南への道 ~約束と自信~
ねむい、おなかすいたぁ、あ!
ごゆるりと
「なぁ、おまえさ」
急に兄貴が聞いてきたことがある。
「自分の事を好きでいてくれるやつがいるとするじゃん」
「おー、おめでと」
「や、俺にできたとかじゃなくてたとえ話だよ」
「知ってる、はよ話せ」
「コイツ・・・まぁいい。で、好きでいてくれるやつよ。その、なんだ、思いが一方的とかさ」
「あぁ、好きでもない人に好かれたらって話ね」
「ん、少し違うような、なんだろ」
この時私は、兄貴がストーカーにでもあってるのではと考えてたが妙に兄貴の態度が変だ。自分でも何をいっているか自覚がない様な口調、ここにないものを見ようとする様な表情。言葉が固まって出てこないでするすると湧いてくる。
兄貴はたまにこういった答えが見つからない様な質問をしてくるときがある。哲学めいた、しかし答えが見えそうなことを空気を掴むかの様に追い回す。
こんな時は答えが見つからない方が多いが、見つかったときはいつも私に衝撃を与えた。
「例えばさ」
「ほい?」
「その好きでいてくれる子がさ」
「ほほう」
「監禁したりさ」
「ほ・・・ん?」
「他のやつとの会話を禁止したりさ」
「お、おう」
「でも一生懸命想ってくれるわけさ」
訂正、見つからなくても衝撃を与えた。
「ヤンデレってやつ?」
「なんだろな、独占欲を抑えきれないってやつか。そんなやつを・・・怒ってでも止めた方がいいのか」
「さぁ、そいつの人生じゃん。誰を好きになろうと知ったこっちゃないけど、こっちの人生まで巻き込むようであればはっきり言えば」
「そう簡単に言うけどさ・・・いや、簡単に言ってくれるから聞いたんだな。
そいつにもそいつの人生がある。その歪んだ考え方を指摘しないと駄目なのか」
「指摘したってそいつの正義だぜ。簡単に覆せるかよ。価値観は人生だ、あなたの人生すべて無駄でしたっていうものだよ」
「そうか・・・あんがとよ」
納得したかの様な、理解できない時の様な表情で終わった。この日の兄貴は何かが変だった。その何かがついには分からなかった。
その二日後…兄貴は刺されて入院した――――
✡
カードをする音だけが部屋に響く―――
「なにしてんすか?シャッフルはもうよさげじゃないですか?」
「Aよ・・・いまはかんしょうにひたっていたのだ。台無しにしないでください」
「Aって、確かに頭文字はAっすけど、せめてココアって呼んでくださいよ」
「ん?かわいらしいからダメ」
「そんな~」
Aは (´・ω・)の様な顔を、私…こんな顔する人初めて見た。え?ココアって呼ばれたいの?
バカな事を考えていると心が落ち着く。お人形に私の名前をルビとしてふられたのは終わったなと思ったよ。まだ、シャネルの5番が良く思えるよ。
ラストバトルはブラックジャック。大雑把にいうと、合計が21に近くなるようにカードを引く。21以上は負け、絵札は10、エースは1か11を好きな方。
「ディーラーは私がやりますね。ナーミルさんはまず二枚をもらっておもてむきにしてください」
「はい、わかりましたわ。私の愛し子」
はい、いったい何がいけなかったんでしょうね。これ、負けたらR-18に移転することになりそうだな。発禁だよ!あなたの旅はここで終わりましただよ!毎晩お楽しみでしたね、だよ!
異世界に美少女転生したらチヤホヤされるんじゃないの?なんで美女にハアハアされそうになってんの!
こんな世界いやじゃ…
「仲が、良いですね?」
少女よ、そうではない。気づいてくれ。
そんな想いはむなしく、ゲームは進行していく。シャッフルしたトランプの束をテーブルの上に置き。ナーミル自身に好きな箇所を引かせる。これはイカサマをしてない意思表示だ。
ナーミルの引いたカードは、Jと3、合計13だ。
次に私は上から二枚引いた。5と8で、皮肉にも合計13。私は5を裏返しにし手札を公開した。
「8ですか・・・そうですね、一枚くださいな」
ナーミルは一枚、また一枚。合計三枚引いた。
その表情は余裕そのもので、負けること知らない、圧倒的な自分への信頼が伝わる。
だが、安心した。私の勝ちだ。
「では、わたしは一枚、もう一枚ひきます。これでスタンドです」
「あら?いいの。これで最後よ。後悔はないかしら?」
ナーミルの目は誕生日のプレゼントを貰う子供の様な輝きをしている。自分が勝つという自信がゆえのプレゼントであり、心の底から好きだからこその嬉しさで満ちている。
だが、私の勝ちは揺るがない。もう決定したことだ。だから、気を引き締める。
「はい、ありません。・・・勝負だ」
手札を一気に公開する。ナーミルはJと3に加え4、2、1。合計20。正直危なかった。
だが、私の手札は…5と8、それに7と1。合計21。ブラックジャックだ。
「私の勝ちです。ナーミルおねえちゃん♪」
そう、私はいいすて―――
「へ?ふふ?ひひっひ・・・」
「お、おねえちゃん?」
やばい、素で姉呼ばわりしちゃった。え、実力行使とかないよね?ね?今のうちに逃げちゃ―――
「さいっっっこー・・・ですわぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「狂ってらっしゃるッッ!逃げ・・・」
「逃がしませんわ・・・」
ふにゃぁん・・・たわわなモノが私の顔にヘルダンスしやがった!なんで?これ?え?あ!…いいにおい…
「街長落ち着け!!」
「街長ッッ!!」
「コロス・・・んん゛、なにやってるんですか!」
「ココア淹れたぞ~いや~泥を少し落とせただけでも幸い・・・ドゥわぁぁぁああああああ!!」
ドタバタガッシャンあっちぃ、の大乱闘の後でみんな正気に戻った。
室内はまだ生活できる程度だったのに、局地的台風が過ぎた後だね、これ。
あの?そろそろ離してもらえません?ココアが飲みたいです。
「まさか街長に勝っちまうとはな。驚きだ!」
「街長が負けるなんて、予想もしてなかったよ・・・」
「借金がチャラだぁぁああ!!ばんざーい!ばんざーい!」
「おめでとうございます・・・ノンノ」
褒め称えられる私、その私に頬ずりをする南の街長。私の手にはココア。どうだね、この状況。ホームズだって薬を止めて逃げ出すんじゃないかな。
「ノンノちゃぁん、すごいねぇ、おねぇちゃん負けちゃったよぉ」
「ナーミルさん・・・ (脳が)しんでる!!」
「へへへ、ブラックジャックって21が最強なんだねぇ。おねぇちゃん知らなかったよ」
「またまた、知らずに20なんてだせない・・・え?」
「今回も運で乗り切れると思ったら駄目だったよぉ、ハァハァ」
「運で・・・イカサマとかじゃなく?」
「イカサマの仕方わかんない、なんとなくでやれば勝てたから、んッ」
私はイカサマをしている前提で勝負を仕掛けていたが全部無意味だったのだ。南の街長をギャンブルだけで勝ち抜いた。それは、運だけで100人弱をうちのめしたのだ。
Eカードだってなんとなくで奴隷を出したのだ。ブラックジャックだって私がイカサマをしなかったら負けてた。
このスラム街で噂は聞いていた。シャルニティーレヴン家の異端児。自分勝手で、好きなこと以外に興味なく、今まで負けを知らなかった。その所為で母から嫌われ、姉弟達から妬まれ、貴族からは気味悪がられた。味方は父と妹だけであった。
誰に何と思われようと、生き方が決まっている。価値観が出来上がっている。…なんて強い生き方だろう。
うらやましい
✡
「なるほどですわ、ノンノちゃん。それはおねぇちゃんに任せてくださいな」
「ありがとうございます、ナーミルさん」
「ん?」
「ナーミルさん」
「・・・約束・・・」
「・・・お、おねぇちゃん」
「おい、チャールズ、みんなに協力を要請しろ。至急に」
「はぁ、あいよ。合点承知の助ってんだい。別に協力っていわなくてもいいだろ。命令とかでいいじゃん。強制だろ?どうせ」
「なにを当たり前のことを」
「アントニー、ビャルネ、嬢ちゃん、入ってきていいぜ」
話す内容にあたって、ABと少女を外に出していた。ABは別に入っていても良かったが、少女の事が心配だったので出てもらった。これでようやく一歩前進と言ったところだ。
「ナ・・・おねぇちゃん、あとはたのみました。そろそろかえりますね」
「寂しいですわね・・・でも任せて下さいませ。こう見えて結構ランクが上の貴族ですの」
「それはホントにいがいだ!」
「かえっぞ」
一歩、だけど前進した。チートな能力があるわけでもない私にできる最大の一歩。
誰かの為の一歩ってこんなにも――――
「そういえば、最後どうやって勝ったんだ?」
「オラも結構知りてぇな、そもそもブラックジャックってなんだ」
「アントニー、黙っとれ。でも、気になるな」
「私も、その、気になります」
お!聞いちゃう?私のジョ○ョ直伝の必勝法。
「まず、今回のMVPはA、いや、アントニー、おまえだ」
「へぇ・・・ん、あぁ?なんの冗談すか?」
「アントニーが泥沼にハマってくれたからこそのイカサマだよ」
「???オラ?」
「どういうことですか、」
「トランプに泥まみれのじょうたいでさわったろ」
「ん、そうだが、なんだ」
「トランプに泥がつくだろ」
「ついたな」
「泥のつきぐあいとすうじを合わせておぼえただけ、トランプのならびじゅんなんて指でわかるからじゆうにできるし」
「ちょっとまて、ガキ。つまり、あんな短時間で泥と数字全部覚えたってのかよ!ありえねぇだろ!」
「でも、それなら街長に勝てても疑問はないな。相手が21にならないようにできるし自分も21にできる。しかし、街長に自由に二枚引かせた時が危なかったな。Aと10で21ってのもありえたからな」
「なん・・・だと・・・」
「おい、ガキ。気づかなかったんか」
「嬢ちゃんはどこかぬけてるよな」
「ブラックジャックって21が強いのか・・・こんどやろうぜ」
「す・・・すごいです」
帰り道に騒ぎ、どつき、笑い、この瞬間が楽しいと思える。そんな気がする、はず。
私のしたいこと。その1に近づいて行っている。目標が近づいてくる。この世界の最初の目標に。
なのに、これはを自分の夢だと思えない。だが、これは私がやりたいことだ。そう信じることにした。
人物紹介!!いえい!
アントニー・クルク
クルク家の三男坊。甘やかされて育っており、どうしてここまでに育ったのかがわからない。
クルク家とは、商業によって功を成した貴族であり、物の見る目に優れている。
アントニーにもそれは引き継がれており、本人はそれをいかしたいらしい。
ビャルネ・ローウ
ローウ家の長男。ローウ家と敵対関係の御嬢さんと恋仲であり、それが理由で家出をした。
ことばづかいは、荒々しいのに疲れるらしい。すごく真面目ではある。
チャールズ
ABCの中で唯一貴族でではない。純スラム産である。
母も父もいなく自分一人で生き抜いてきたが、ナーミルに才能を見抜かれてギャンブルを(強制的に)して、負けたのでついていく事にした。
子供が三人いる。全員べつの母親から生まれているがね。
もちろん、親ばかである。




