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プレゼント・ディザイア ~無欲の魔王~  作者: 相川キリンwithヒゲメガネ
Ⅰ 人であろうとする者、この広大な大地に足をつけた
3/16

ここが好きかもしれない

鏡に映った自分の姿を見ながら、私は身だしなみを整えていた。すると、

「ノンノ~集会の時間だぜ~」

と奈落街でもっとも若い男性が私に声をかけた。今日はたまにの集会の日だ。


「はいなぁ~ちょっとまっててね」

そんな気の抜けた返事をすると、今度はいかにもいかにもな人がミシおじさまに、

「老子よ、晩酌もそのあたりに・・・」

とかしこまった声をミシおじさまにかけていた。そして、そのミシおじさまは、

「がはははブホォ!!ガフッガッガッ!・・・大丈夫じゃっ!」


   むせていた… … …

そんな勢いでお酒を飲むから。もう。


「おじさまは私が後で連れて行くから、今日の集会の議題。それを“黒板”に書いといて~」


「かしこまりました。それでは老子を頼みました。ビリー、俺たちは先に行くぞ」


そう若い男性に伝えると、

「はいよッ」

と威勢の良い声をあげた。その後、二人ともこの場から離れていった。若い男性の方、ビリーっていうのか。そういや前にも聞いてたな。正直すまない。多分これからも忘れると思う。そう心で思いながら私は、

「おじさま。そんなに急ぐことないのですよ。今回の集会は大した事を議題にする訳ではないのですから」

そうミシおじさまをなだめてた。


「すまんの~ノンノよ。でもの、顔であるわしらが行かなくちゃ始まらんじぁろ?それに、議題がメインじゃないしの」


そう、議題がメインじゃないのだ。

では何か?


「―――年に一度の宴がはじまるぞい!!ノンノは初めてじゃな!奈落街じゃが宴は一丁前じゃぞ!」


「うぉぉ、うたげだぁぁ」

 そんな雄叫びをあげた私、桜島(さくらじま) 六美(むいみ)こと【ノンノ・チェリーランド】は異世界に来て、奈落街に住み着いて… … …はや十か月経っていた。

もう、奈落街での生活に順応し、ミシおじさまの孫みたいな扱いをされている。

この十か月、色々あったものだ… … …色々と… はぁ。本当に、色々と。


「ノンノぉ~、そろそろ行くぞい」


「はーい」


そんな日常を遡ること十か月。異世界二日目の事だった。あの衝撃を忘れられない。



 その日、私はミシおじさまのお宅 (というか、すみか)にお邪魔していた。ミシおじさまは私の「記憶喪失」発言を信じてくれていて、私を奈落街に迎えてくれた。

OMI(おじさま マジ イケメン)

ミシおじさまはここの顔役、つまるところ奈落街にいる4人の街長(まちおさ)の一人であるらしい。

ちなみに、奈落街は治安が悪い。すごく悪い。夜にめっちゃ悲鳴聞こえる。怖い。ところの中でもミシおじさまの仕切る場所は治安がいい方なのだ。そして、奈落街に迷い込んできた人を脅して出来るだけ被害を減らしているのだとか。

OMI (おじさま マジ インポータント)

 異世界二日目。今日の予定は『カテゴリ持ち』に会い、私の隠された能力を・・・フフ


 しかし、そう上手くは行かないのが世の常。人の常。悪魔の常だよ!こんちくせう!!


「リーヴィや~、リーヴィダインはおるか~」

とミシおじさまは、何か物騒な家?塔?に私を連れて行き、誰かの名前を呼んでいる。

すると奥からドガッ バキッと軽快な―――


「だ、だいじょうぶですかぁぁぁ!!?」

ハプニング、ハプニング。親方!空から白衣の男が!白衣がぁぁ!着地!


「相変わらずじゃの。リーヴィ」


「ははは、面目ない。ミシ老子、お久しぶりです」


ああ、この人なのね。『カテゴリ持ち』って。ぼさぼさとした髪に無精髭(ぶしょうひげ)を蓄えて、身長は170以上・・・あ、私女性になってるから分かりにくい。とにかく、だらしない印象を私に植え付けた。あと白衣着てる。しわくちゃ。わお。


「リーヴィ、今日はもう伝えたと思うが、嬢ちゃんの能力を《観て》欲しいんじゃ」


「ええ、昨日使いの人から聞きましたよ」


え?いつの間に。ミシおじさま、そこまで手をまわしてくれていたのか。目頭が熱い。


「あの、どうも。初めまして。の、ノンノです」


「あははは、緊張しなくていいの。僕はリーヴィダイン・デカルソニシュ。今日はよろしく」


結構普通に挨拶をしたつもりだけど、少女がおびえてどもった声に聞こえる。自分でそう聞こえただけだから他人にはどうか分からないけど。ってリーヴィさん、名前。え?それ名前?


「ははは、変わってるでしょ?でも僕は気に入っているんだ。」


ミシおじさまが咳払いをして自分に注意をあつめて言った。

「リーヴィや。今日は嬢ちゃんのために一肌脱いでやってくれんか?」


「もちろんですとも。ではノンノちゃん。ちょっと失礼するよ」


リーヴィは私の額にすっと指を当てて、もう片方の手の指を動かしている。ちょうどスマホの画面をスクロールするみたく。


「ふーむ・・・なるほど」

等と口にだし、私の不安感をぞわぞわと刺激してくる。ドキドキ止められない。何かな何かな?ごまだr


「ノンノちゃんは一人にならないことだねぇ。腕力(パワー)体力(HP)防御(ディフェンス)速度(スピード)は・・・まぁ、見た目通りですね」


そうだよそうだよ。異世界転生たるものチートを持ってなきゃね!そんなにほめない… … …え?

見た目通り?そんなに私たくましい?

ふと、私は鏡を見つけてしまった。それも大きいやつだ。縦長で、全身が鏡に映された。私が私の姿を確認した最初の時だった。



髪は水銀。肌は雪。触れてしまえば溶け裂けてしまいそう。目には日輪をたずさえ、奥に黄金が眠る。ふわふわと黒を基調にしたゴスロリの服。とてもじゃないが、猫と喧嘩したって勝てそうにない。箱に詰められてそうな娘さんだ。可愛らしい。美しい。異世界だからこそ実現できる存在。

その容姿の見た目通りだと。つまりだ


「さ・・・さい・・・じゃく?」


世界の音が遠ざかる。リーヴィとミシじいが何かこそこそ話してる。なんでもいいや。


ふとした事で異世界に転生しちまったぜ。女神さまにチート能力貰ったんだがヤバすぎ。ああ、ハーレム過ぎてつらいぜ。世界最強。酒池肉林。弱肉強食。絶対強者。一騎当千。百花繚乱。

望みと理想に願いと夢に願望とお祈りに希望と―――欲望。すべてがなくなった。


 昔、兄貴に言われたっけな。


「おまえはさ、誰かに合わせすぎなんだよ。」


「どうしたのさ?急に?」


いつもの事だが年上は説教をしたがるらしい。


「そういうところだろ。本音は『うるさい』『やかましい』『うざい』って思ってるのに言わない。別に悪い事じゃないが、おまえは度が過ぎる。」


分かってる風に忠告してくる。


「分かってるよ。もうちょっと本音だして生きるって。これから」


「そうじゃないだろ?おまえは誰かの求める自分(・・・・・・・・)になろうとしすぎだ。よく話す相手によって口調を変えて、態度を変えて、相手の求める自分になろうと努めてる。相手の気持ち。そういった所だけおまえは(さと)いからな。」


いつもの口うるさい説教だ。聞き飽きた。耳のタコがつぶれる程に聞いた年上からの助言。そんな、うるさい言葉が懐かしい。手を伸ばせばそこにいる。なのに届かない。


 帰りたいな


 目を開けると見知らぬ天井だった。…ここどこはだろう?何してたっけ?


「嬢ちゃん、目ぇ覚めたか?急に倒れて驚いたぞい」


「あれ?ミシおじさま?ここはどこです?」

と素っ頓狂な声をあげてしまった。なかなかにマヌケだ。自分で聞こえただけだから、他人にはどうか分からないけど。


「ノンノちゃん。おはよう、ってもう夜だけど。ノンノちゃん、疲れがたまってたみたいだね。まだここには慣れてないでしょ?しばらく休むといいよ。もう暗いし泊まって行って。はい、紅茶。熱いからね」


「あ、ありがとうございます。・・・あ、おいしい」


どうやら、私はリーヴィさんの家で倒れてしまったらしい。そうか、思い出した。私は… … …最弱なんだ。・・・過ぎたことは気にしない、気にしない。

それよりこの紅茶、落ち着くにおいがする。自分で紅茶を淹れるより、人に淹れてもらう方がやっぱりいいね。その人、その人の個性が出るっていうか、面白いんだよね。


「リーヴィよ、今夜は嬢ちゃんをまかせたぞい。わしはそろそろ見回りに行ってくる。」


「まって、おじさま。私も――」

連れて行って。


「嬢ちゃんは待ってておくれな?夜は特に危険なのが奈落街の代名詞じゃ。嬢ちゃんを守りながらだと少しきついのでな」


ミシおじさまは私が付いて来ないように少しきつくいった。だが、その言葉の中にはちゃんと優しさを感じた。


「なに、リーヴィはこう見えて剣も魔法も使えて心強いのじゃよ。それに、夜這いを仕掛けられる玉じゃないしの!がはははッ」


「ミシ老子。本当に褒めるか貶すかどちらかにしてくだいよ。メンタル弱いんですから、僕は」


「すまんすまん。・・・ノンノや、待っておれ。必ず帰ってくるしの。わしは街長(まちおさ)じゃぞ、これくらい何ともないぞい」


「・・・うん。待ってる。だから・・・いってらっしゃい。おじさま!」

信じよう。私は信じよう。ミシおじさまを、世界を。



「どーしたっ!ノンノ!ぼーっとしてさ。今日はお前が主役だぜ!ほらしゃっきりしろい!」

と威勢よく話しかけてきた若い男性。ええと…誰?


「ビリーッ!そう急かすんじゃないぞッ!まったく」


「すいやせん、老子。でも、せっかくの宴ですぜ!楽しまないと!」


ミシおじさまがそう言って若い男性を怒鳴った。そうだ、ビリーだ。ごめん。忘れてた。


「ノンノ殿、そろそろ御挨拶を。どうか、緊張なさら()

といかにもいかにもな人。ええと、シャウラさんが私に挨拶を(うなが)してくる。んん゛っ、よし!


 私が前の檀上に上がると急に静まり返った。え、不気味。怖い。緊張するときはどうすればいいんだっけ?かるく咳払いをするんだっけ?喉を鳴らすんだっけ?とりあえず、なんとかなるでしょ。なんとか…


「皆さん、お初にお目にかかる人もおりますでしょうがここは、こんにちは、と挨拶させていただきます。はい。私の名前はノンノ・チェリーランド。種族は悪魔(メルバット)です。だからといって、怖がらないでください。私自身、皆さんに何時(いつ)襲われるかが怖いです、ふふっ。といっても、ミシおじさまの所は優しい人がいっぱいです。・・・私はここに来るまでの記憶がありません。ですが、ここで過ごした十か月は本当に楽しいものでした。皆さま、こんな私を迎えてくださりありがとうございます。

―――そして、これからもよろしくお願いします♪」


… … …はずかしい。なにが「よろしくお願いします♪」ニッコリだよ。ああ、もうだめ。逃げ出したいよぉ。拍手なんかされたら穴に潜っちゃうよ。あ、あ、ああぁ…みんなが笑ってる。


「ふははははぁッ!お嬢ちゃん。なにをそんなこと」


一人が豪快に笑った。名前も知らない人が笑った。そして大声で


「俺たちはなぁ」


とっくに歓迎しているぜ!



 視界がにじむ。目頭が熱い。そんな私を、奈落街に住む女性陣が隠してくれて、男性陣は笑ってくれた。

 

 心配だった。拒絶されないか。でも、みんな迎えてくれた。



 ここは異世界。魔物もいるし、盗賊だっている。奴隷商人、ならずものなんてごまんといる。

 そんな世界で生きていく。チートだって別に気にしない。そんな話は野暮ってもんだ。


 笑って、泣いて、危険な目に遭っても。



 私はここが好きかもしれない。

・・・まだ続くよ!

そりゃぁ、変に長くていい感じに終わったけど。


今週中に次話を投稿することを目標にがんばる・・・ZOI☆(殴

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