表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
56/68

「渦巻く陰謀と青き殺戮者」26

*****



 ――雹は仮初めの友人たちと接していた。主に雹の見た目に心を奪われてしまった女子が主である。

彼の存在はクラス内だけでなく、当然のように校内へと広まっており、休み時間と言えど女子が途切れる気配が無かった。人が増えるに従って自ら場所を移すのも好印象だったのだろうか。今日は少ないようだが。

しかし、そのような黄色い声に囲まれながらも彼女らに見せるのはいつものように自分ではない別の存在。氷室雹という、作り上げた仮の姿。


「また殺人事件があったんだってね……怖いなぁ……」


 雹の近くに居た女子の一人が放った言葉に、話題はそれ一色に。


「しかも、今回は私の家の近くの公園だって……音とか聞こえなかったけど……」


 雹の顔が曇る。勿論、演技。最近表情の幅も増えてきており、その点に関して言うのならば、この姿も悪い物ではなかった、という事か。

そんな雹の心の内。苦しくて、辛くて――などという感情は一切無い。

ただ、面白くて可笑しくて楽しくて、今にも笑みが零れてしまいそうだ。


「――――僕はそういう人は許せないな。何があったかは知らないけど、命を奪うなんて……許せないよ」


 噛み殺すのは痛みでもなく、悦び。自分という存在をまるで違う者と認識している人間たちへの優越感。命を奪った存在はここに居るのに、気付かない愚かな人間たち。

だがあくまでここで湛えるのは、正義感の塊のような瞳。

その奥底に潜むは、貪欲な殺戮者としての欲望。込み上げて来るのは破壊への衝動。


「っ……あ、ああゴメンね。何か変な事言っちゃったみたいで……ちょっと外の空気を吸ってくるよ」


「でももうすぐ授業だよ?」


「大丈夫、すぐ戻るさ」


 笑顔を取り繕い、教室を後にする。目的は決まっていた。潮時だ。


(そろそろ動かないといけない、か。騎士長様からの直々の命令があったし、頃合いか)


 当然ながら理由もあった。余り騒ぎを大きくするな、ときつく言われてしまったのだ。まるで人間のようだが、上に居る者たちはそういう思考らしい。


「……十分楽しませて貰ったよ。あとは、壊すだけさ――」


 誰にも気付かれないように薄く口元を歪めさせる。

行き着いた先は屋上だ。

授業前なので誰も居ない。

雹の狙い通り。


「さあ、殺戮ショーの始まりだ――――」


 両手を大きく広げると、雹の頭上に魔法陣が出現。


「“魔氷に体を! 体に命を! 顕現しろ――」


 禍々しく光を放つ魔法陣から氷塊が降り注ぎ、地面に接すると徐々に人型に変化。時折砕けた物同士がお互いを吸収しつつ更に大きさを増す。


「――氷魔像!”」


 雹の鋭い声を皮切りに、完成した氷像たちが蠢き始める。まるで命を持っているかのように。


「“行け”」


 氷像は待ってましたと言わんばかりにごつごつした足のような部位を動かす。足跡は立ち上る冷気。律儀にもドアから校舎に侵入をするつもりらしい。 


「――――あっはは! 見事に掛かってくれたよ! 大縛鎖ダイバクサプラス結界~!」


 ――間延びした声が雹の耳に聞こえた時にはもう遅かった。

地面に刻まれた術式が発動していたのだ。


「なんだ、コレは……! 一体誰が……龍神陽はこの場には居ないはず……!!」


 魔法陣から伸びた光の筋。それらが幾束にも交錯しながら雹の体に巻き付き、身動きを完全に封じる。手足は当然、腹から首まで隙間無く。漏れ出す魔力すらも封じ込める光の鎖。


「ふぅ……まったくさ~、君は人の仕事を邪魔したいのかな? この大縛鎖、完全じゃないから時間稼ぎにしかならないじゃん?」


 扉から出て来たのは幸輔だった。走って来たのか、額には汗が滲んでいる。二年生の教室から屋上まではそれなりに距離があるからなのだが、それは今回は口に出す必要は無いだろう。


「おっと、紹介が遅れたね~。ボクは御門 幸輔、名前で呼んでくれると良いんだけど。ちなみに二年生だからね~」


「……イレギュラー……か。まあいいや。この拘束解いて頂けませんか?」


「そいつぁ無茶な注文だよ。君たちの目的が何なのか、心を読ませてもらうんだからね~」


 みるみるうちに幸輔の手に術式が組まれていく。読心の術式。


「――では、質問。君たちの目的は何なのかな?」


 声色を変え、仕事モードに。逃がさず、殺さず。少なくとも情報を聞き出すまでは、だが。


(とにかく龍神が来るまで、保たせなきゃな。やっぱこの体じゃこの子には勝てないみたいだし)


「そんなの教えられませんよ。それより僕に構っていると、生徒達が危ないんじゃないですか?」


 たとえ状態は良くなくとも、雹の質問は軽くあしらう。親指をグッと立て、歯を見せて笑う。勝算があるのだろうか。


「大丈夫! 事前に全教室には強度随一の御門流結界を張らせてもらったからね~あんなオモチャじゃ壊れないよ? 壊されたら顔が立たないからね」


「そう、ですか……じゃあこちらも、少々本気で行かせて貰おうか……!」


 校内で爆発音がし、直後に激しく揺れを起こす。


「……なるほど……使い魔を爆弾代わりに……あくどいなぁ大縛鎖から魔力を送るなんて酷い奴だ」


「そういう性格なんでね。手駒は減った。けどこれを壊してまた増やせば良いさ」


「ああ性質が悪い……でもボクだって性格は良くは無いから、覚悟しててよ」



*****

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ