「妖刀、跋扈」06
家を出てから十分程は歩いただろうか。感覚的にはもう少し掛かっているのだが。それもそのはず、陽の足取りがやけに重いからである。
月華の家でもある『金鳳流』道場兼自宅。この街に根差している三つの魔術的流派の最大手。
一つ、陽の所属している『剣凰流』。魔術よりも剣術に重きを置いている流派だ。現在は陽が頭首代理を務めている。
二つ、隠密行動を得意とする『御門流』。情報収集は彼らの得意分野で、魔術師の情報源となっている流派である。謎が多く、陽ですら詳しい事は知らないのだが。
そして三つ、『剣凰流』と同じく剣術を主軸としている『金鳳流』だ。門下生も多く、各地での活躍が耳に入ってくる。
このように並べるだけなら誰でも出来るのだが、実は各地に点在している魔術関係者の集団が同じ街に複数あるのは非常に珍しいのだ。街の守護を目的としているため、一つ在れば十分なのである。
「あぁー、嫌だなぁ……今からでも引き返そうかな……」
ここに来るのは、あまり好きではない。雰囲気が違うのだ。似たような門構えでありながらも、中から漏れ出る空気――魔力の質が違うのだ。肌を刺すような、はたまた人を拒んでいるかのような。他人の家が落ち着かない、そんなような気持ちである。
「――――来たか」
「ほらこれだよ……」
そしてもう一つ、陽が毛嫌いする大きな理由がそこに居た。
頭上、門の上だ。そこに仁王立ちする人影。離れていても伝わってくる威圧感。眼光鋭く陽を狙うその姿はまるで猛禽だ。
「そして、消えろ!!」
「大声出すな!」
「うるさい! ここをどこだと思ってんだ!!」
「あんたが言うな……!」
軽く飛び出したかと思えば、次の瞬間には眼前に。落下の勢いを殺さずに斬り掛かって来るではないか。有無を言わさぬ全力の攻撃。これが大人のする事だろうか。
頭上から降って来た一撃を布を巻いた状態の白銀で防ぎ、口論をする二人。
「……止めぬか十六夜よ。いつもの事だが大人気ない」
見るに見かねた白銀が制止にかかる。
いつもなら聞かない所だろうが、今日はすんなりと手を退いた。これには陽も目を丸くしている。
「ふん……今日は生かしといてやるが、次は無いぞ! 早速俺様の話を聞け!」
鳳 十六夜、現『金鳳流』頭首にして、歴代最強との呼び声も高い彼は、陽とは犬猿の仲である。それには色々な理由があるのだが、強いて挙げるとするならば、自身の娘と一緒に居る事が気に食わないかららしい。
「……今日貴様を呼んだのは、貴様が負けたからだ。分かるな?」
「……だから何だってんだよ」
苛立つ気持ちを抑えながら十六夜を見る。
その十六夜は、自身を抑えるかのように煙草を咥えるとライターも無しに自然と指先から炎を出して点火。苦い煙を吐き出しながら言葉を搾り出す。
「面倒な髭の爺が貴様を鍛え直せだのと言いやがった。指示じゃねえ、命令としてな。だからやる。やれ。以上だ」
「……は?」
「なんだ最近のガキは言葉もわからねえのか?」
「つまり、なんだ? あんたの技を盗めってのかよ?」
流派を超えての技の習得など聞いた事もない話だ。それ故に陽は十六夜の言葉を信用できない。技を渡すという事はこれまで育ててきた矜持すらも捨てなくてはならないからだ。合同訓練等は度々行われるのだが、基本以外に触れる事はそうそう無い。
「ハッ、貴様にそこまでの技量があるとは思えんがなぁ。だから中に入って、構えろ」
一々癪に障るのだが、どうも今日は雰囲気が違う。言葉の端々には普段陽が感じている荒々しさのような物が薄れ、師としての気配を漂わせているような。
門扉が開かれると、丁寧に整備されたであろう庭。十六夜の後を追い掛けるとすぐに道場だ。
「良いか? 本気でやれ。やらなきゃ死ぬぞ」
中に入るや否や使い込まれた木刀が投げられた。これを使え、という事なのだろう。ここまで準備されて、やらない訳にはいかない。
「正直まだ状況は呑み込めてないけど……要するに、だ。真剣に勝負しろって事だよな? いいぜ、やってやる」
「退院明けの割に口だけは随分と動くじゃねえか? 体が動くかは知らねえが……あん時からどれだけ成長してんのか、俺様が見てやろうじゃねえか!!」




