「渦巻く陰謀と青き殺戮者」18
「まあ座れ」
教師が指し示す前から座っていた陽はさっさと話を始めろと言わんばかりの態度である。心の底から教職を信用していないらしい。
このような場所に呼び出した理由を早急に聞き出したい。そして全速力で抜け出したい。その事しか頭にないのである。
「それから、これ」
「……?」
彼が引き出しから取り出したのは一枚のプリントだ。何やら右上に仰々しく学校の角印、それから学校長の丸印、署名が記載された紙。コピーではないらしい。
「本来は校長から渡す予定だったのだけど、明日以降はお偉方は出張だそうだ。だから代理としてな」
陽の対面に深く腰掛けると仕方無さそうに言葉を紡いでいく。
その間陽の表情は凍り付いていた。紙面に記載されている文言を何度も何度も、上から読んでいく。
「……処分……俺が? なんで? なんかの冗談だろ?」
文面を抜粋すると、陽が口にした通り。
『――龍神 陽に謹慎処分――』と。謹慎、つまるところ停学、というやつだ。詳しく分類はされているのだが、今の陽にそこまで考えている余裕などなかった。
どうして自分がそのような事態に巻き込まれなければならないのか。授業は一応出ていたし、遅刻もほぼ無い。それなのに何故。
「書いてある通りだ。……屋上のドアノブ壊したろ」
「……」
――確かに言われてみれば壊したのは自分だ。心に引っ掛かっていたのはこれだったのか。
だがたった一回。それに何故そんな情報が出回っているのだ。あそこに近付く人間なんてそうそう居ない。見られてはいないはず。
あの雹がわざわざ教師に言うだろうか?
「誰ですか」
「ん?」
「誰がそんな事言ったんです」
腹の中で燃え上がる怒り。何者かが自分を密告した。零れそうになる魔力を奥歯を噛み締める事で抑え込む。
「それはわからん。投書だって聞いたが……ってそもそもお前が悪いんだぞ? 何度も何度も禁止されてるのに屋上に行くから」
「投書……どうなってんだ……」
「一応、日付は明後日からの処分になるから明日は学校に来いよ」
ルールはルール。そんな事は言われなくても分かっている。しかしそんな物に縛られていると自由など無くなってしまうではないか。それにあの場所は学校の中でも頭一つ抜けた絶好の休憩場所。
行くなと言われて素直に従ってやるなど馬鹿げているのだ。セキュリティの緩さの方が問題ではないだろうか。
「で、ここにサインする」
教師の説明など一切頭に入って来ない。そもそも聞き入れてやるつもりも毛頭無いのだが、音すら聞こえなくなっているようだ。学校が休みになるのはそれはそれで良い。普段なら喜んで受け入れたいくらいである。
しかし今は状況が違う。
「聞いてるか?」
雹という、敵が居る。危険性を秘めたあの少年が。故に、自分がここを離れる訳には――
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