのは運がよかったのが大きい」


レーザー、と疑問符が頭に浮かぶと同時に、茂という男はとんでもない奴に殺されかけたようだ。


「それで、その犯人は捕まったんですか?」


担当医は首を横に振る。つまり、まだ捕まっておらず、逃亡中のようだ。どこへ逃げたかも、手がかりが見つかっていないと語った。


「それにしても、君の回復は驚きを隠せないな。普通は一週間や其処らでは治らない物なのだが、それが完治している」


「君は本当に人間かね」と尋ねられ、「いやぁ……」と間の抜けた答えしか返せなかった。観測者様々のおかげである。


自分の手で、自身の顔や身体を触ってみる。記憶にある耀一の身体の違いを確認していく。


日本人の平均身長ぐらいで痩せすぎず、適度に筋肉が備えられていた。


「どうした?」


担当医が突然自分の顔や、身体を触り初めた茂を訝しげな目を向ける。


「あの、先生。鏡とか持っていません?」


「手鏡なら持っているぞ」


鏡を借りて自分の顔を確認してみると、別人となって生き返ったために当前だが、そこには記憶にあるのとは違う顔があった。改めて己が現実に別人の姿になったのだと、声もあげられずに唖然とする。


映る姿は成人を超えた男はなく、高校生ぐらいの少年。比較的に整っている部類にはいる顔で、しかし目つきが妙に鋭く、子供に怖がられるタイプだ。平たく言えば、悪人面。自称端正よりの耀一には劣るものの、決して悪くない。


だが、喜んでばかりはいられない。


(茂という少年になりすますのは、簡単じゃないよな)


耀一はどこどこの茂となってしまったが、記憶は耀一のものしかない。となると成りすますのは不可能だ。


だからといって、自分の身に降りかかった不可思議な状況を説明すれば、白い壁の監獄に閉じ込められそうである。


(安直だが、あの手を使うか)


「実は――」


と、そこで病室の扉が勢いよく開き、耀一の言葉を遮った。


「……はぁ……はぁ……」


誰と確認する暇もなく、学生服を着た白人のスレンダー美少女が、耀一を改め茂が寝ているベッドの方へと駈け寄ってきた。少女は急いでこの病室までやって来たのだろう。息が上がっており、センター分けされた前髪と背中まで届く後ろ髪が揺れていた。


(純日本人顔な茂の関係者みたいだけど、ド派手な銀髪の少女とどういう仲だよ)


「あの、君は……あ、日本語通じる?」


「……ふざけています?」


流暢(りゅうちょう)な日本語で、質問を質問で返される。冷ややかな口調だ。茂の一言で、機嫌を悪くさせてしまったらしい。それはそうだ。急いで駆けつけてみれば、心配した相手に「君は誰?」と言われれば誰だって腹は立つだろう。


しかし、知らないものは知らないのだ。その場凌ぎで嘘ついてもすぐにボロが出るうえに、よけいに相手を傷つけてしまうだけだ。


「えーと」


なんと事情を説明すればよいのだろうかと手間取っていると、綺麗な顔立ちがゆがんでいき、切れ長の瞳が鋭くなる。


「頭を使うのが不得意な茂兄さんでも、さすがに自分の妹を忘れるとは思っていませんでした」


私の見通しが甘かった、と少女の凍りつく青い眼で冷ややかに言う。少女から教えられた唐突な事実に身じろぎした。茂は大いに混乱する中、謝罪の弁を述べるより早く事実確認を求める。


「妹って、嘘だろう!? 明らかに人種違うんだけどっ」 


惚けているわけではないが、妹に嫌みを言われても平然としている茂の様子に、逆に少女が静寂に苛立ちを強めた。目を細めて、彼女の周囲から絶対零度の空気をかもしだす。


「ち、違う! わけを聞いてくれ」


耀一は危険な空気を察知し、少女を必死に落ち着かせた。 


「そこまでにしよう。彼が君のことを忘れているには理由がありそうだ」

 

僅かに眉間に皺を寄せ、静かに怒りを露わにしている少女の間に入り、担当医が場を収めてくれた。


「どんな理由ですか」


「実は俺、記憶がないんだ」


「――それは、思ったより深刻だな」


耀一のあっけらかんとした爆弾発言を耳にし、ふたりは個人差あるも驚きの顔を見せた。


読んで頂きありがとうございます。


今日はこのあと、もう一話投稿します。


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