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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
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「渦巻く陰謀と青き殺戮者」28

 雹の両腕を取り巻く魔法陣。それらが回転しながら移動すると、指先から肩へと順繰りに氷へと変化。中にうっすらと見えているのは、まるで、骨のような。


「ふっ……とりあえずこのくらいで良いかな? それじゃあ、始めようか――」


 その手に握られているのは氷の双剣。硝子の如く透き通り、雹の歪んだ口元にも似た刀身は弧を描く。


「これはねアイスクロス、なんて人間の真似事で名前を付けてみた僕の愛剣さ。でも最近は使うような強敵っていうのがいなくてねぇ……だから加減――――出来ないよ!!」


 双剣を空中に投げつつ逆手に持ち替え、それと同時に一直線に陽へと駆ける。戦闘が開始したというのにその顔には笑みが張り付いていた。それが当然だとでも言うのだろうか。


「そいつは好都合だ……俺もな、加減って出来ねえんだよッ!!」


 対する陽の瞳に宿るのは戦意、闘争心、そして怒り。沸々と滾るこの熱量の矛先は、決まっている。

突っ込んできた雹の片腕を受け流し、引き寄せて顔面への正拳突きを見舞う。利き手でない左腕であろうが、魔力によって補強された陽の拳の威力は言うまでも無い。


「吹きっ……飛、べぇ!」


 拳に伝わってくる骨の感触。

反発しようとしてくる力。歪む顔面。

それらを有無を言わさず弾き飛ばす腕力。

見事に雹の顔面を捉えた拳はその勢いを失わずに殴り抜ける。

 陽の拳に当てられた体はコンクリートの地面を転がり、そのままバウンドしてフェンスへと衝突。まるで磔にでもされたかのような格好に。


「――――アッハハハハ! ……僕の最初の一撃を防いだのは君で二人目だ! 光栄に思うと良い!」


「悪いがまったく嬉しくねえ。速度だけで俺を殺そうだなんて虫が良すぎるぜ」


 背中を突き刺すひしゃげた金網を力任せに引き千切る。痛みはあるが、この程度で止まるはずもない。致命傷でもなんでもないのだから。

陽の殴った頬も既に魔術に因る回復を始めているらしく、赤みが残るだけとなっていた。


「ところで、少し言いたい事があるんだ」


「……聞いた方が良いか?」


「耳を貸す必要は無いだろう。敵だ」


「いやいや、そう拒否せずに。すぐに終わるからさ。……僕はね人間を殺すのが好きなんだ。何と言うか、本能的に? そう、それこそこういう風に戦っている時でさえも……目の前の、相手以外の人間を襲いたくなる!!」


 見開かれる両目。そこから感じられるのは魔力。すると、どこからともなく多くの悲鳴が耳に飛び込んでくる。


「お前、何を――」


「とぉくにぃ!! 君の、友人とやらは徹底的に嬲り殺してやる……僕の演技を大人しく見ていなかった、せめてもの罰だ!」


「…………」


「嗚呼、アア、そういう顔だ! 僕は、僕はそういうの大好きだ!」


 整い過ぎた顔には欲望を満たす事しか写されていなかった。

ならば、と。陽の体は既に動いている。


「そうだ、怒れ! 本気で、殺しに――」


「……死にたいか。なら、望み通り、殺してやる」


 衝動的に口から迸った言葉、それが刃と化したかのような、斬撃。高揚した雹の右腕を切り落とした。音も無く、ただ怒りをぶち撒ける。骨などという邪魔な物はあるが、斬れないはずはない。陽の腕力と白銀の斬れ味があるのだから。


「っうぅぅ……!!」


 右腕を落とした。次はどこだ。どこを斬る。左腕か、それとも足か、否、いっそ首ごと落としてしまおうか。こいつに温情など掛けてやる必要は無い。


「陽! 怒りに支配されるな! 心を研ぎ澄ませ!」


「黙っててくれ白銀。こいつだけは許さない。許されない」


「陽……」


 白銀の叱責すら耳に入らず、陽の怒りのボルテージは上がっていく一方。自分ではない、友人を傷付けようとしている事に対しての怒りは底知れない。

雹にだけじゃない、守ると決めたはずなのにこうも容易く手をだされている自分に対しても。


「ああぁクソ……なんでいきなり腕を……そういうの僕の領分だってのに……せっかくだからこれでも使っておくか」


 落とされた右腕は魔術強化が解けて水に変化しているではないか。しかし、痛みを感じない。そういう技量なのか、それとも自身の肉体がそうさせているのかは分からないが。また作れば良い。簡単だ。

そして怒りに震える陽を一瞥すると、魔術詠唱を開始する。


「“空に輝け氷達、僕に仇なす愚者に滅びの星を”」


双剣を空中に投げると、双剣はピタッとその場で停止。

輝きを放つ。


「“幾万の流星は氷のフローズンスターズ”」


 みるみるうちに双剣は二人の頭上を満遍なく埋め尽くす。

太陽の光を反射して光るそれは、本当に夜空で星が瞬いているかの如く美しかった。


「どうだい? キレイだろ?」


 脳内を怒りが支配している陽でも、この魔術を見たせいか先程の言葉が気に掛かってしまう。

戦っている時でさえも、目の前の人以外を襲いたくなる、と言ったのだ。

つまりこれは――


「俺だけを狙った魔術じゃない――? させるか……!」


 こんな数を相手していれば確実に、見えない部分は校内の生徒に被害が及んでしまう。


「止めてみせる! 俺が!」

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