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空にある星  作者: にゅーたろ
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冬の空


寒い冬の夜は星がよく見える。


それは空気が澄んでいて不純物が空中に少ないためなどと言われているが、そういった事は細かい事はあまり気にしなかった。

結城春人は星を見るのが好きだ。

いつからそうだったのかは覚えていないが、恐らくきっかけは幼い頃に両親と妹を事故で亡くしてからだ。


「春人ちゃん、お母さん達はね、お空の星になったんだよ」


幼い頃、両親を事故で亡くした際に祖母は優しく教えてくれた。

飛行機事故だったらしい。

らしいというのは、小学校3年生の頃だったためニュースや周りの大人たちの話しをあまり理解できなかったためだ。

事故については、中学の頃ようやく当時の記事を読んで理解した。

機体は空中で何かしらのトラブルに会い、突如として消息を絶ったという事だ。

懸命な捜索にもかかわらず発見できたのはほんの一部の機体の外壁のみであり、乗客の遺体など犠牲者を確認できるものは何も見つかっていない。

当時の調査結果では機体は空中でバラバラに分解され、深い海の中に沈んでしまったとの事だった。

ただ海の中に沈んだと証明するものは何も無い。

祖母が空の星になったと言ったのはそのためなのかもしれない。

もしかすると両親は深い海の底などにいる訳ではなく、本当に空の星になったと祖母は伝えたかったのかもしれない。


「今日はオリオン座の三ツ星がよく見えるな」


飲食店のバイトの帰り、誰に聞こえるでもなく呟いた。

時間は深夜の0時過ぎ。

バイト先のある繁華街から離れ、住宅街に差し掛かると通りを歩く人は極端に減り、見える範囲では自分一人だけである。

女性だったらこんなところ歩き回らせられないな。

誰を想像するでも無くそんな事を思った。

というのも、生まれてから今まで女っけというものを感じる事は無い人生だ。

高校の頃は思えば少しは女性と接する機会もあったと思うが、

幼い頃から親代わりに育ててくれた祖父母が体調を崩してからは、周りを気にする余裕なんてなかった。

祖父母の意向と遺産によって何とか大学に進学はしたものの、その後は学費をバイトで稼ぐ毎日だ。


年は昨年末に二十歳になった。

二十歳といえば酒やたばこと色々解禁されてさぞ嬉しい人もいるのだろうが、

どちらにもさして興味の無い自分にとっては、二十歳になるという事に何の感慨も湧かなかった。


(趣味くらいは見つけた方がいいかな……)


ここ最近はバイトに勤しみすぎて自分の時間すらろくに取っていなかった。

さすがに楽しい盛りの大学生のはずだ。

もう少し生活を楽しんでもいいのかもしれない。


再び空を仰ぐ。

今日は雲一つ無い快晴だった。

この夜空なら、きっと明日もかなり冷えるのだろう。


ーーーーぇて


空を見えげて物思いにふける最中、ふとそんな音が聞こえた気がした。

消え入りそうな音というよりは声。

春人は訝しげに辺りを見回す。

しかし特に変わった様子は見受けられなかった。


ーーーーけて


まただ。

さっきよりもはっきりと聞こえた。

間違いなく声だ。それも女性の。


春人は立ち止まって再び辺りを見回す。

もしかすると女性が襲われているのかもしれない。そんな考えが脳裏をかすめた。

しかし何も見当たらない。

もしかすると別の路地かもしれないと、先の曲がり角を確認してみたがやはり何も無い。


「空耳・・・かな」


そう思って空を見上げる。

もしかするとここ数日バイト続きで疲れているのかもしれないななんて思い、少し自傷気味み口元ゆがめた。


ーーーーたすけて


今度ははっきりと聞こえた。

しかし、春人にはその声に反応する事はできなかった。

『声』が聞こえると同時に、何か恐ろしく強い力で後ろに引き落とされる感覚が春人を襲った。

体というよりは心ごと地面に落とされるような強い感覚。

しかし、不思議と背中の先に地面を感じる事はなかった。

春人の意識はそのまま何かに沈み込むように落ちて行く。

意識が遠のき視界の輪郭が黒く染まっていく。

深く、黒く、どこまでも続く闇に落ちていくように。


最後に視界に映ったのは何だったか。

薄れゆく視界の端で3つの明かりがひと際輝いて見えた気がした。

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