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花咲け 僕らの個人レッスン!  作者: 織井 隆依
第一章 何からすれば良いのやら
10/10

気づけばプレイヤー

やる気のないニートにいきなり積極的になれっていう方が無理な話でして……。

 育美の両親を見事説き伏せた岩村は、無事に育美を希望の種にすることができた。詳しい話は聞いていないが、育美の母親と相当モメたらしいが、育美の言葉が決め手になったとか。

 翌日の昼、JNCの資料持参で家にやってきた岩村は、不法侵入経験ありの美少女に敵対意識を持つお袋と、俺のことには無関心で且つ俺を侮蔑する父親と対決。父親は、どうせ暇なんだから何かやらせておけと言ってお袋を泣かせ、子どもの育て方について夫婦喧嘩、俺の引きこもりはどちらのせいかという非常に醜い争いが行われた。パパママ生まれてきてゴメンネという気分になっていたところに、岩村が「あなた方どちらも悪い」と油に火を注ぎ、小娘が何を言うんだと喧嘩はますます大炎上するかと思いきや、岩村の「高い評価を得ると賞金がもらえる」「JNCから経費が出る」というセリフを聞いた親父とお袋は「子どもの自発性に任せよう」といういつも通りの投げやりな結論を口にし、金の下にて一応話の決着がついた。

 駅まで送る帰り道、岩村はやる気のあるそぶりを見せていた。


「私、やると言ったからにはやるわよ。あなたを必ず真人間にしてあげるわ」

「あ、ああ……」


 真人間て、俺が真人間じゃないみたいじゃないか。ニートだけど心の優しさは一般人の平均値より上な自信あるぞ。勿論、こんなことは口には出さないけど。

 俺は困惑していた。俺は一度たりとも実行の意志を示していないのだ。しかし、せっかくやる気になった育美や岩村に水を差すのも悪い。

 とりあえず流されていればなんとかなるだろう。





 翌日、俺は岩村にスタバへ呼び出された。


「遅い! 30分遅刻!」

「悪い。待ち合わせとか久しぶりで……」

「久しぶりだから何よ。もー、こっちはニートと違って忙しいんだからね。早く注文してくる!」

「う、うっす」


 俺はレジでカフェラテを注文し、岩村の対面に座った。四人用のソファ席を二人で陣取っているので、周囲の視線が冷たいが、岩村は気にせずにテーブルに紙を広げる。


「今日は目的を決めるわよ」

「目的?」

「そう、目的。あなたがこの1年、希望の種として過ごすための目的よ。目的を決めずに過ごしてたら、1年なんてあっという間に終わっちゃうんだから。わかるわね、ニートくん?」

「ぐぬっ……」

「とりあえず聞くけど、あなた、何かやりたいことないの?」


 途端に冷や汗がにじみ、お腹が痛くなってきた。

 やりたいこと、ないの?

 俺が嫌いな質問No.1だ。やりたいことがあったら腐りながらニートしてねえし! 本当に空っぽの頭からやりたいことをひねり出すなら、強靭な肉体と無限のマネーを手に入れての永遠の(エターナル)オナニー あとはあと腐れのなさそうな可愛くて優しくて金銭を要求してこない女の子とのセクロス! 質問の趣旨? そんなのぶっ壊す! 俺はできる限り何もやりたくねえんだよォ!

 ……とは言えない。ただでさえ遅刻をしてきたのである。

 俺は考える。嘘。考えるフリをする。

 今まで「やりたいことはないの?」と聞かれ続けてきた結果、ついてしまったクセだ。


「やりたいことはないのね。オッケー」

「ってオイオイ、まだ何も言ってねえだろうがッ!」

「だって、何もやりたくないって顔してたもの。

 大丈夫、一般枠には試験制度もあるから」

「試験制度ぉ?」

「そう、課題制度。目的が自分で決められない場合、4月・7月・10月・1月の3ヶ月ごとに計4回、JNC側から課題が出されるの。次の月の課題発表までに、前の課題を完遂させることが課題クリアの条件。課題を提出したら、審査員によって内容が評価され、それが私たちの点数になる」

「それ、課題クリアできなかったらどうなるんだ?」

「点数が0になるだけよ。一般枠の場合は、一度目の課題で低い点数を取っても後半で盛り返せる制度にしてあるの。

 課題中に目的が見つかれば、次の課題の時には自己の課題に以降することができるわ。4月から課題が決まっている人でも、保険のために4月・7月・10月の課題を受けながら自分の課題をこなし、1月には自分の目的遂行を課題にする人もいる。

 あなたは目的とか目標とかと無縁な人生を送ってきてそうだし、とりあえず4月と7月は課題を受ける計画にしましょ」


 さらりと酷いことを言われた気がする。


「な、なぁ……俺が目的をパッと決めて4月の課題に設定して、それを期限までにクリアしたらどうなるんだ?」

「一応それで私とあなたの卒業試験は終了になるわ。目的・過程・結果の総合評価だから、二ヶ月で超性能のスーパーコンピューターを組み上げるとか、社会貢献度が高くて偉大な功績を上げない限りは低評価で終わる。……言っとくけど、そんなことは許さないからね。」

「わ、わかってるよ。一応聞いただけでっ」


 岩村はシックなデザインの赤いスケジュール帳を開いた。4月の予定には赤・緑の文字でいくつか予定が書き込まれている。


「希望の種の軽い面接と課題発表は4月7日になるわ。この日は絶対に空けておくこと」

「俺はニートだからな。任せろ」

「学習するんだから一応脱ニートよ。それから、面接日までに髪を切り、髭を剃って、このシートに必要事項を書いてきて」


 履歴書。聞いたことはあるが実物を見るのは始めてだ。何せこちとらアルバイト経験ゼロである。名前、住所、Gender、学歴職歴……これを全部埋めなければならないのか。

 岩村は俺から履歴書を奪うと、JNCのパンフレットと一緒にクリアファイルに挟んで寄越した。


「今日はとりあえずこれで解散ね。また連絡入れるから」


 岩村は荷物をテキパキとまとめて立ち上がると、ゴミ捨てよろしくと言い残し、スタバを出て行った。

 一人取り残された俺はため息をついた。

 断ればよかった。ぶっちゃけ、すげーめんどくさい。


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