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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
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「渦巻く陰謀と青き殺戮者」05

 陽は今、頭を下げていた。人目も気にせずとにかく下げる。謝罪であった。力の限り、誠心誠意。

先程少しばかり消えたはずの罪悪感は強さを増して蘇り、陽の心を蝕む。何だかんだ言っていても遅刻するのは悪い事なのだ。たかが一時間、とは言えないだろう。

故にこうして心のどこかではまだ納得しきれていないのかもしれないが、このように謝罪の意を伝えている。

 そう、事は数分前に遡る――


*****



「――よしッ……! あと少しだな……」


 人混みを掻き分け、回避しながらも縫うように走る陽。颯爽とまでは言えないながらもかなりの速度である。

本日待ち合わせの場所に指定されたのは、時計台のオブジェがある場所。ここまで来ればそこまで時間掛からないだろう、と陽は走る足を緩め、クールダウンも兼ねて歩く事に。


「そろそろ一通くらい入れとくか……あれまた来てる……」


 所変わり、月華はと言うと。


「遅い……メールは返って来ないし、電話も出ない! もう!」


 怒っていた。明らかに怒っていた。かれこれ一時間も遅刻をしているのに、連絡を一切寄越さないという事は気付かずに寝ているくらいしか理由は無いだろう。……極稀に違う事もあるが、その場合は連絡を入れて欲しい物であった。

だから、出ないと分かっていても電話を掛け直してみる。


「……出ないな~、寝てるのかなぁ?」


 結局、今回も電話に出る事は無かった。無機質な呼び出し音が続くだけ。溜め息混じりに通話を終了すると、携帯に一通のメールが受信されるところだった。

『From.陽ちゃん。そろそろ着くぞ?』

悪気は無いはずである。連絡してくれたのは嬉しい。しかし、何故だろうか。何故まず謝罪するという事が無いのだろう。待たせているというのに何故――と、怒りは増してしまう。

ふと気付くと、向こうからは、陽が急ぐ気も感じさせない程ゆっくり歩いてくるではないか。



*****



「――すまん! 寝坊した!」


 そんな訳で、仁王立ちしている月華に謝っているという事である。やはり、というか目の前にしたら謝らなくてはならないような空気があった。


「ん……まあ……本当はダメだよ? 連絡は早めにして欲しかったとか色々あるし、ダメ、なんだけど……なんかね、今回は許してあげても良いのかなって」


「ぇ」


 だが、あっさり許しを貰えてしまった。理由を聞いてみる事に――怖い訳ではない、決して――。


「……なんて言うか、今日の陽ちゃんね、なんか嬉しそうだもん。良い事、あったんだよねっ……?」


「あー……よく、わかったな……実は師匠が、達彦さんが生きているって念――いや、電話があってさ。ほんと遅刻してるのは悪いと思ってるけど。まあそんなこんなでな」


 色々と言葉を繕いながら、事実を告げる。捜したいのは山々だが、今はこの街から離れる訳にはいかないのだ。


「オジさんが? それはすっごく良かったね!! それで、いつ帰って来れるの?」


 頭上にある時計を眺めながら、陽は答える。喜びと少しだけ悲しみが混ざったような声で。


「そうは言ってもわかったのは、生きてるって事だけだ。どうも世界を転々としてるみたいでさ……師匠らしいな。多分、助けてんだよ。俺を拾ってくれた時みたいに」


「そっかぁ……」


 陽は、達彦と暮らしていた時間を思い出しているみたいであった。

今以上に剣術に明け暮れた日々を。剣だけが全てだった日々を。


「……行こっ! 今日は買う物一杯あるんだから!」


 すっかり暗くなってしまった陽を気に掛け、明るく振る舞う。今の自分が陽に出来るのはこの程度の事しかないと思った。思ってしまった。それが自分の役割なら、と。


「はぁ……また荷物持ちか……? まったく……人を何だと思ってんだ」


「? 荷物持ちだよ! 遅れた分はきっちり持ってもらいます!」


「はいはい……」


 陽はこんな穏やかな時間を大切にしたいと心から願っていた。月華の心遣いに気付いているのかいないのかいつものように歩き出す。



*****

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