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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
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「渦巻く陰謀と青き殺戮者」20

*****



 ――処分を与えられてから二日が経過した。月華からは相当――主に食事の――心配されたようだが、どうにかやっていけている。

別に四六時中監視が付いている訳ではないし、通常の停学処分とは違って生徒指導室に通う必要も無ければ頭を丸める必要も無い。たまに学校から電話が来るのは面倒だが。

 昼を過ぎた頃、陽は敷地内の道場に居た。壊れても直して使っている愛着のある特注竹刀。長さ、それから重さを、実戦を想定して作成した専用の物。


「先程より振りが遅くれている。得物の動きを計算しろ!」


 道場に響き渡るのは白銀の声だ。それに負けじと聞こえてくるのが竹刀の風切り音。

剣の師である達彦の失踪後、鍛錬をする際には白銀に見てもらうのが通例になっていた。

白銀は鍛錬時、鬼のように怒涛の檄を飛ばす。これにも当然理由があるのだ。

戦闘とは命の駆け引き。一瞬の判断の遅れが命取りになってしまう。だから、自分や周りの状況、相手の実力等を的確かつ冷静に見極めなければならない。


「そのまま振り切れ、止めるなよ!」


「――――!」


 この剣術の鍛錬は約三時間休憩無しのぶっ続けで行われる。

肩慣らしのような基本的な型から始まり、応用、最後は研究中の自分独自の型と順にこなしていく。

自分独自の型というのは、基本や応用の技に得意な体術や魔術を組み込む事だ。

今まで陽が見てきた『剣凰流』の門下生には、柔道やボクシングなどといった格闘技を組み合わせたものを使用する者も居たが、やはりどちらも素手の競技。剣術と併せるのは少々無理があったらしい。

はたまた魔術を使う者は、詠唱の長い高火力魔術を組み込もうとした結果、詠唱中に噛んでしまい、諦めたという逸話もある。真偽は定かではないが。


(ここで指を離して角度を取る……遠心力に逆らうように柄を引く……!)


 陽はといえば、剣術一筋でやってきた為か魔術を組み込もうとすれば暴発し、体術を組み込もうとすれば剣が振れないと愚痴を言う。


「剣はそこまでで十分だな……陽、今日は術式を組み上げてみろ。どんな物でも良い。大きさも任せる」


「ええぇぇ……マジかぁ……」


 術式とは、魔法陣の形式である。そこに魔力を流す事で魔術を発動させる事が可能となるのだ。慣れない内は対象物に直に書き込む必要があるが、それでは隙だらけ。

故に魔術師は頭の中で発動する為の術式を構成し、結果を想定させる事で、確定させた魔術を行使する。


「んーっと……」


 白銀の指示には逆らえない。仕方ないなと思いながら陽が目を閉じると、足元から小さな青白い円形の光が現れ、それは次第に大きさを増し、床を覆い尽くす程となっていた。時間にしてものの数秒。


「こ、こんなもんか?」


「大きさは置いておくとしよう。構成、魔力の流れと展開時間には問題ないが……ところで、これは何の術式だ?」


「……さあ?」


 頭を掻き、首を捻る。自分で創った術式だが、何が発動するかまでは分かっていないらしい。

言い分は、とりあえず創ってみた。何でも良いって言ったじゃん、だそうだ。


「まあ、良い……発動してみれば分かる」


「ああ。……行くぜ? まともなの来てくれよ!」


 再び目を閉じて意識を集中させると、魔法陣全体が淡く光始める。中心から放射状に色付いていくのが目に見える。供給された魔力は、魔法陣の縁を辿り、じわじわと全体を青く染め上げていく。

そして、全体に光が満ちた頃、陽の足元が一番の光源と化す。準備万端、次の一声で発動する事が出来る。


「それじゃ、やるぞ……おぉ!? なんだこれ……」


 目を開けてみると、眼前に光の球体が浮遊し、鼓動を打っている。何というか、今にも爆発を起こしそうな、そんな状態。爆弾か、何かか。


「あー多分これは爆発するパターンじゃないか? 見た目からしてさ。とりあえず防御の術式を……どうやるんだっけな?」


「……破壊すれば止める事は出来なくとも、威力を分散する事は出来るはずだ。我を使え」


 こんな時ほど冷静な判断が出来る白銀が居て良かった、と思った事は無い。

知らず知らず言われる前に手に取っていた白銀を構える。魔術を使うと結局いつもこうなるのだ。故に使う事をほんの少しだけ恐れている。


「行けるか?」


「当然!」


 陽はこの時、まさか触れた瞬間に爆発するなんて思いもしなかった。斬ってからなら分かるが、ちょんと切っ先が触れたかどうかで割れるなんて。名付けて魔術風船。

 ――道場内轟音が響いた。幸い結界を張っていたお陰で、周辺住民に気付かれる事は無かったが、道場は勿論、陽も煤まみれだ。


「……あーあ。大事な道着が……あと何着あったけ……」


「知らん。……術式に関して、一からやり直したらどうだ? いや、やった方が身の為だぞ」


「考えておくわ」


 陽は得意の水気の術を使い、煤を綺麗に拭き取っていく。

こういう事には、魔術を使うのが上手い。先程の術式と比べれば、かなり繊細な作業なのだが。


「はあ……この後何すっかな。家出るなって言われてるし……問題無さそうだけど」


 もうそろそろ学校も終わる頃だ。ならば誰かに声を掛けられる事もないだろう。自宅謹慎ではあるが、絶対に出るなとは言われていない。

 ふと、耳に届いたのは電話の時とは違った着信音。メールだ。


「……ん、メールか? あれ、携帯どこ置いたっけ」


 音はする。だが、置いた場所が思い出せない。しかし、だいぶ近いところにある。そんな気がしているのだが。


「……服の中だ」


 そうだった、と思い出してなるべく離してあった私服のポケットを探る。


「お、あったあった。先輩から……『今日の丑三つ時に学校な~』藁人形でも使うのか……?」


 幸輔の目論見は分からないが、行くしかないと判断した。行かないという選択肢は思い付かない。呼び出す、という事はそれなりに重要な案件のはずである。


「さて、とこれは行く事にしておいて……あとはここ乾かすだけだな。風、だから……木気か」


 人差し指を弾くと陽を中心に風が広がる。水滴を瞬く間に乾かし、道場は鍛錬開始前よりも綺麗になるではないか。


「……どうしてこういう力加減は出来て、戦闘となるとからっきしなんだ?」


 白銀が人の姿だったら溜め息を吐いていただろう。それくらい戦闘の時との差が大きいのだ。

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