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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
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「渦巻く陰謀と青き殺戮者」29

 頭上を覆い尽くすは殺意の星。


「落ちろ!!」


 雹の動きに合わせて降り注ぎ、そのついでのようにを破壊の限りを尽くしていく。

結界も効力が切れ始めたのか、学校の外には野次馬が集まっているのも視界に捉えている。だが、陽が取るべき行動は結界の保護などではない。

この邪魔な星を打ち砕き、雹を斬り倒す事である。

だが現状は、飛来する剣を斬っては避け、斬っては避けの繰り返し。避ける動作は最小限に留めなければ、屋上どころか、学校ごと崩れてしまうかもしれない。

そんな思いが陽の動きを鈍らせる。


「くそっ……キリがねえ……! このままじゃ……!」


 陽の体には多くの裂傷。止め処なく流れる赤い液体は滴となって床を染める。


「どうしたんだい? 僕はさっきの戦いで少しばかり消耗しているんだけど?」


 まだ笑う余裕がある雹。ふわりと軽く宙に浮かぶ。だがその顔には汗が滲み、髪がまとわりついている。


「――陽。お前が怒りに震えている状況であるからこそ、言わせて貰う」


 戦闘時にはあまり喋る事の少ない白銀が口を開くときは、大抵が今までの戦闘経験から見て来た、その状況に見合った突破口。そして、使い手に危機が迫っている時だ。


「……なんだ?」


 氷の星を斬る手は止めずに、白銀の話を促す。先程はああ言ってしまったが、白銀の助言程重要な物はないのだ。


「……本来であれば、今がその刻ではないのだろう。下手をすれば、教える必要性も無いままだったかもしれない。だが、今であればこそ。我が達彦より託された魔術を使い、お前の中の龍族としての力を解放する」


 龍としての力を解放するという達彦から託された魔術。どうして白銀がそのような物を託されているのか、どのような会話があったのか、そのような事は後回しだ。


「師匠、から……? 白銀、何を……」


「なるべくなら使うなときつく灸を据えられていたが……この際、仕方無い。使わせて貰わねば勝ち筋が見えぬ。耐えろよ」


 白銀を中心に魔法陣が展開され、それが次第に収束、陽の身体へと馴染んでいくではないか。

生まれる熱量。内側からこじ開けられるかのような錯覚。降り注ぐ氷が身体を貫くが、その痛みすらも軽い程、強い刺激。

腕は止まり、白銀を取り落としそうになるが必死に堪え、歯を食い縛りながらも一個一個撃墜する。


「っ……今の……姿は……?」


 ――急に思い浮かんだ父親の顔、龍族の肉体。


「ああぁぁあ!! 身体が……熱い……! 聞こえる……咆哮が……俺を呼ぶ声が!」


 何かが心臓を叩くのを全身で感じた。それは次第に速くなる。まるで自分が応えるのを待っているかのような。


「達彦……すまない。我はどうも――――術式発動!」


 魔法陣は一本の直線となり陽の胸に打ち込まれる。

不思議と痛みは感じなかった。

微かな温もりだけが陽の体を支配する。


「ふー……今更何をやらかすかと思えば……自己強化の魔術じゃないか。悪あがきにもならないよ?」


 疲労が強く顔に表れている雹。

これまでに常時使用している魔術は四つ。氷の像、氷の腕、氷の剣、そして浮遊。どれだけ陽が強化しようが追い着けないだろう、と踏んでいるのだ。


「悪あがきじゃねえよ。一発逆転の……突破口だ! ああ、これだ。これが、お前を斬る姿だ!! 目に、焼き付けろ!」


 しかし陽は。諦める事は絶対にしない。体中に異変を感じる。変わっていく、という不思議な感覚。本質が、人としての枷が外れる感覚。

視界で捉えている箇所は腕と足に灰色の鱗。短めではあるが鋭利な爪。

全身、このような様になっているのだろう。

突然の体の変化に靴は耐え切れず裂け、爪と鱗に覆われた両足を曝け出す。腰の辺りには尻尾まであるではないか。


「……そういえばドラゴンだったけ? すっかり忘れていたよ」


「俺は忘れた事はねえ。自分がこうなった事には驚きだが――」


 ふと、白銀に自身の姿を映してみた。首元まではしっかり変化しているようだ。顔の左半分はなりかけなのか、縦に一筋だけ、その予兆が見られる。

これが、陽の龍族としての姿。

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