「渦巻く陰謀と青き殺戮者」15
「……そうか。それならよ……さっさと――」
ただの金属の棒と化したそれを振り上げる。込めるのは必殺の一撃だ。打ち込んでも折れるだけだろうが、脳天を叩けばそれなりに衝撃を与える事は可能なはず。どんな生き物にも弱点はある。
「――消え失せろ!!」
まるで木の枝を振るうかのように軽々と。全身の力を一点に伝える。握り込んだ箇所にはくっきりと指の跡が見え隠れ。それ程までに力を入れた。
「そういう訳にも、いかないんだよねェ……!」
骨を通じて響く衝撃。視界に飛び散る破片は――陽の手にした得物。防がれた……直感的に感じ取ってしまう。頭ごと砕くつもりで放った先には腕があった。
一見ただ華奢なだけに見える腕。その上腕部が覆われていた。透き通る氷に。
「チッ……!!」
所詮はただの金属の棒。陽の膂力にも、雹の魔力にも耐え切れずに中心から崩れ去るではないか。その様に陽は目に見える苛立ちをぶつけ、半分程となってしまった端材を投げ捨てる。上手くフェンスの網目に放り込むが、そのような事はどうでも良い。
腹が立つ。ただそれだけだ。今ここで白銀でぶった斬りたい。手が伸びる。ここで退く訳には。
「それと、悪いんだけど……もう少し付き合って貰うからね」
その手は空を切る。いつの間にか、雹は目の前から姿を消していた。声の聞こえた方向、上だ。虚空に浮かぶ雹の姿をじっと睨む。眼光でも攻撃出来るのではないかと思わせる程に強力な視線を。
残念ながら陽には“飛行”などという魔術は知らない。魔術であっても、人は飛べない。そのはずだ。
「まっ、悪いなんて微塵も思ってないんだけど?」
「降りて来いよ。次は斬る」
「あー怖い怖い。だから言ってるでしょ? もう少しって。僕だってね、“学生生活”ってのをやってみたいんだよ」
「そんなもん知った事じゃねえ。俺の知らないところで誰にも危害を加えないでやれ」
「それじゃあ意味が無いんだよなぁ。当分は何もしないと思うから、見ててよ? ね?」
空中で腕を組み、困ったように笑ってみせた。見た目相応の少年のように。
しかしその姿が余計に陽の神経を逆撫でる。本気で言っているのか、それとも適当な冗談なのか。どちらにしろ、辿り着く結論は。
「信用出来るはずねえだろ? 面倒だ。そこに居ても良い。そのまま斬り落としてやる」
悪に会えば悪を斬る。当然の帰結だ。ポケットの中には常に召喚用の式紙を仕込んでいるし、その気になれば今すぐにでも――
「だ-かーらー……そう言われても僕はね。おっとそろそろ行かなきゃ」
呆れるように、首を振る。時間は彼の味方をした。
陽の耳にも聞こえている、この音は始業の鐘だろう。随分と経ったと思っていたが、そうでもなかったらしい。耳障りなそれを無視してもう一度雹へと視線を移す。
「逃がしたか……なんだよ学生生活ってわけわかんねぇ……」
そこにあったのは変わらない青空。綿のような白い雲がたゆたうだけだ。
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