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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第1章
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「龍の名を冠する少年」04

*****



 ――朝だ。恐らく昨夜閉め忘れたであろうカーテンから日差しが容赦なく、鮮烈に部屋の中に広がる。今年の夏は足が速いらしく、多少、蝉の鳴き声も聞こえて来た。同時に来るのは熱。じわじわと体力を奪っていく気温だ。

 陽は睡眠中である。深く、深く眠っているのだ。日差しを避けるため布団にくるまっていた。これだけ暑いというのにも関わらず頭から膝の辺りまでしっかりと。しかし寝ているはずなのだが先程から、体に微量な揺れを感じている。地震か何かだと思い込み、もっと深く眠りの淵へと消えようと――


「――起っきろー!」


 ――夢の際、まるで自分を引き戻そうとでも言うのか遠くから声が聞こえてきた。勿論正確には頭上なのだが。


「……」


 声、それから刺激的な日差し、それに加えてうっすらと感じるのは腹部への痛みか。強烈な日光と、自身の眠気によって目は半開き。擦ろうとも開眼する気配を感じさせない。


「何だ、月華か……起こすのに腹を殴るのは止めろ……ってかカーテン閉めて眩しい」


 腹部への痛みの原因は判明した。布団の上に腕が突き立てられているではないか。細くて、白い腕だ。無駄にフォームだけは完璧なのはさすがと言うべきか。


「むぅ……。かれこれ五分も揺すってるのに、陽ちゃんぜんっぜん起きないんだもん……もうご飯、作らないよ?」


「……そいつは困った。とりあえず、どいてくれないかね? 起きるわ……」


 陽を甲斐甲斐しくも起こした彼女の名前は、ホウ 月華ゲッカ。陽の幼なじみであり、良き友人でもある。肩の辺りまで伸びた茶色がかった髪、瞳は明るい茶色とうっすら赤み。顔も見た目も可愛らしい、という形容詞を使うのが妥当であろう。

 そして彼女。陽に突き立てた腕の姿勢、それがやけに綺麗なのも訳がある。月華は違う剣士の家系で生まれて、故に当然ながら幼い頃から見てきたのだ。武術の鍛錬を行う人間達を。だから、やらないながらも知っている、という事。無論“経験者”という訳ではないし、スポーツをやっている訳もないのであくまでも年相応の女子としては、という注釈が入る。


「はい、おはようございます」


「ん」


「挨拶は基本でしょー? ダメだよそんなんじゃー」


「はいはい」


「はいは一回、だよ!」


 普通、武道や茶道などと言った、名に『道』と付く物には流派が存在し、権限や地位を巡っての流派争いもある。しかし、陽を引き取り、剣術を教えた『剣凰流ケンオウリュウ』と、月華の家の『金鳳流キンホウリュウ』は古くからの縁があり、稽古のために使ったり、使われたりしていた。余談だが、陽と今の『金鳳流』頭首とは、犬猿の仲らしい。

 現『剣凰流』頭首はツルギ 達彦タツヒコで、彼こそが陽に剣術を教えた張本人だ。だが、今、彼は魔物の討滅に出たっきりで、音信不通。彼ぐらいの実力者なら、一日もかからずに終わらせて来るはずだが、半年以上たった今でも帰って来る気配は無かった。今は、陽が頭首代理として仕事をしている。

 その時から月華は陽の事を心配して、頻繁に出入りするようになった。どちらかと言えば、ほぼ住んでいると言っても過言ではないのかもしれない。朝・晩と家に来ては、陽と自分の飯を作り、休日は掃除・洗濯までやってくれる。陽も手伝うのは当たり前だ。

この話は学校で大分有名になってしまったが、陽は特に気にしていない。だが、一部の男子から襲撃を受けたり、羨望の眼差しを受けたりしている。

前者は悉く打ち負かし、後者に対しては、どうしてそんな目で見られるのか良く分からなかった。考えるのが面倒なだけかもしれないが。


「早くしなきゃ遅刻しちゃうよ~?」


「ああ……まぁ間に合うよ多分。先行ってても良いぞ?と言うか着替えられないから出て欲しいんだけど?」


「手伝おっか?」


「……やめてくれよ……」


 冗談にも聞こえないトーンで本気で心配するのが月華。それに少しだけ呆れつつも陽はしっかりと受け答えする。

 月華が部屋を出て行った後、昨日帰ってから適当に投げて置いた鞄に、月華の作ってくれた弁当を丁寧に入れる。教科書類は全て学校に置いて来ているので、準備はこれだけ。制服も適当に。これだけ準備を整えれば後は顔を洗って、歯を磨いて、朝も恐らく用意されているだろうから軽く食べて。いつもと同じ始まりだ。


「さて……行きたくないが、行ってくるか。留守中は頼むぜ、白銀」


「うむ。何かあったら、喚ぶと良い。式紙は忘れずにな」


 白銀と軽い挨拶を交わし、月華から遅れて数分、陽もかなり重い足取りで部屋を出る。この時点で溜め息だ。

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