「妖刀、跋扈」07
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力を抑える事なく十六夜と打ち合ったのは何年振りだろうか。
正確には覚えていないが、恐らく、師匠である達彦が居なくなってからだったはずだ。青白い顔をしながらも気丈に、とにかく探しに行くんだ、と一度も触らせて貰った事の無い白銀の柄を震える手で握り締め、街を出ようとした時だ。
「――――相変わらずと言うか、達彦の奴の動きとほぼ同じだな。そろそろ自分なりの型ってのを持ってみたらどうなんだ?」
「っ……出来たら苦労してねえよ……!」
十六夜の剣筋にはその時の記憶を呼び覚まそうとする事すら許さない鋭さがあった。木刀であるが、真剣だ。戯れではなく、確実に討ち取りに来ている。病み上がりであろうが一切の妥協は許さない。そう感じさせる。
(わかってるんだよ……俺だって……だから!)
激しい打ち合い。一瞬でも気を抜こうものなら、十六夜の木刀が急所に直撃する。
――感覚を鋭敏に。今よりも鋭く研ぎ澄ます。ほんの少しの衰えなど取り戻してみせる。
――思考よりも先に。まだ、まだまだ遅い。相手の攻撃に対しての防御だけではなく反撃を。
ああ、ようやく、十六夜の剣筋が見える――。
「ここ、だっ!!」
高速で振り下ろされる木刀。その軌道が見えた。ならばどうするか。
絡め取るように払い、自由になった左手首を掴んで捻る。止まる事無く同時に、床に叩き付けられた木刀を踏んで動きを封じた。
「ふん……まあまあだ。だが、こんなのはどうだ?」
試合であるのならばこの時点で終了だっただろう。だからこそ少しだけ油断した。押さえ付けた木刀の峰、そこから感じる熱量。
陽が足を離すと、それを見越したかのように木刀が勢い良く燃え上がった。なんと、十六夜は魔術の行使をしたのだ。
「あつ……っ! 魔術もアリかよ!」
判断を誤っていたら今頃陽の右足は黒焦げになっていたかもしれない。当然魔力で耐えようと思えば出来ない事はないのだが。
「当たり前だろう? 別に試合だなんて言っていない。なんでもアリだ。さて、続きを始めようぜ」
「ん? ……なんでもアリ、だな?」
ならば、と陽はふらりと場外へ。壁に立て掛けていた白銀の布をざっと解く。
「ああ、そいつもだ。そこまでしたのなら、俺様もそこそこ本気でやらせて貰おう」
木刀に纏う炎が倍増する。建物ごと焼きかねない炎なのだが、そうならないのは十六夜の加減なのか、それとも建物側の結界なのか。
しかし今はそんな事はどうでも良い。病み上がりの体を調整するには絶好の機会だ。まさか彼がこのような事態を見越していたとも考えにくい。もしそうだとしても、だ。
「勝負には乗る。いいよな、白銀?」
「まあ断る理由は無かろうな。せっかくだ、やってみろ」




