「渦巻く陰謀と青き殺戮者」12
居心地は非常に悪い。学校という牢獄にただ放り込まれている普段の数倍か、それ以上。数字で言い表すのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
――ああ、イラつき過ぎて頭が痛い。
「……」
腕を組むなり椅子の背にこれでもかと寄りかかり、大股を開いて仏頂面。これでも相当抑えている不貞腐れ、若しくは怒り隠しのポーズである。しかしながらこのポーズは相手への威圧感が強い、強過ぎるのだ。
それは当然ながら周囲への影響もある。明らかに避けられている気がするのだ。それこそ現授業の英語教師だったり、クラスの女子だったり。だが意図せず雹の動きを射止めているという事実があるのを陽は知らない。
(……悪いのはわかってんだがな……休憩ん時に外行って来るか……あと少しだし)
罪悪感は微塵程度。さすがの陽でも周囲に暴虐の限りを尽くす程周りが見えなくなるという訳ではないのだ。あくまでも態度に出てしまうだけである。
漸く、授業終了の鐘。微かであるが教師の安堵の息が聞こえたような気がした。挨拶もそこそこに退出する彼女に声を掛ける者はおらず、あくまでも雹への興味が尽きないらしく相も変わらず彼の周りに集まるクラスメイト達。
「海外育ちって凄いねー! あ、ここ教えて欲しいんだけど……」
「うん、構わないよ。ここはね――」
確かに雹の英語力は高校生からしてみれば素晴らしい物だった。出自が何処かは定かではないし、聞く気も起きない陽。そのような浮ついた声をシャットアウトするように立ち上がる。
「陽ちゃん、大丈夫……?」
こんな状態になっていても心配してくれる月華。恐らく理由までは分かっていないだろうが、陽が抱いている感情が怒りである事は察しているはずだ。恐る恐るといった感じではあったが、このように話掛けてくれるのは有難い限り。
「……わりぃちょっと保健室行って来るって伝えといてくれ」
「そっか。うん、気を付けてね? 一緒に行こうか?」
「歩けるから大丈夫だ」
そんな月華に目も合わさず、陽は苛立ちのオーラを撒き散らしながらそそくさと教室を出る。向かうのは保健室――ではない。一階にある保健室には一切足を向けず、目指したのは上の階。せめて人の居ないところへ。
肩が当たろうが体が諸に当たりそうになろうがお構いなし。相手が上級生であろうと止められる事は無かった。歩みを進めるに連れて引き上げられていくボルテージ。危険度で言うのなら、今の陽の方が高いだろう。
「クソが……なんで鍵閉まってんだよ」
ひたすら突き進み、辿り着いたのは一枚のアルミ製の扉。周囲は仄暗く埃っぽい。更には人気も感じないような踊り場。しかし陽が目指していたのはここではない。そう、この扉の奥だ。だと言うのに、鍵という邪魔な存在が――
「……」
――ほんの数秒前まで在った。怒り状態の陽という不安定な存在の前には成す術も無く、いつの間にかドアノブという塊が床に転がっているではないか。ついでだ、と言わんばかりに扉も蹴飛ばして破壊。無残にもドアチェックから引き剥がされて銀色の板と化してしまった。
「ふーっ……」
生温い風が肌を撫でる。屋上だ。何も無く、誰も居ないこの場所こそ絶好の気晴らしの場所だろう。




