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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
37/68

「渦巻く陰謀と青き殺戮者」07

*****



「おーい……次はどこ行くつもりだー? って聞いてねえし」


 陽の両手には大きめの買い物袋が二つ。

ほとんどが食料である。すぐに使える生鮮食品だけでなくインスタント系であったり、飲み物やら調味料やら。いつの間に自分の家の冷蔵庫事情をチェックしているのだろうと毎回首を傾げる陽。気付いていないだけである。

袋の内訳は陽の家の分と、ついでの月華の家の分だ。当然ながら月華の家の方が必要な物は多いようで重量的にも明らかな差を感じる。軽めの筋トレ感覚だ。

 それから歩く事十数分。行き着いた先は大型ショッピングセンターである。着くなり早足になりだす月華。ここで何かあるのだろうか、と大人しく付いて行くと。


「陽ちゃんはちょっとそこで待ってて! 早く戻ってくるように頑張るからね!」


 稀に見る機敏さで陽を制止するとそのまま人混みへと姿を消してしまうではないか。一体どうしたというのだろう。


「……俺、何かやったか? まあいいや。とりあえずベンチもある事だし……休憩するかね……」


 取り残された陽は付近にあったベンチに近付くとほんの少しだけ重たい荷物を下ろしつつ、腰掛ける。背もたれが無いベンチはなかなか疲れが取れないものだ。


「ふーっ……師匠、どこに居るんだろうなあ……はぁ……らしくねぇなあ」


 ぼーっと市松模様の店の天井を見つめ、溜め息混じりに自分自身に呆れてみる。

悲観している事、浮ついている事、自分だけの力ではどうにも出来ない事。正直、気に入らない。無力さを感じている事が。


「やあやあ、ネガティヴモードの龍神じゃないか~? あんまし溜め息ばっか吐いてるとね、幸せだって逃げてくんだよ~?」


 明らかに自分に掛けられた声。視線をそちらにやると、店のエプロンを着用した男が目の前に立っていた。満面の笑みで。見知った顔だ。


「久し振りだね~。もう一ヶ月振りかな? 元気~?」


「はあぁ……何してんですか、先輩。まあそっちは置いておきます。それよりも一週間近く学校来てなかったですよね? せっかく情報料の耳揃えて、支払いの準備までしたのにいらないんです? 計算が合わなくなるんですけど?」


 陽に先輩と呼ばれた男は、ケラケラと笑いながら陽を軽くあしらっている。


「あっはは~情報の収集が案外すんなり行ってね~。追加に追加! もうびっくりしたよね、楽勝で。だから情報料加算で、よろしく~」


「……情報次第では払いませんよ? 今朝、協会からも貰ったんで。それを上回るなら考えましょう」


 先輩は、にこにこ笑顔で親指を立てる。どうやらそれ相応の自信を持っているらしい。尻で陽を押し退けるように隣へ。明らかにアルバイト中だと思うのだが、良いのだろうか。


「協会のやつは、どうせ聴取でしょ?多分、魔術師がどーのこーのだとは思うけど……ボクのは、アレだ。読心術によるほぼ完璧なモノ。えっと~確かポケットに……」


 ゴソゴソと上着のポケットを探り、取り出したのは小さなメモ帳。『極秘!御門流情報メモ帳!』などと殴り書きされていた。極秘の割に隠す気を感じさせない大きな字である。


「相変わらず、なんなんですそのメモ帳?」


「便利よ? ポケットサイズ~」


「そりゃあ売ってるから知ってますよ……字の方なんですけど……あ、やっぱ面倒なんで聞かないです」


「『御門流』は忍びだからね~忍ばせないと、ね!」


「ね! じゃないんです。忍んでないじゃないですかこの字……進んでくださいよ」


 そう、先輩の言葉通り。『御門流ミカドリュウ』という流派は忍者の血を代々受け継いでいるらしいが、陽ですら耳にしているだけで内情がどうなっているのかは知らない特殊な流派だ。情報収集や魔術社会の中でも裏のある仕事を請け負う、謂わば影のような。

彼――先輩こと御門ミカド 幸輔コウスケは、現頭首の孫らしく、それを嗅ぎ付けた陽は年の近さと同じ学校である事を利用し、これまで何度も彼に協力を要請して情報収集を依頼していた。それなりの料金で。


「まったく自分で聞いたんじゃないか~? まあいっか。まず、『永遠の闇』ついてだよ~。愚かにも罠に嵌った一匹の魔物君に読心術を使ってやった結果! なんと! 魔物以外にも種族……特に強力な魔族とか西洋方面のやつがかなりいるらしいよ? 有名なのも居るとかなんとか! いや~恐ろしいね~。それだけ本気って事なんだろうけど」


「……」


「……不安かい?」


「そんなんじゃないです。どうやって相手しようか考えてたんです」


 ただの魔物が束で掛かってきたとしてもそれ程の苦は無いが、種族が絡んで来るとなると話は別だ。

しかし種族には知恵が有る。長年培ってきた知恵は、時に力さえ凌駕する。それこそ先日の炎燈のように。

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