「渦巻く陰謀と青き殺戮者」01
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炎燈との戦いから一週間程が経過した土曜日の事。
陽は自分が狙われている事も忘れてしまったかのように安らかに布団に潜り、未だに爆睡中であった。しかし、そんな眠りを妨害しようとする悪魔がいた。
それは日光。カーテンからこれでもかと忍び込む日光|《悪魔》を避けるために見つけたのが、机の下。椅子を収納する場所。そこに頭を入れ、その上にある窓からの日光を防ぐ事に成功した。故にこうして安眠していられるのである。
そんな中突然、カツッコツッと言う音が陽の部屋内に響く。眠りの底に居るはずの陽にすら届いてしまうような不思議な音。それはまるで時計のように、その音を機械的に、単調に刻み続ける。
「んんー……うるさいぃ……」
寝言にも聞こえるような声を発し、顔全体を布団で覆う。せめてもの抵抗である。陽が再び眠ろうとすると、静かな部屋の所為か、余計に音が耳に刺さる。
――五分経過。カツッコツッカツッコツッ……!! 音と共に陽のイライラ度数が溜まっていく。否応なしに聞かされる謎の音。
「ああもう! うるっせぇ――痛ぁ!?」
自分が隠れていた居場所が机の下というのを失念――そもそも気付いていたか定かでは無い――陽は、ごく自然に机に脳天を強打。目尻にうっすら涙を浮かべながら、そろそろと机の下から脱出する。
「いってぇ……何で俺、あんなとこにいたんだっけ? いや、まあ、それはいいとして……これは新手の嫌がらせか? こんな朝早くから……!」
自身の眠りを妨げるのであれば、嫌がらせである事が大前提。立ち上がって周りを見渡すが特に何も見当たらない。気でも触れてしまったのだろうか。
「……陽、窓だ。簡易ではあるが念波。早くしなければ消えてしまうぞ」
そんな陽を見かねた白銀が、音の原因を指し示す。言われた通りに窓を見てみると、白い小鳥が。可愛らしい嘴で窓を叩いているではないか。まるで自分を呼んでいるかのよう。
「念波、か。となると……大体見当は付けられるか……」
窓を開け小鳥を自分の指に停まらせる。すると小鳥は、待ってましたとばかりに鳴き始めた。否、喋り始める。
「やっと気付いて頂けました……どうも、魔剣術協会の情報員です。この度、情報の提供を上から仰せつかっております。『剣凰流』頭首の龍神 陽様でいらっしゃいますか?」
小鳥は、その小さな嘴から高めの声を紡ぎ出す。エコーがかった声は女性のもの。見た目通りと言えばそうである。
「あー……はい。まあ、ここまで来て間違いってのもそんなに無いとは思いますが……そうした場合はどうするんですか? やっぱり一度念波飛ばし直すんですか?」
これは、陽なりの相手のほぐし方である。堅苦しい会話を嫌う陽としては、若い――声だけが判断材料――女性などの場合に多様する話術。こうすると意外に乗って来る可能性が高い。あの息苦しい場所ではそうなっても仕方のない話だ、と陽は密かに思う。
「それはもう……お叱りを受けた後、もう一度探査をかけて、正確に念波を飛ばさなくてはならなくなります。……これは関係無いですが、私の事覚えてますか? 頭首会の時に案内をさせていただいたりしたんですが……」
乗りすぎだ、と陽は内心思った。よもや、こんなお喋りな人だったとは。予想外の展開に戸惑いを隠せない陽。どうしたものか。
「ええ勿論。……あの。そろそろ本題に入っていただけないですか? 念波の限界もあるでしょうし」
しかしこれ以上話させていたら本題を聞けなくなると判断。本題に入るように話を反らす。
「そう、でしたね。コホン……頭首様が御質問なさった『永遠の闇』という組織について、私共の情報保管庫には記載されておりませんでした」
間を空け、話を続けても良いか確認をする。陽はそれに無言で頷き、続きを促す。
「これは聴取からなのですが、魔物から成り上がった魔術師が魔物達を統括しているらしいのです。もしそうだとすれば、世界的な魔物の活発化とも繋がります。この街の術者達にも警戒令を出しておきました」
「魔物から成り上がった? 魔物が何者かの力を受けた影響という事か……しかし、魔物を統括出来るほどの力があるとは……」
話を聞きながら軽くメモをしていく。多少の情報でも、陽には必要なのだ。




