「渦巻く陰謀と青き殺戮者」25
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――幸輔は数日前に仕掛けておいた術式の最後の仕上げに取り掛かっていた。各所を周り、決められた通りの魔術を組み込む。
他の人間にも手伝わせて良いのだが、人数が増えれば増える程、敵に感付かれる可能性が高くなってしまう。故に、今回ばかりは幸輔のみで行う予定となっていた。
その頃、学校内ではもっぱら鍵壊しの話題で持ちきりだ。自分達がやった訳だが、見付かる心配はまったくしていない。さすがに溶かすなどという方法を取る人間など居ないだろう、と思ってくれるはず。
「あ~だるいな~……本元ちゃん早く帰ってこないかな? いー加減学校もめんどいし? でもサボればあの人キレるんだよな~」
そしてこの口振りから察せるように、こちらの幸輔は式紙である。本元、つまりは御門幸輔本人であるが、彼は只今京都にて情報集めの真っ最中。
一応は高校二年生という職業なので就職やら進学やらを気にしているため、休みが目立つようになってしまうと非常に危険な状態になってしまう。
そこで式紙幸輔の出番という訳だ。しかし本元と性格もほぼ一緒になってしまった式紙幸輔は、面倒事を他人に押し付けてしまう困った癖があった。本人の才能が災いしてしまったのだろう。
「ん~あと何個だったっけ? 出来れば今日は動いてほしく無いんだよね~でも、もう一週間経ったからな~そろそろ動きそうだし……龍神の停学もあと少しだし。はぁ……急ぎましょ」
仕上げというのは欠陥が無いかを調査し、必要であれば補強や修繕を行う事。
元々が式紙という魔術で構成された体のお陰なのか、手で触れたりするなどの直接的な接触が必要無い。近くを通り過ぎるだけである程度のチェックが可能なのだとか。
ただ、これにもそれなりの欠点があった。
それは……学校中を歩き回らなければならないので、朝早くから登校しなくてはならない事。未だに終わらず、はや一時間目を告げるチャイムが鳴っている。
「っととと……戻んなきゃ。十分に一個のペースだな~。動いても良いけど、屋上か体育館裏じゃないと……まず、この体で太刀打ち出来るのかな?」
ブツブツと愚痴を言いながらゆったりとした足取りで教室に戻り始める。既に授業は開始しているはずであるが、気にしていないらしい。
「ちょっとぐらい遅れたって良いよね? ボクは別に来たくて学校来てるわけじゃないし……電話? もしもし~」
誰もいない廊下に幸輔の間延びした声が響く。
『やあ~。久しぶりだね、ボク』
「……本元ですね~? これはこれは元気そうで……」
電話をかけてきたのは本物の幸輔。まったく同じ特徴的な喋り方。ここまで精巧に術式を組み、鏡映しのようにそれを実行出来るのはなかなか珍しいのだとか。それだけ幸輔の技術レベルが高いのだ。
「何用です? そちらから電話なんて?」
『もしかして君分からない? あらら~それとも、喋ってなかったっけね? 身代わりの式紙は術者の意識と同調してるんだよ~。数分遅れがあるけどね。意味、わかる? ドゥーユーアンダースタンド?』
若干怒り気味らしい。英語で質問をして来た。
それを聞くや否や走る式紙幸輔。急がなくては今後の出番が無くなってしまうし、彼の情報集めにも支障が出る。下手をすれば式紙に戻される可能性も。つまり、廃棄処分な訳だ。
『ま、今回は許すけどさ~。龍神いたら龍神にやらせれば良かった訳だし? ボクの説明不足ってのもある。だから、今回はお咎め無し~。そんじゃ、授業頑張ってね~』
ほっと息を吐くが、これも本人に聞こえているのだろう。まったくこの体は、とこれまた愚痴を溜め込みそうになってしまったがぐっと堪えて心の中で謝罪を。
その頃にはすっかり教室へと舞い戻っており、渋々と静々と教師に遅れた理由を説明し、自分の席に着く。
(さすがは本元。そこら辺も抜かりないな~……もしかして授業も聞けてる感じなのかな……お得~)
陽とは違い、しっかりと黒板に書かれた文字をノートに書き留めていく。性格に似ているのか、文字も丸みを帯びていた。
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