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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
53/68

「渦巻く陰謀と青き殺戮者」23

*****



 転入初日から敵と対峙してしまうという失態を犯してしまったものの、持ち前の演技力と巧みな話術を駆使して万事丸く収めた、はずだ。はず、と言うのもどうも一部からは不信感を募らせてしまったらしいのだ。まったく人間というものは悉く面倒である。


(なんなんだ……僕よりあいつを信じるっていうのか? ……まあ、いいさ。君達には最高の舞台を見せてあげるからね。信じた人間がボロボロになっていく姿を)


 怒りながらも口元を歪ませ、隠しきれない悪意を周囲に振り撒く。幸いにもここには人気がない。否、わざと人の居ない場所を選んで歩いているのだ。

その理由は簡単。ここに居れば向こうからやって来てくれる。それがこの場所。光の届かない場所に集まってくる、ロクでもない連中が。

喧しい、喧しいがそれもすぐに終わるだろう。


「ん……? なあオイ、待てよ。なんだあいつぁ」


「高校生? 面白そうだし行ってみようぜ」


 ――来た、とわざとらしく立ちはだかる。するとリーダー格と思しきチンピラが声を投げてきたではないか。やはり、こういう類の人間の思考は非常に短絡だ。


「俺らになんか用か? 邪魔すんならボコっちまうぞ?」


「……」


「まさか俺らを知らないなんて言わねえよなぁ? こんなとこに居るんだ、名前くらいは聞いた事あんだろ?」


 にたにたと無駄に綺麗な白い歯を見せ付けて雹の肩を掴む。金でも脅し取ろうという魂胆だろう。

だが当然この程度で怯えたりするはずもなく、チンピラを刺激するだけだ。


「おい聞いてンのかぁ!?」


「じゃあ殴って吐かせようぜ?」


「そうだな金は持ってそうだ。タバコ代くらいにはなんじゃね」


 俯いて無視を続ける雹を投げ飛ばし、雹を仲間へと渡す。

そのまま雹は二人掛かりで羽交い締めにされるが抵抗はしなかった。


「チッ! 気味のわりぃガキだな! 何か言えって――」


 言葉が途切れた。雹の背後の二人が突如として膝から崩れ落ちたのだ。白目を剥き、口の端から泡を噴き、全身を痙攣させながら。


「っ……てめえ、何やった……!」


 言いながらも雹に殴り掛かる。仲間がやられたとなればこうするしかないだろう。自分の身を守る為にも。


「――フフッ……イヤだなあ、眠ってもらっただけですよ。……永遠に、ね。それと、逃げないのは感心だ」


 ここに来てようやく口を開いた雹は、別人のようだった。身に纏う雰囲気は“凍血の殺戮者”。身の毛もよだつ冷気と、血の臭い。

 ふと、視線を動かすと羽交い締めにしていたチンピラの体には至る所に裂傷や凍傷が見受けられた。


「ああ、嗚呼……ちょうど良いねぇ。今日は新月みたいだ……君達の血と悲鳴がキレイに映える絶好の日だな」


 殴り掛かった男の腕は無惨にも関節から斬り落とされ、遅れて断面から鮮血が滝のように溢れ出る。次は脚を、胴をとじわじわと分解していく。

返り血のシャワーを浴びる雹は笑顔。学校での張り付けた笑顔よりも、数倍おぞましい狂喜の笑み。


「アッハハハハ! 所詮人間なんて非力な物さ! 僕の娯楽程度にしかならない道具なんだから!」


「な、何だよコイツ……ば、化け物……たすけ……」


 残りの仲間はただ呆然とその光景を見せ付けられ、力無く尻餅を付く。形振り構っている場合ではないのだが、体が言う事を聞いてくれない。


「逃がさないよ。そもそも逃げられるはずがないんだ」


「あっあ足、凍ってて、動かない……ひいいぃ……ぎっああぁあ……!! いやだいやだ……やめ」


 触れる事無く雹の前に立つ人間は一人一人バラバラに解体されていく。

一撃ではなく、右腕を落としたら次は右足を、その次は……まるで遊んでいるかのように。

斬られた相手も痛覚が生きたままらしく、肉や骨を通じて全身に衝撃が走る。


「さあ。あとは、君だけだよね? どこからが良いかな? 足か、それとも……指一本ずつってのも、イヤ、それはそれで面倒だなあ」


 顔に浴びた返り血を味わうように舐めとり、残り一人となった男を見下して。


「来るなぁ……来るなあぁ!! くっそどうなってんだよ……!」


 手近にあった石を投げつけるが、それが雹に届く事は無く、何らかの力に遮られて地に落ちる。


「もう自我も保ってない……か。良いよ。一思いに苦しみは少なく、殺してあげるよ!」


 振り上げた手に握られていたのは氷の槍。それで男の心臓を一突きする。これで、終わる。

本当に苦しみの少ない方法なのだろうか。

命を奪われるのに苦しみが多いも少ないもあるわけがないのだ。

一突き。体を貫き、背後の壁までも貫通させる威力。

男はがっくりと項垂れ、ついに動かなくなった。

……死んだのだろうか。

不気味な音を立てて氷の槍は男の胸から抜かれる。

槍の先端には大量の血液。


「ふぅー……なかなか愉しかった、かな。気晴らしにもなった。ありがとう」


 その顔には“氷室 雹”が戻っていた。満面の笑みで再び歩き出す。

深夜零時の出来事だ。



――翌朝。


『今日未明、大量殺人事件が発生しました。近隣住民は十分に気を付けて……』


 その現場には大量の血痕と、謎の氷が残されていたという。



*****

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