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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
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「渦巻く陰謀と青き殺戮者」22

 ――校舎に侵入陽が居るのは体育館。

その大体中心にしゃがみ込み、熱心に何かを唱えている。


「――――彼の地に住まいし霊よ、汝の力を拝借する。此の場に網を張り巡らせよ」


 手を床に優しく触れると、魔法陣が形成される。大きさは体育館の面積の約半分。青白く輝く涼やかな光。


「で、この次に隠蔽用の術式だな? ……此処に眠りし者を霧の中に隠したまえ……」


 触れた手を放し、新たな呪詛と共に紙を一枚空へ放つ。紙は一瞬にして粉状に変化、霧の如く漂うと次第に天井や床、幕などに浸透していく。


「これで、あと四つ……まったく、何の術式なんだか……っともう五時じゃねえか……間に合うのかコレ? 学校無いからいいけどな」


 幸輔から与えられた指示は、校内の合計百箇所に何らかの術式を埋め込み、強力な隠蔽用の術式を上掛けするという単純な物。

そして魔術の苦手な陽に手渡されたのは五十枚の式紙の束だった。これの補助があればこその魔術なのであるが、何故こんなに時間が掛かってしまったのかと言えば、一応は学校。戸締まりがしっかりしていたのである。

陽の担当する事になった埋め込みの必要な教室や科学室、保健室などの鍵が見つからなかったのだ。仕方無く幸輔に電話すると。


『あ~、壊していいんじゃない?』


 それはさすがにまずいと思った陽は――屋上の扉の件は別らしい――、どこからか取り出した針金で南京錠へのピッキングを開始。だが細かい作業が苦手な陽は、一分経って開かないとみるや否やイライラが募ってしまい、結局大半を破壊。破壊は破壊だが、火気の術を使い、熱で溶かしたのだ。これで犯人特定に時間が掛かるはず。むしろ、見付からない可能性の方が高い。

 そんな事をしている内に残り一つとなった。ラストは屋上。ここを仕上げれば自分の仕事は完了する。

どうやら他の担当者はほとんど帰ってしまったようですっかり人気を感じなくなってしまった。


「ここは……やっぱりキレイだな。いつ見ても……よしっ始めるか」


 朝焼けが街を包んでいく中、学校の屋上に青白い魔法陣が輝く。

五十回目の同じフレーズ。うっすらと輝く空の赤と青が交差して、幻想的な空間を醸し出す。


「――これで、終わりっと」


 ――魔法陣が溶け込み、電話が鳴るまで、陽は夜が明ける街を眺めていた。


『そっちも終わったみたいだね~。それでさ~そろそろ逃げないとマズいみたいだ~』


「え? それはどういう――あれは……!?」


 それはとても聞き慣れた音で、嫌な音。白と黒のコントラストが美しい車が、赤い回転警告灯を煌めかせながらやって来る音だ。世間で言う警察車両、パトカー。陽のとてもとても、苦手な車。


『いや~……まさか警報機壊しちまうとはな~予想外です? お先に~』


「あんたのせいかよ! くそっ、飛べないから走るしかねえじゃんか!」


 屋上の扉を乱暴に開け、全速力で階段を駆ける。捕まってたまるか、その心だけが陽を突き動かす。気分はまるで犯罪者である。何の考えも無しに走っていた。玄関に着いた時、陽は一つの勘が働く。


「あれ、玄関から出たら捕まらね……?」


 急に現われた睡魔と壮絶な闘いを脳内で繰り広げながらも、思考を全力で回転させる。


「待て待て、考えろ。……こっからの距離は大体五十メートル。木気で脚力を強化……出来ないから――」


 手を顎に当て、唸る。黙れ睡魔、と力技でねじ伏せながら。


「窓から逃げる、のも無理だな。……何か方法は?」


 ズボンのポケットからカサリ……と乾いた音がした。何が入っているのかと思えば、先程まで作業に使用していた式紙。予備に一枚多く配られていたらしい。信用されていなかったのだろうか。そこは今は気にしないでおこう。


「式紙? 術式は……隠蔽! 行ける!」


 式紙を握り、呪文を唱える。発動される魔術は隠蔽。その対象は物に限らず、人にも掛ける事が可能だ。粉に変わった式紙を纏った陽。特に大きな違いは無いが、ほぼ見付かる事は無い。

稀に霊感の強い人間には感じ取れるらしいが、そういった人間はその能力を信じない、もしくは自ら隠す場合が多いのだ。

その感覚を率先して強化していくのが魔術師というものだったりする。


「まったく……こんな朝っぱらから仕事だなんて」


 若い男の警察官が、欠伸をしながらパトカーから降りる。


「私語は慎め。このような時間帯の出動も多い。それに、最近この辺りでは殺人事件が起きている、仕事を怠けている場合ではない」


 運転席から降りた警察官はとても厳しそうな人だ。自分の仕事は全うする、そんな感じを受ける。


「お勤めご苦労様。聞こえてる訳無いんだけど」


 陽はその真横を普通に素通りする。隠蔽しているといっても抜き足で歩いてしまう。


「……誰だ!」


「っ!?」


「へ?」


 厳しそうな警察官が陽の歩いている方を向いて、拳銃に手をかける。


(バ、バレた……?)


 生唾を飲み、息を殺す。心臓の音が漏れてるのではないかと思うほど、大きく聞こえた。


「気のせいか……」


「誰もいないっすよ? ちゃっちゃと終わらせて帰りましょ」


 若い警察官は先に校舎に向かって歩き出した。厳しそうな警察官はまだ何か引っ掛かるらしく、時折後ろを確認しながら入っていく。二人が見えなくなるまでしばらくその場を動けなかった。


「あの人には出来ればもう会いたく無いな……マジで捕まるかと思った……」


 浮かんできた冷や汗を服で拭い、陽は走り出した。七時までに戻れば月華に見付かる心配は無い。

後は埋め込んだ術式が何なのか幸輔から聞き出すだけだ。

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