「妖刀、跋扈」03
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――――嘲笑う声が一つ。頭の中で反響し、これでもかと言わんばかりに脳みそを掻き回す。
全身を蝕む嬌声は絶え間無く。
――――それと、身を裂く悲鳴。
しかし、己が身体はただ空を見上げていた。動きたい、否、動かなければならないのに動かせない肉体。手も足も口ですら自分の言う事を聞こうとしてくれない。
そんな中でまともに動かせるのは目だけだった。とは言っても、その視界は靄が掛かっているかのようにぼやけて、はっきりと見る事が出来ない。
(ああ……もしかしたら、見ない方がいい、のかもな……)
無理矢理に指を動かそうとしてみたが、どこからともなく全身に激痛を感じた。今までに一度も感じた事が無い痛み。鋭く、深く。
(……なんで、なんでこんな……まだ生きてるってのに……! 俺の身体は!)
心臓の鼓動は有る。ならばまだ、倒れて良いはずがない。
ここで起き上がらなければ、そこに待っている最悪の結果に直面してしまう。
(くそっ……自分で決めたのに……絶対に守るんだって…………!!)
心に誓った。守る、と。この力さえあればどうにかなるはずだった。
――――ああ、悔しい。悔しい悔しい悔しい――――!
込み上げて来るのは悔しさを含んだ痛み。
過信していた自分の実力。
そして、この事態を起こしてしまった責任感。
「しろ……がねぇ……!! 俺、強く、強くならなきゃ……! もう、こんな……!!」
腕から落とした相棒に、掠れた声で願いを告げる。
だが答えたのは白銀ではなかった。いや、なかったのかもしれない。すっかり耳までおかしくなっているようだ。
「出来る……お前なら。だから、今は眠れ……任せろ」
その言葉に意識を委ねた。
願わくば、次こそは――。
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目を開けると、まずは見慣れない真っ白な天井が出迎えた。
次に感じたのは匂い。薬品の染み付いたような衣服、枕にベッド。
感覚的にここがどこなのか悟る事が出来た。
「…………病院……かな……」
指を動かしてみる。問題はない。多少ぎこちないかもしれないが、概ね動くという判断で良いだろう。
さて体は、と起き上がろうとした時だ。危うく腕の点滴が倒れて来そうになり、点滴の場所を変えてから起き上がってみた。
こちらも多少体の怠さは残っているものの、痛みを感じる事は無く、病院で点滴に繋げられて眠らされている程悪いとは考えられない。
「……」
無性に落ち着かなかった。
自分がやられた後、学校は? 雹は? そして皆は?
聞きたい事が山ほどあるが、病室に人が入ってくる気配はなく、何故か同じ病室には誰も居ないため、聞く事が出来なかった。
「テレビでも……金取んのか、コレは……? ったく、ヒマだ……」
そう。病院のテレビは金を徴収するのだ。一回五百円となかなかの高額、しかも何時間か経過すれば自動で電源が切れる。諸説あるだろうが、バラエティー番組を視聴していた患者が、笑いすぎて傷口が開いたからとかいう噂も。
ちなみにカード制のも合ったりする訳だが、患者本人がどれくらい病院に居なければならないのかによって、無駄になったりする。何かと不便なのだ。
「どうしようか。俺はすこぶる元気なんだが……久しぶりに眠気が無いし。白銀はどこにあるのかわかんねえし……そもそもだ。誰が俺をここに運んだのかってのも気になるな」
枕元にあるナースコールのスイッチが目に入る。
「……押してみよう。これで何かが分かるなら……何を期待してるんだ俺は?」
井上みたいにはなりたくないな、と呟きながらナースコールをポチっと押す。
――それから数分後。若い看護士がやって来た。今は看護婦ではなく、看護士と呼ぶのが世の常らしい。そんな彼女は陽が起きている事に大層驚いた様子で、眼が開いている事を確認するや否や小走りで病室を出て行ってしまうではないか。
「ふうむ……君、本当に人間かい? あんな大きな傷をたった三日で完治するなんて……宇宙人とかかい?」
年を召した男性の看護士が聴診器などを使って簡単に陽の肉体をチェックする。腕を曲げたり足を持ち上げて痛みや反応の確認だ。
「……ふざけてますか? いや、まあ、良いですけど。とにかく、あの後――いえ、俺はどうなったのか、いつ退院出来るのか、その他諸々聞きたいんですが……聞かせて下さい」
「んー退院はねえ、本当は術後の経過を見たいんだけど……今すぐでも大丈夫そうだね。それから私らが知ってるのはニュースでやってるような事だよ? それでも良いなら」
「ええ、どんなのでもいいです。お願いします」
「次の回診まで時間はあるから知っている事は話そう」
陽はその看護士から色々と話を聞いた。
しかしそれらは、残念な事にまったく有益な情報では無かった。むしろ、違う物。
こういうのは白銀に聞こう、と病室へ戻り、誰かが用意していたジーンズのパンツと真っ白なシャツに着替えて病院を後にした。
「……手続きとかっていらないのかな……?」
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