REMEMBERーWorld Dark Memorialー番外編
上界、第一管理室。
此処はいつも暗く、何もない。どことなく広さの分からない黒い空間が蠢くように広がっているだけである。
「あーあぁ…今日も何もないなぁ…。」
そんなことを吐いて寝ころがって伸びをするモノがいた。どうにも退屈そうで暇を持て余している。
このモノがそう、この空間の主であり、密接に繋がっている下界、幻視界を含んだこの世界の主であるモノである。
ーつまんなさそうにのんびりしてるもんだな。
ふとそんな声が聞こえてくる。青い薔薇が生えた頭を動かしてみれば上から覗き込むそっくりな顔の誰かが居る。
「…超超超久しぶりだな、こっち来るの。」
「まぁ…お前がこっちにちょこちょこ来たせいでな。」
「今日は着物なんだな?」
寝っ転がったまま青い着物の裾を引っ張った。その誰かは肩をその布に引っ張られてふらついてしまった。そのまま座り込み、あぐらをかく。
「向こうじゃ今日は年の瀬だからな。」
「そうかもうそんなに時間が経ってのか…ところで大主。」
大主と呼ばれた誰かは暗くなっていた顔をあげた。黒髪と黒目が映る。
「このタイミングで此処に来るだなんて、どうやら気まぐれは治ってないようだね?」
「同じようなこった。この前つまんないからって全部壊しかけたくせに。」
「あん時がこっちの年の瀬さ。そういうなんだろう?」
「色々違う気がするが…まぁいいか。」
「面倒臭がったな?」
「正直お前と話してるのも面倒くさい。」
「そう言いつつこっち来て話してるし向こうでも話してるっしょ。本音は?」
そういって起き上がって顔を覗き込んでにっこにこした顔で問う。
「どうせ向こうで暇になってSNSも話に行けなくってこっちにきたんd、あでっ。」
「…お前はもう少し煽らずに話せないのか全く。」
言葉を遮るように頭を掴んで下に伏せた。
「…貴様が短気なだけだ、弱いお人好しさん」
抗うように頭をあげて顔面が瞳に映る。諦めたように大主は手を離した。
「どうせ喧嘩したって勝ち目はなかろう。」
「でたっ、負け戦はしない癖。」
沈黙が流れる。只々黒いものが蠢く音がするだけである。
「それで?今年は何があったのさ?」
「…わかっているだろう?」
「今からMのところにでも行って、記録つけてもらおうじゃん。」
「…まぁいいだろう。」
「着替えてく?」
「…お前それ以外の服持ってたっけ。」
「失礼な~!持ってますぅ!」
そういって奥に進んでいった。
ーー
「なんやかんや言って結局そのパーカーなんだね。」
「良いじゃないか別に。向こうでもこれだし。」
「悪いとは言ってないぜ、さっきまで着物だったのにおしゃれしないんだなって。」
「興味ない。」
「あっそー。」
そうだべりながら、大きな扉の前まで来た。洋風な木彫りの扉についた金具を持ってゴンゴンと音を鳴らす。
「…BR…そんなに乱暴にならさなくても良いんじゃないか…?」
「お前忘れたの?Mは集中してると音聞こえなくなるの。」
「あぁ…そういえばそうだったな。」
ガチャと扉が開いて中から赤い瞳と歯車に見える瞳をのぞかせた。
「…いらっしゃい。」
無表情の顔とは別に嬉しそうな声でそう迎えてくれた。第5の管理者である。
中に入れば沢山の本が目に映る。横から機械の馬が顔を寄せてきた。
「元気そうだな。」
「おかげさまで。長くこちらに来てなかったご様子で、今日は何を記録する。」
「あぁ、新しく入れたい物がたくさんあるんだ!」
いつからかけていたのか、ショルダーバッグの中から沢山のメモを取り出してきた。
「…それすべてこの期間の間に書いたのか。」
メモ用紙は手から溢れ出る程あり、よくよく見るとびっしり何かが書き込まれている。
「前までスッカスカだったメモ用紙も、今じゃこんなに埋まるんだねぇ。」
「腕が鳴るな。早速始めるとしよう、任せなさい。」
まとめた青髪を揺らして、義手がむき出しになったほうの袖をまくった。
「頼んだよM、これがないと色々不便になりそうだからな。」
ーー
「…まさかあの量でも一人でやると言い出すとは。」
「お前の癖がまんま移ったな」
「私はもう助けくらい呼べるわ。」
「ほんとにー?」
「う、うるさいっ。」
「うぇーい。…んであいつの様子もみてく?」
「そうしようか。」
そういって2人は同じく下にまとめた黒髪を上になびかして下に降りた。
ーー
「…誰か来るな。」
宝石の森、その奥深くの中心地。千年樹の中。
この世界の物語の主人公、最後のカギとなる第4の管理者がお茶の入っていたカップを置いて外からは視認できぬ窓枠から外を眺めた。
「誰が来るかまでわかるかい?賞金首さん。」
クッキーをつまみながら黒髪に赤いメッシュの入った悪魔の第8管理者が訪ねた。その横では光の第7管理者が白髪を揺らしてお茶を飲むのに苦戦していた。どうも熱くて飲めないらしい。
「主だろう。もう一人近くにいると思うが。」
熱がる第7管理者のお茶をそっと取ってテーブルに置き、静かにケーキを進めながらそうスーツ姿の第6管理者はぶっきらぼうに言った。そのモノは何も口にしていない。
「原始様ですか?じゃあお隣は亡霊様では?」
「多分違うな。今さっき、森を九尾の姿で駆けていったところだろう。」
第11管理者の言葉に第4管理者はそう答えた。
静かなお茶会にお茶の湯気がふわりと舞う。
しばらくしてBRが大きな音を鳴らして扉を開けてやってきた。後ろには誰かがBRに手を引っ張られてついてきている。
「っいやっほー!S!何してるんだー?」
「もう少し静かに入ってこれないのか…見ての通り仕事終わりのお茶会さ。」
Sは呆れたようにそう答えた。彼女はあまりお茶にも手を出していないようで、もうカップからは湯気が消えていた。
「お邪魔しても?」
「…大主様ー!?」
全員吃驚して(一部は唖然として)BRの後ろからひょっこり現れたそのモノを見つめた。
「…もう、もう来れなかったんじゃないのか?」
「こいつのせいだ、察してくれ。」
「そうか誰かと思ったら大主だったのか。久しぶりすぎて気配の感覚を忘れていたようだ。」
「外の世界の話!聞かせてください!」
「あたしも!あたしも聞きたい!」
「N,天照、いったん落ち着け。そう慌てても何もまとまらない。」
Nと天はわっと立ち上がって目を輝かせた。
「…こうも私は人気だったかな?」
「さーね?まぁまぁ、ゆっくりしていったらどう?久しぶりに自分の子供たちと話せるんだから。」
「…お前も一緒な?」
「俺は遠慮しとくぜ…?」
そういって出ていこうとしたとき手を持たれた。
「だーめだ、これは命令だぜ?戻るんだったら咲とM、Oも連れてくるんだぜ?」
「なーんだよ、なんで僕が…」
「…大主命令だ」
にっと笑って手を離した。前の開いたパーカーの隙間から雫の形をした首飾りが光った。
「権力の荒使いだなぁもう…わかったよ。」
「ふふ…久しぶりにみんなでお茶会といこうじゃないか。」
【逆転幸福少女ー大主とその小さく大きな世界のその後の話】
これで書き納めです!
今回は番外編、年の瀬に投稿でした。
ではまた来年、あの世界でお会いいたしましょう!