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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第3章
62/68

「妖刀、跋扈」01

*****


 ここは、闇が全てを支配する領域だ。西洋の城を模したとされる空間は、まさしく根城という言葉が当て嵌まる。

 目標は討ち果たした。これで誰よりも先に――へと至れる。この刻をどれだけ待ち侘びたか、数えても数え切れない程の長い時間だったような気がするし、大々的に動き始めてからはあっという間だったような気もするのだ。このように気にするのもこれで終わりだとは思うが。

そのような昂揚した気分で帰還した雹を待ち受けていたのは、闇の中で犇めき合う無数の魔物たちと、玉座にて待ち受けるはそれらをたった二人だけで束ねている彼らの長と、それからもう一人。


「――――“凍血の殺戮者”、目的を完遂致しました」


 二人の前に片膝を着いて頭を垂れる。

その一声に対して魔物たちは歓喜しているのか驚愕しているのか判別する事が難しい叫び声をそれぞれ好き勝手に挙げていた。


「ええ、ええ……それは知っています。ですが、随分と派手にやってくれましたね。第一に捕縛を優先しなさいと言ったはず……抹殺と判断した理由はを聞かせなさい」


 だが、それらを全て掻き消したのはか細い女の声だった。顔までは見えないが、姿かたちは人間の女性のようにも見える。


「“凍血の殺戮者”。答えよ」


 続いて男の声。雹はその声に反応するが顔を完全に上げるのではなく、若干動かしただけ。

上の者と顔を合わせると、自分の本当の顔が透かされてしまうのではないかという不安と、ほんの少しの礼儀だ。一応は知っている。


「はい。……最初に接触を試みた際、目標は過度な抵抗をした故にそう判断した所存。……この行いは間違い、でしょうか?」


「……いいえ。そう。それで、良かったの…………あなたには、褒美があります。受け取ってくれるかしら? いえ、拒否権はないのだけれど」


 隣にいた男に目配せして、合図する。

男は腰に提げていた剣を引き抜き、漆黒の地面に突き刺す。刺した箇所からは輝線が走り、闇の中に一筋の明かりが灯る。


「……?」


 その輝線は雹の眼前で停止。禍々しく妖しい魔方陣を描くと中央から何かが、顕現した。この見た目にはどこか見覚えがある。だが、しかし、これは――


「あなたも伝承だけは聞いた事あるでしょう? 彼――標的が持っていた刀、白銀を造った刀鍛冶。東洋一の武器職人と謳われる人間が一番最初に鍛造したと言われる刀――」


「おい女、好き勝手に(オレ)を語るな。……オレは封牙フウガだ。精々喰われないように努力しな、化けの皮を被った優男」


 ――闇よりも深い漆黒を纏う刀身、それは、先日討ち倒した少年の持っていた刀とはまるで正反対。見ているとまるで呑み込まれてしまうかのような錯覚に陥ってしまう。

この刀、封牙が喋っている間に微かに聞こえてきたが、褒美にこれ以上相応しい物は存在しない、と女性は付け加えた。

雹はそれを恐る恐る、封牙を、手に収める。


「ククククッ……性格的には問題ねえんだが、ちぃとばかし骨が足りないって感じだ。だが、まあ……オレを持つには十分な“曲がり具合”だ」


「……言ってくれるじゃないか。僕が出来る事、証明してみせるよ。これは、試して来ても?」


 得意の凄惨な笑顔で男に問う。

試すのは、言うまでもなく、人だ。


「切れ味とか気になりますし? 彼にも僕を認めてもらいたいので。許可を」


「そうだな、オレからも頼んでおこう。いやはやこの身になってから下げる頭はねぇが、解き放たれたからには娑婆に出ねぇとな。オレらにはそれしか存在理由がねぇ」


「……良いわ。ただしあまり大事にはしないで」


 男が返答に戸惑っていると、女性が快く雹の意見を承認。試し切りを許可したのだ。


「――――では、行って参ります」


 深々と一礼し、その場を去っていく雹。玉座を取り囲む円形の座席から降り注ぐ不気味な騒ぎ声。羨望だ、とこれだけは伝わってきた。

 その背中が見えなくなってから女性は口を開いた。


「……雹の監視お願いするわ。数は任せる。……それと」


 闇の中に視線を巡らし、一点を凝視する。


「――そこに隠れている坊や、そろそろ出て来たらどうかしら?」


 ざわめく魔物、剣の柄に手を置きいつでも戦える体制の男。

女性の見ている場所の魔物たちが何者かによる力を受け、高く弾き飛ばされる。


「……んだよ、バレてたのか。あーあー、ちょっと待って。残念ながら戦う意志は無い。武器も置いてきた。だから、俺の話を聞いてくれないか? 『永遠の闇』の皆さん方?」


 聞こえてきたのは少年の声。その人物は両手を高く上げて抵抗する意志はない、とアピールする。


「……信じろとでも言うのですか。得体の知れない者を」


「いや、マジで何もしないから。もしかしたら、あんたらの力になれるかもしれないんだぜ?」


「……話だけは聞いておこうかしら。剣を収めなさい」


 言われて仕方なさそうに剣を鞘に戻す。

 それを見届けてから少年はこう言い放つ。


「要求は一つだけ――――あんたらの仲間に入れてくれ」


 その一言には、強い決意が含まれているように感じられた。



*****

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