表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第2章
34/68

「渦巻く陰謀と青き殺戮者」04

*****



 陽は全力で走る事を余儀なくされていた。通行人などは持ち前の勘と運動神経で回避が可能な故に、謝罪など口にする必要が無い。今は自分を守る為だけに足を動かす。

それには勿論理由があった。今日という日は月一回の恒例行事、陽の家の食料品やその他諸々の生活必需品を買いに行くというイベントである。

陽だけでも当然買出しは行うのであるのだが、偏りが凄まじいのだとか。お手軽即席麺、惣菜、菓子類(甘くは無い)を買い込み、料理などはほとんどせずに生活してしまうのだ。怠惰な訳ではなく他に労力を割いているだけなのだ、とは本人の弁。

そしてそのイベントが偶然にも今日であり、寝坊と予期せぬ情報の入手により、現在多少の遅刻をしてしまった、というところ。

 しかし、と考え方を変えてみる。これまでも何度か遅刻をした事はある。当然、約束を破っているのは悪い事だ。だがこれまで一度も反故にした事は無い。それに今日ばかりは仕方ないだろう。あれは今後を左右する重要な情報。遅刻をするのにも正当な理由である。月華には話せないのが残念だが。


「あぁ、頭の中に地獄絵図が……! ……俺は悪くない、悪くない、悪くない……」


 現実逃避。人は怖い事から目を背けたくなるのは心理学的にも解明されている。昔の人は良い言葉を作ったモノだ、と感心。それでも罪悪感があるのは事実。そして辿り着くはよろしくない結果。

怒らせたくはないのだ。自分では手が付けられないから。こう言ってしまうと月華が乱暴者に変身してしまうかのようであるが、そうではない。静かに、ただ静かに怒る。それなのに非常に悲しそうな顔をするのだ。……それが一番嫌だった。

 信号が青に変わるまでの僅かな時間さえ長く感じられた。誰も居なければこの程度の距離ならば無視しても構わなかった。しかし本日は休日。人通りもそれなりだ。

故にやる事は一つ。自分に言い聞かせるのだ。悪くないのだ、と。

暗示、というのもなかなか効果があると思う。ずっと続けていれば、その気になっている事もある。

時間の問題やこれまた心理状態などが絡んで来る訳だが、ここで特筆すべきは、陽が暗示を微妙に成功させた事だ。

根本的には悪いのだが、今回ばかりは説明すればわかってくれるはずだと。


「まだ十一分だな……大健闘だろこれ」


陽の家から待ち合わせの場所まではまでは約三十分。これはあくまでも、“普通の人間”が歩いて掛かる時間であり、“龍神陽”が歩いて掛かる時間ではない。基本的な体力や運動神経と呼ばれる類のモノは並大抵の大の大人を遥かに凌駕している。それどころか人間すら。

魔術に精通する者であれば当然だったりもするのだが。その中でも陽は特別だ。


「本気出せばもっと速いんだけどな……」


 身体を流れる龍の血がそうさせる。しかし日常でその力を使う事は出来ない。それが自分の中での掟であり、マナーのような物だから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ