「渦巻く陰謀と青き殺戮者」27
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陽は反省文を書かされている。監視付きで。
やっと二枚目に差し掛かり、一息ついていた時、ふと魔力の波動を感じた。
所謂第六感的なものなのだが、魔術師には当然の感覚器官である。
微量であれば気にする事はないが――感知出来る範囲は個人に因るが、一級の魔術師ともなれば過剰な程敏感になってしまうとか――、この、神経を逆撫でするような、悪意のある魔力であれば距離があっても、嫌でも知覚出来てしまう。
(嫌な感じだ……)
「どうかしましたか? 急に立ち上がって……」
スイッチが入ってしまった陽。教師の言葉など耳に入らず、ただ魔力を感じる為だけに感覚を研ぎ澄ます。目を閉じ、痕跡を辿る。根源は、学校。しかし、どうも結界が張られているらしく探知はそこが限界だ。洩れ出て来るのは――
「……先生……」
「何ですか?」
「ごめんなさい! ちょっと大人しくしててもらいます!」
教師の顔に手を翳し、ほんの少しだけ魔力を放出。目に見えない力は魔術を知らない人間には相当な圧力になってしまうが、今はそれどころではない。しかもこうしておく事で安全を確保出来る。
簡単に言うと、昏倒させるのだ。意識を飛ばす、でも良いだろう。
魔術を嗜む者の勤め、一般人を巻き込まない、を遵守する。
「なに、を……?」
「すみません。これしか方法思い付かなかったんで……記憶処理は協会に連絡しておかないと」
すると、そのまま机に倒れ込む教師。慣れない技であったが、無事に入ったみたいで何よりだ。失敗していたら大変な事になっていただろう。特に陽の場合は加減が効かない。想像もしたくない結果だが。
「――――行くぞ、白銀。嫌な予感しかしねえ」
「無論だ」
白銀を引っ掴み、竹刀袋でカモフラージュする。準備は完了だ。あとは、全力で学校まで走るのみ。
騒ぎになっているのは恐らく学校内部だけだろう。故に、陽が走っている間にも人々はいつも通りの生活を続けられている。
「誰にも手さえ出してなければ……!」
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――二十分後。
陽が結界内に突入した際、学校は酷い有り様だった。
至る所に割れたガラスの破片が散らばり、衝撃か何かで落ちた消火器から漏れ出す消火剤。
罅割れた内壁。賞状やらお手製の新聞やらも悉く破壊され、見るも無残な状態だ。更にはけたたましく鳴り響く警報機。
しかしそれでもだ、誰も助けに来ない。来れない。少なくとも、一般人は。
だが、これだけの惨状でありながらも、一つだけ良かったと思える事がある。それは、全員が何らかの教室内に避難をしていて、教室にも守護結界が張られていた事だ。
数日前に埋め込んだ術式、それがこの人払いを強制的に行い、更には閉じ込めて守護する結界なのだ。幸輔が仕上げを行っていたのは、その術式を完全に土地へ馴染ませる為。お陰で誰一人として教室の外へは出られない代わりに、危害を加えられていない。
「何だあれ……? 敵、だな?」
「そのようだ。破壊を推奨しよう」
「ったり前だ……!」
校内を走って雹を探していると、遠方に人型をした氷像がある教室に群がっているのを発見。その教室とは――――陽のクラスだった。
「――邪魔だっ……退けえ!」
勢いを殺さずに飛び上がる。
一撃で仕留め、皆の無事を確かめる為に。
白銀を握る手に力を込め、廊下の壁ごと横一線に氷を破砕する。
「よかった……皆居るな」
状況を理解出来ていないであろうクラスメイト。陽が戸の前に立っていても気付かないのは結界の中に居るからだろうか。理屈などどうでも良くて、無事ならそれで良い。
怯えてこそいるが、ヒステリーを起こしている者も居ない。
「さっさと終わらせるから……待ってろ」
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「いや~。ここまでたぁ思わなんだ……術の構成が間に合わないよ。しかも、それ、本気じゃないよね?」
額から流れる血が入らないように目を閉じて、損傷した左腕を抑える。
「当然。あなただって、その体は本物じゃない。よくそこまで動けるよ」
髪を風に靡かせて笑顔を作る二人。強がりか、それとも余裕か。
「そこまでバレてたか……んじゃ、あとはちょっとだけデカいのを使わせてもらうよ?」
幸輔の姿が揺らいだと思えば、一人二人……、と増えていく。分身、というやつだろうか。
「東洋のアレだ。知ってる」
「ま~ボク一応、忍者なんでね……受けてみなよ? 痛いよ?」
僅かに衣擦れ音を立てて、合計九人になっていた幸輔全員が姿を消す。
「ああ――なかなか速いですね」
「え? 普通じゃない? あれっ痛くないの?」
消えたかと思えば、突如現れた八人の幸輔。雹の四肢をクナイで突き刺して捉えている。
その状況下で、痛みを感じさせない涼しい顔。思考ももう一人は、と探せてしまう。
「こっちこっち~。んじゃ、行くよ~! 御門流――――九点風車!」
雹を捕らえていた八人がそれぞれ新たにクナイを持ち替え、雹の周りを疾駆する。徐々に速度を上げ、次第には視界から消え去ってしまう程。更に駆けながら、クナイで傷を負わせる。ひとつひとつは小さくても、受けている内に大きな傷になっているという寸法だ。
「ほい、終わり~っと……」
走っていた八人は空気のように消え、体勢を整えようとした雹の眼前。無数の手裏剣が襲い掛かる。
「……残念でしたね。」
幸輔の背後に立っていた雹。手には氷の槍。
「あっちゃ~。そっかぁ、ま、時間稼ぎにもなった事だし? 龍神、後はよろしく~!」
ポンと気の抜けた音で紙に還る幸輔。屋上の扉の前には、陽。
息も切らさず、ただ立ち尽くす。その瞳には闘志を滾らせて。
「待たせた、なんて言わない。ただこれだけは言わせろ。“俺はお前を許さない!”」




