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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
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「渦巻く陰謀と青き殺戮者」11

*****


 朝のホームルーム。ついに一日が始まってしまうという事実による疲労感が現われる残酷な時間だ。

他愛無い諸連絡や、今朝の事件についての注意喚起などが教師の口から語られ、終わりにはこう告げた。まるで予定調和のように。最初からそうなるべきだったかのように、突然。


「突然だが今日から新しい仲間が増える事になったぞ! よし、入れ!」


 どこかで聞いた事のあるようなお決まりのフレーズと、周りのざわめき。

確かに“いつの間にか”机が容易されていたり、教師の口調がやたらと速めだったりと違和感のある点はあった。しかし誰も気付いていなかったのだ。――陽でさえ。

不可解に思えるが、これも魔術による干渉だと思えばさもありなん。故に、だらけていた陽の意識は急速に覚醒、警戒態勢だ。

 周囲のどよめきが最高潮になった頃、前方の戸がもったいぶるように開けられる。

瞬間、静まり返ったと思えば、黄色い悲鳴が教室内に響き渡った。まるでアイドルでも見つけたかのように騒がしく、喜びを含んだモノが。男にはこのような高音は難しい。

 そう、姿を現したのは男子だ。滑らかに弾むように歩き、壇上へ。教師の隣に立つ。第一声は――


「――初めまして、氷室ヒムロ ヒョウです。これまでは外国での暮らしだったので……日本についてわからない事が多くて……でも、皆さん、どうぞよろしくお願いします」


 ――凛とした、爽やかな声。少しばかりイントネーションの違いが聞き取れる程度の日本語。

教師よりも頭一つ分大きい身長に、透き通った流れるような青い髪、すっと通る鼻筋。まるで日本人の持つそれとはパーツが違って見えるではないか。

誰に向けたでもない、爽やかで涼やか笑顔。周りに浮かぶのはきらきらとした星のようなエフェクト辺りが似合うだろう。

散々並べるまでもなく、彼はまさしく“美少年”であった。恐らく男であってもそう口にするのではないだろうか。


「そういう事だ。それじゃあ氷室、お前の席はあそこだからな。何かあったら周りに聞くんだぞ」


 教師が指し示したのは、陽の二つ後ろ。このざわめきの中、陽だけはその流れに巻き込まれる事なく、雹と名乗った少年をじっと見詰め――否、睨んでいた。微量に感じる魔力の残滓。目に見える物ではないが、直感が訴えているのだ。……少なからず、味方ではない、と。

 一歩、また一歩と近付いて来る。すれ違いざまに、聞き取るのも難しい程小声で話し掛けてきた。陽ならば聞き取れるはずだと分かっているから。


「――やあ。侵入なんて容易くて」


 陽はそれを無視するように、そっぽを向く。とてつもない仏頂面である。否応無しに関わる事にはなるだろうが、今はその時ではない。


「それじゃ、ホームルームは終わりだ!」


 教師が去ると、教室は一気に賑やかになった。転入生への質問タイムだ。主に女子な訳だが。


(どういうつもりだ……? まだ手は出せない……まだ……)


 頭を抱え、どうするべきかと悩む。敵だというのは間違いないだろう。しかし、今ここで動けば周囲への被害は甚大だ。それだけは避けなければならない。


「どうしろってんだよ……ん、電話……」


 携帯を手に取り、ディスプレイを確認する。幸輔からのようだ。出ない訳にもいかないだろう、この状況で。


「もしもし……先輩ですか?」


『うん。いやまさかね~乗り込んで来るとは……大胆な事をしてくれたモンだよね~』


乗り込んで来る、というのは雹の事だ。幸輔の言うように大胆だ。わざわざ学校にまで来るのだから。これではっきりしたのは陽の居場所は完全に把握されているという事。


「どうします? 協会に連絡した方が良いと思います?」


『いや、とりあえず一週間我慢してくれい。ボクがその間に面白い仕掛けを作っとくからさ~』


「仕掛け……? ……他の生徒は巻き込まれないんでしょうね」


 一番気掛かりなのはそこだけである。“仕掛け”が何なのかは全く分からないが、魔術であるという事だけは推測出来る。一週間。それなりの長さだ。


『ソイツの力次第ってトコかな~。龍神が一人でキツいみたいなら、マズいかも。今回は手伝うけどね~。一番近いし?』


「その理由は置いておきましょう。ともかく一週間ですか……もうちょい早く出来ないんです?」


『ん~、本元が帰ってくれば五日で出来んだけどさ~。予定が一ヶ月長引くっぽいしぃ。悪いけど一週間で手を打ってくれないかな?』


 舌打ちをして、溜め息を吐く。魔術であるのなら自分が手を出さない方が良いのだ。ならば大人しくしているしかあるまい。


「ハァ……分かりました。一週間ですね?遅くなったら、情報料はチャラで」


『了解、んじゃ、頑張れ~』


 ぷつりと電話が切れ、後方の騒がしさが耳に入る。

声を聞くだけで苛立ちが増し、顔を見ると殴りかかりたくなる。非常に危険な状態だ。それでも抑えなければと深く、深く息を吐く。


「……龍神、何かキレてる?」


 近寄ってきていた中島が陽の顔を見る。どうも、怒り前面に漏れ出ていたらしい。もっと抑え付けなければならないのだろうか。


「別に、気にすんな。……それよりゾンビはどうなったと思う?」


 頭を無理矢理切り替え、朝遭遇したゾンビの話に。その後、追跡されている気配は無い。もしかしたら、誰かが倒してくれたのではないかと思ったりする。


「あーアレね。そろそろウイルスが抜けて、人間になった頃じゃない? ……ホラ、来たよ」


「うーっす! いやー遅刻しちまったぜーってどちらさん!? ムカつくくらいイケメン! 俺以下だけど!」


「来やがったか……あの時トドメ刺しときゃ良かったな」


 やたらテンションが上がった井上が来たせいで、教室中の空気が冷めた。面白い程急激に。


「おはようございます――氷室 雹です。よろしく」


 さっと井上に握手を求める雹。陽の気に食わない笑顔で。


「お、おう。井上 和真だ。よろしくな!」


 結構強めに手を取ったらしく。更にその手を上下に振り回す井上。

相手が誰だろうとまずは取り繕うとしよう。井上のようには振舞えないが。

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