第1話 『まぁ、来ました。異世界転。』
第1話
『まぁ、来ました。異世界。』
よく、昔に行きたいとか、異世界に行きたいって言うでしょ?
言わないとしても思ったりするじゃんか?
で、それってさ、歴史の偉人って呼ばれる奴らのした事を見たり、聞いたり、読んだりしてすげぇって思って、俺もしたいなぁ〜って憧れたり、俺が行ったらワンチャンあるんじゃね?って思う感情が主な理由じゃん?
でも、良く考えて見てよ。
そういう人達は才能とか人才とかあって、その上で涙ぐましい努力があって『偉人』って呼ばれるだけの事があるわけよ。
だからこそ、奇想天外でロマンチックな人生を歩めたわけで、実際に俺みたいな凡人がタイムスリップしたり、異世界に行ったとしても、今と変らないわけじゃんか。
ただ、生活水準が変わるだけの生活。
「ハラヘッタ」 「明日仕事だ」 「金がない」
そんな事を呟きながら毎日を過ごして、毎日を
一生懸命生きて死んじゃうだけの生活。
近所の人に「あの人はいい人だったね」
って言われるだけで終わると思うんだ。
10年ぐらいしたらみんな忘れちゃう存在。
ま、何でこんな哲学的で、ネガティヴな事を考えているかっていうと暇すぎるんだ。
せっかくのお盆休み。
社会人にとって貴重な連休に哀れにも俺は初日から体調をぶっ壊した。
そして4日寝込んで休みも明日で終わりだ。
ワクワクしながら考えた計画は全てドブ川に流れた。
しかも、今だに体調が悪いというクソみたいな現状。
多分、神様は俺の事が嫌いなんだと思う。
だから俺も神様が嫌い。
「……」
ただ、布団で寝てたって腹は減る。
重い身体を引きずって、冷蔵庫を開けると、見事に空っぽになった冷蔵庫から爽やかな冷気を感じ取れた。
「……はぁ……」
非常についていない。
現段階で俺は世界一不幸なのかもしれない。
「しんどい……」
一人暮らしの利点は自由な所。
それ以外は全てデメリットだ。
こんなに身体がダルいのに、食材が沢山入ったビニール袋を家まで持って帰らなくちゃいけないんだ。
細くなったビニール袋が手に食い込んで痛い。
本当にクソだと思う。
今なら世の中に不満を持ってテロを起こす奴の気持ちが少しはわかる気がする。
横を見ると大学生だろうか?
やけにハイテンションの集団が馬鹿騒ぎをしながら居酒屋から出て行った。
もし、自分も体調を崩さなければ友人とあんな風にしていたんだろうと思うと、何だかやるせない気持になった。
大きくため息をついて再び横を見ると先ほどの集団が型落ちの黒いセダンに乗る姿が見えた。
飲酒運転かよ……。
若いって怖いな。
奴らは何にも怖くなくて、自分だけは大丈夫って思い込んでいるんだろうな……。
まぁ、いいや帰ろう。
俺が一歩踏み出すと同時に、黒い鉄の塊が突っ込んで来た。
ばっと目を覚ます。
俺は車に吹き飛ばされたんだよな?
慌てて身体を見回して、所々を触って見たが得に異常は無い。
「夢か?」
そう思っていると金髪頭のアロハシャツを着た男が俺の元にやって来た。
ははーん。
さてはこいつ、警察に捕まるのが嫌で俺を一旦家まで連れて来たんだな?
「お、気がついた?」
ふてぶてしく男は俺に話しかけて来た。
未来ある大学生だろうが関係ねぇ、罪は罪だ。
罰を受けてもらうからな!
「おい! これ犯罪だよ? わかってんの?」
俺がそう強く言うと、男は少し考えた後、口を開いた。
「犯罪? つーか君、死んでるよ」
頭にきた。
何だこいつ?
反省してねぇーな。
「おい! ふざけんなよ!」
俺がそう怒鳴ろうとすると、男は「ほら」と言いながら俺に鏡を突きつけて来た。
顔がグチャグチャになった俺がいる。
「は? 何だよこれ?」
意味がわからん変なジョークアイテムか?
俺はそう思いながら後頭部に手の平を当てた。
ねっとりとした感触。
引きつった笑みを浮かべながら手の平をみると、血とよくわかんない何かが付着していた。
「な、言ったろ? 君、死んでるんだよ」
男が何か言っているが頭に入らない。
目の前が真っ白になった。
「どう? 落ち着いた」
「……あぁ……」
アタマを冷やして……まぁ、冷す頭も無いような物なんだが……落ち着いた。
俺は死んだ。
飲酒運転の大学生に殺されたんだ。
何だろう。
唐突すぎるのか、悲しみとか、怒りとかそんな感情よりも、ただ虚無感で心が埋め尽くされている気分だ。
考えてみりゃ、こんな広くて、真っ黒なのに明るい所にいるんだ。
おかしいはずだよな……。
「…………じゃ、あんたは?」
俺が死んだのはわかった。
だとしたら、この目の前にいる田舎のヤンキーみたいな男は何者なんだ?
「俺? 神」
「は?」
神? これが? この田舎のヤンキーみたいなのが?
「あ、この格好? いやね、世界が平和にならないから少しグレて見たんだよね」
神様も大変なんだなぁ……。
「ま、僕の事は良いのよ。まぁ、理由はともあれ死んでしまった君は輪廻転生をしてもらう訳よ」
あぁ、やっぱりそういうシステムなんだな。
「まぁ、分かりやすく言うと、会社をクビになったからハローワークで転職するって感じだね」
あぁ、なんか凄くわかったよ。
でも何か複雑な気分。
「でも、君はラッキーな人でね、……あ、ごめんラッキーな死人でね」
言い直したほうが失礼な気がする。
「今、キャンペーン中でランダム輪廻転生中なのよ」
は?
「ランダム輪廻転生ってのは、君の性癖と好みを叶えつつ、適当に転生させるシステムなのよね」
今適当って言ったよな?
そんな悪ふざけみたいなシステムで輪廻転生しちゃっていいのかよ?
「ま、物は試しってやつよ!じゃ!」
田舎のヤンキーみたいな神様がそう言うと、俺は視界はぐるぐる、ぐるぐる回って途切れた。
「ってわけなんですよね」
自分の声にしてはあまりにも可愛すぎる声で目の前に銃を持ちながら、イスに座りタバコの煙を吐いている男と、その周りにいるガラの悪い奴らに先ほど体験したありのままの出来事を話した。
「つまり、お嬢ちゃんは神様の使者ってわけか」
眼帯をした男は煙を吐き出すと、下品な声で笑いながらそう言った。
そして、可愛らしい少女となった俺のおでこに銃を突きつけて凄んだ。
「大人をからかうんじゃねぇーぞ? あぁ? そのメルヘンチックな頭に現実叩き込まれてぇーのかよ!」
色々ありますが、まぁ、来ました。異世界。