冬の足跡 Ⅰ
ああ、先週中に書ききれなかった・・・
あの日からおよそ三か月。異世界転生からおよそ十三か月。異世界の暦ではアイシムル・ディステンバー。地球で言うと、十五か月目。ちなみに、一日は約20時間、一か月は約18日、一年は約24か月ある。大雑把な暦だが、時計なんてものはこの世界にはないらしく、代わりに『月読』という中尉魔法を使える者が時計の代わりとして働くらしい。
どうやらこの国にも日本と同じく四季があるらしく、今は冬。そう冬。冬は寒い。寒いは冬。時折、雪がちらつく。かじかむ。
なので、絶賛編み物中でございます。取ってて良かったリアル家事スキル!
「おお、ノンノよ!この“まふらー”というやつは暖かくていいのぉ!がははは!これで今年のインテルは楽に越せそうじゃ!」
ちなみに、試作品のマフラー1号はミシおじさまに献上しました。一応この世界にも編み物はあるけど、ケープや手袋、それに毛布くらいしかない。あと、毛玉高い。せちがれぇ。
… … …楽しくなってきた!もっと、もっと作ろう!あ、寒いからやめておこう。
「よし、いちおーお世話になってる人の分は作ったし、これくらいにしておこうかな」
ミシおじさまの分。自分の分。シャウラさんと・・・ええと・・・誰だっけ?・・・若者の分!そして、奈落街でのあねご、リ=スズさんの分。そして余った一つ。これ誰に渡そうかな?リーヴィさんかな?
「しかしのぉ、ノンノは奈落街で一番女の子らしいのじゃ。まったく、ここの女どもはすぐ手が出て、上品さが足らん。まったくもってない」
ふふふ、私の女子力はごじゅうさん・・・まん・・・女子力?ん?まてまてまてまて!え?女子、力?女子?女の子?
ここで振り返ろう。私の本名は桜島 六美。17才だった。性別は… … …男?
「・・・まぁ、いいや。すぎたことは気にしてもダメだ」
と軽く現実逃避をして、私ことノンノ・チェリーランドは異世界に生きている。
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「ううぅ、さむい・・・だんろの近くにいるのにこの寒さ、さむい」
「ノンノよ、耐えるるのじゃ。今日は氷龍が空を横切ったから一段と寒いが、明日はもうすこぢ楽になるぞい」
今の季節はインテル・ダイ。冬のもっとも寒い時期。それに加えて、氷龍が空を横切ったらしい。氷龍は普段寒いところに住んでいて、冬になると活発になり住処を変える。そしてこいつは、めちゃくちゃ寒い冷気をともなって移動する。それが、この国、シューラを横切りやがりました。まる。だれか討伐してくれ。ああ、神龍だから駄目なのか。ちくせう。
「はぁ、今日あたりに市場へ行こうと思ったのじゃが、これじゃどこも開いてないかのぉ」
「市場?おじさま、市場ってなんですの?」
市場。意味は知っているが、この世界ではどういうものかが分からない。そういう時はミシおじさまに聞くのが一番!何が売ってるんだろうな。
「市場とはな、色々な売店と人がごったごったしておっての、様々なモノが売ってるのじゃ。そうじゃな・・・たとえば食料、薪、たまに香辛料なども売っておるのぉ。そうじゃ、まだここの名物を教えてなかったの!よし、市場へ行ってみるとするかの」
「わーい」
市場へ行くと、そこはがらんと人が少なく、少し寂しい印象だ。売店も両手で数えられる程しかないと思う。寒いもんね。家から出たくないもんね。はぁ、こたつってこの世界にあるかな?
「おお、あそこじゃ。シュールの名産品。焼き串じゃ」
焼き串、まぁ焼き鳥みたいな感じの食べ物でした。おいしかったです。イモリの姿焼き。イモリ… … …カエルもあったな。
「ふぅ、人心地ついたの。しかし、今日はやけに静かじゃ。氷龍が横切ったくらいでこう、ここまで静かにはならんのにの」
「そうなのですか?てっきり、さむくって皆さん引きこもってるとしか」
「がははは!インテルの時期はよく氷龍が横切るからそこまで引きこもるやつらはいないんじゃがの。去年なんかは二度氷龍が横切ったのに人だかりがあったのじゃが、はて?何か来てるのかな」
ミシおじさまは笑ってはいるが、どこか不審そうに頭をかしげてる。市場に活気がない。いや、市場の活気がどこかにずれている。そう感じたのだ。
「しお売りの人たちですかね?冬でもしおは嬉しいですし。」
この世界では塩は貴重なものである。海から遠いこの国では、塩売りの人を頼って塩を得ている。だが、その塩売りの人は暑い季節によく来るので、寒い季節に来ることはめったにないはず。
「そうかもしれんの。ん、行ってみるかの」
ミシおじさまの後を追いかけて、この活気のなさの原因を確かめに行った。塩売りが来ていたなら是非とも買っていきたい。
だが、どうやら塩売りではないらしい。そこには市場になかった活気があった。いや、人だかりと言った方が正しいだろう。それもそのはず、大通りの真ん中を行列が進んでいるのだ。行列の先頭は馬車、それに弾力性抜群のデブとその護衛らしき人達。皆パルヴェーダが乗っている。その後ろをみすぼらしい服を着た様々な種族が手を縛られ、護衛に蹴られ叩かれて馬車に続いていた。
「奴隷商人か・・・薄気味の悪い」
そう、ミシおじさまは嫌悪感をあらわにしていた。奴隷、地球でも昔はごく普通に行われていたものだ。だが、どこぞの仕事に就職させる為の、出世ができる様な奴隷制ではないことがうかがえる。ミシおじさまは奴隷制に反対なのだろう。人間だけじゃなく、異種族も奴隷になることにもを反対している。そんな感じがする。
一人の護衛の男が
「どけッッ!邪魔だ邪魔だッッ!!商品に近づくなッッ!!」
と怒鳴り散らしている。
商品、奴隷は生き物ではない。奴隷は―――
「ノンノ、堪えるのじゃ。今、わしらがいっても何にもならん。つながれている奴らの為にもならん。耐えるのじゃ」
ミシおじさまの拳が震えていた。無力感。それを味わっているのは私だけではない。助けに行っても返り討ちにあうだけ。助けたとしても奴隷たちはどうする。生活は、食料は、なにもかもどうする。
「帰るぞ、ノンノよ」
私たちは逃げるように、雪に足跡をつけて帰った。
軽く言葉のご紹介
春はスプリング
夏はキティーラ
秋はラクガ
冬はインテル
季節の上旬をミニ、中旬をダイ、下旬をフル
この世界の人間の魔法は「将、佐、尉」にランク付される
将が一番強いと認識してもらえれば
わかりづらい・・・
次の更新は再来週くらいになると思います。