「龍の名を冠する少年」07
授業というものはどうしてこうも退屈で睡魔を伴うのか。陽は常々毎日毎時間それを考える。途中で諦めるが。特に英語でその傾向が顕著に見て取れる。別に外国に出る訳でも無し、大企業に勤める気も無し。何故必要なのか。郷に入っては郷に従うのが普通なのである、相手が合わせるべきである、という陽の暴論。別に担当している教師が悪いとは思っていない。むしろ他の教師よりも信用出来る人間だろう。新人で、若くて、可愛くて優しい女の先生ともなれば当然だ。特に男子に大人気の薫子先生である。
その優しさを見込んで陽は寝ようとしているのだが。
「では、ここの部分を訳して貰いたいと思います。えーっと……日付で……あ、龍神君ですね。お願いします」
「ぇ……はい……」
一応、まだ意識は残っていた。上の空だっただけだ。自分の苗字が呼ばれ顔を上げると彼女の可愛らしい顔が自分に向けられているではないか。まずは教科書に視線を落とす。続いて黒板を睨む。
「わからないっす」
時間にして三秒。思考する事すらしない。あくまでも『わからないなりにやりました』というパフォーマンス。ほぼ即答に近いような形だが、こうするしか回避方法が無いのだ。これが無駄に時間を喰って来たベテラン教師になってくると当たるまで何度も回答させようとする。生徒に恥曝しをさせて日頃の鬱憤を晴らそうとでもしているのだろう。彼女にはそうなって欲しくないものだ。このまま優しい人で居て貰いたい。
「んー……そっか……じゃあ後ろの春空さん、わかりますか?」
「はい」
陽が戦闘を回避したせいで指名されたのは後ろの席の春空 望。クラスの委員長である。小さな体に大人しそうな外見。押し付けられたようにも思える役職なのかもしれないが、これでも自分から立候補してやっているのだ。陽も頼りにしている少女――主に宿題面で――。
そんな彼女は陽の代わりにスラスラと英文を訳し、席に着く。
「はい、正解です! ここの文法はですね――」
満足の得られる回答を貰った薫子はそのまま英文の解説に。それを見越した陽は上半身を回して望に向かう。
「いつも悪いなぁ……俺が答えないから当てられちまって……」
それなりに、というかかなり罪悪感は感じているようだ。それもそのはず、陽が諦めればどうしても周囲に飛び火。迷惑を掛けているのは事実なのである。
「いえ。このくらいなら大丈夫ですよ」
「ホント助かるわ……ありがとな」
勉強嫌いを克服するつもりはないが、それでもこの状況は申し訳ない。もう少し、ほんの少しだけ頑張ってみようか。
望に声を掛け終わり、再び黒板に向かう。相変わらず訳の分からない文言が並べられている。頑張ろう。
(まずは、寝てからな)
明日から。




