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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
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「渦巻く陰謀と青き殺戮者」30

今まで受けた傷は綺麗に塞がり、出血はどこを探しても見当たらない。

この身体に流れるのは、溢れんばかりの力だけ。


「ッ……!!」


 一度腕を振るえば殺意に満ちた星は木っ端微塵に砕け散り、地面を蹴れば雹の居る空まで、飛ぶ事は出来なくとも、駆け上がれる。圧倒的なまでに陽が押していた。


「これなら勝てる……! お前を、倒せる!!」


 そう、勝利を確信出来る程に。これだけ溢れ出ている魔力を抑え込む必要などない。ただ全力で敵に向かうのみ。

 すると雹の顔にも焦りが見え始め、笑みは完全に消えていた。あるのは殺さなきゃ、という殺戮者としての意地。任務の遂行よりも、己の快楽。それを達成する為の焦燥感。

この状況でも“殺し”に拘る雹にも当然目的がある。

『永遠の闇』という巨大な組織の一員だとしても、全員が全員同じ目的の為に邁進する訳ではないのだ。自分が望みを達する為、騙し騙され、蹴落とし蹴落とされ。

その中で生き残った者こそが、真に強いと認められる。だが、そんな物はただの肩書きだ。本当に必要なのはそれではない。この手で掴み取りたいのは――


「――――そう、僕にもやらなきゃならない事がある……だから、僕は負ける訳にはいかないんだよォォォ!! お前を殺して、僕は……僕は!」


 腕の氷を無作為に伸ばし、力任せに振るう。長さは三メートルはあるだろうか。腕、というよりも柱のような太さ。

 当然、陽は反応して避けようとした。しかし後ろにあるモノの事を考えれば、避ける事なんて出来る訳がない。


「だったら、止める。止めてやる!」


 白銀を一度放し、龍に変化した腕に力を込めて、衝撃諸共受け止めた。抱きかかえるようにして。威力を殺し切れずに床が削り取られ、防水層を破って木毛板をも破壊。踏ん張りが効かない状態にあっても、今の陽には強靭な爪がある。


「こんの、お、オオオオォォオ!!」


 雄叫びは咆哮に変わり、込められた言霊は力に変わるのだ。この程度、受け止められないはずは、ない。


「……捕まえたぜ」


「は、放せ! クソっ切り離して……!」


 長くしたのは完全に間違いだった。それだけ的も大きくなるし、このように掴まれてしまえば切り離す事でしか逃げ道がなくなってしまう。

感情的になるのはいけないと自分でも分かっていたはずなのに。

何故、ここまで焦る。何が、この心をざわつかせる。まだ、優位に居るはずなのに。

この棘のような痛みはなんだ。恐怖か。今まで感じた事がないものを、どうして。


「うおおおおおぉ!!」


 大音声を上げて掴んでいた雹の腕を力の限り地面に叩き付けんとする。気合一閃、宙に浮いていた体は物の見事に床と衝突。


「ぐ……あ、ふっ……!!」


 肺の空気を全て吐き出したかのようにも聞こえる呻き声を出しながら吐血する雹。

氷で出来ていたとはいえ、しっかりと神経は繋がっていたようだ。壊れた右腕からも赤い液体が滲んでいた。


「僕をここまで追い詰めるなんて……でも、君は……勝て、ないよ? ……これを見てみなよ……」


 残った左腕には小さい鏡。陽を写していた鏡は、次第に揺らぎ、違う場所を写し出す。


「この期に及んで卑怯な……そんなに、死にたいか」


 陽が取り乱す程に衝撃的だった。

写し出されたのは学校内。結界は崩れ、途中に邪魔された氷の像は教室に侵入していた。

抵抗している者も見受けられたが、氷の像は足を止める事はない。場所によって被害者と思しき生徒や教師が倒れている姿も見られ、まさに惨劇だ。

幸輔が倒された事に因り結界の強度が低下したのである。陽が戦闘を繰り広げている間、徐々に徐々に侵食していったのだ。


「どうだい? ……ああ、素晴らしいだろ! まだ余興さ! メインディッシュはここからだ! ハッハハハハ!」


 指をと鳴らすと、鏡がまた違う場所を写す。


「……」


 陽のクラス。今までで一番酷いかもしれない。傷だらけになった見知った連中、友人。

至る所に倒れていた。残っていた結界が逃げる邪魔をしたのだろう。教室の戸の周りに倒れているのが多かった。

目を逸らす。逸らしてはいけない現実であるが、こればかりは見ていられない。

自分に関わっていた人間が、このような姿になっているのを。


「お前は」


「ん?」


 声を出した瞬間。強く地を蹴り、雹に肉薄する。

この憎たらしい顔に下から掬い上げるようにしてアッパーカットを打ち込む。

急な攻撃に遅れをとった雹は、頭上にあった貯水タンクへ叩き付けられ、タンクは凹み、水が溢れ出る。声を挙げる暇さえ与えない。


「お前は絶対に許さねえ……白銀も、これ以上は止めるな。俺を。……目的を吐き出させようとは思ったさ。だがな!」


 白銀の剣尖を雹に向けて、怒りの眼差しでその体を射止める。


「お前は俺に関係ない奴も巻き込んだ。わかるか? いや、わからなくてもいい」


 ジリジリと雹との距離を縮めていく。雹も動こうとしない。動けば殺されるのを本能的に察知したから。


「俺はな、正々堂々! 真っ正面からぶつかって来ねえ奴は大っ嫌いなんだ! そして、俺のせいで誰かに迷惑が掛かるのも!」


 大きな動作で白銀を高く振り上げる。

この一撃で、この戦いを終わらせる為に。


「だから、俺はお前の台詞で終わらせる。ああ、ああ! 言いたくはねえ! “殺してやる”!! 完膚なきまでに! 魔力の痕跡すら、残さねえ!!」

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