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~龍と刀~  作者: 吹雪龍
第1章
30/68

「龍の名を冠する少年」29

*****



 日常というのは普遍的ではあるが日によって内容が違う。それをどう捉えるかによって楽しいだとか、つまらない、だとかに繋がってくるのである。

故に今回の出来事すらその日常に含まれる、のかもしれない。一通の手紙から始まった警戒態勢、それに付随する任務。人的被害と戦闘行為。

 否、これらは例外だ。普段の任務は道を外してしまった種族、広い意味での魔族の討伐や地脈の管理など。そこまで大仕事と言える程でもなく、謂わばこちらが陽にとっての日常で、あちらは非日常。

常人であれば陽の存在自体が非日常に属するのだが、その彼がいつもとは違う何かを感じ取っている。


「陽ちゃん? どうしたの?」


 いつもの如く机をつき合わせての昼飯時であった。何やらここ数日、陽の様子がおかしかったのだ。ずっと思いつめた表情で考え事をしているし、授業中は起きているし、妙に雰囲気が堅い。

少しだけ我慢をしていつも通り接していたのだが、そろそろ限界であったらしい月華。


「あ? 別に、なんでもねーよ」


「そんな気はしないけどなぁ……大丈夫? 帰ってから寝てる?」


「お前俺をなんだと思ってるんだ……? 確かに最近学校ではほとんど寝てないけども」


 自分に何が出来る訳でも無い、というのは月華自身が一番理解している。しかし、陽は昔からこうなのだ。肝心な事は何も話してくれない。明らかに何かを抱えているはずなのに。とは言っても追及して答えてくれる程でもないし、そうはしない。嫌がるだろうから。


「なんでもないんだったら良いかな~。それに、起きてるっていう事は少しくらい勉強も出来てるって事だよね! 今日提出する課題も貸さなくて大丈夫だよね!」


「とんでも理論はやめてくれよ。なんで俺が勉強してる話になってるんだ……そんなの飯時にする話じゃないぜ……というか何の話だ? 課題?」


「覚えてないの? 数学の課題だよ」


「……残念だったな。俺の頭にそんな文字は存在しない。貸してくれ」


 何も出来ないから、せめて話し相手くらいになりたい。ずっとそうしてきたのだ。だから今回も。邪魔になってなければ良いのだけれど、というのが本心だ。


「イヤです~」


「……中島ぁー数学の課題貸してー」


「もう! 人の力は頼らないって自分で言ったのに!」


「それはそれ。これはこれ。ってかあいつどこ行ったよ……学食か? 井上は使えないから良いや……」


 この他愛のない会話こそが本来あるべき日常だ。とりとめもない至って普通な。だが、これこそ謳歌するべき生活。

ならば、そこに伸びて来ている魔手が有るとしたのならどうするのか。自分の事は良い。月華や望、このクラスや学校内だけじゃない。自分に関わる全ての人に降り掛かる火の粉だ。

――決まっているではないか。


「俺が、この手で……」


 悩んでいた訳ではない。ただ情報を整理していただけだ。それが漸く終了した。


「何か言った?」


「いや。なんでも。とりあえずこのエビフライ上げるから課題と交換な。拒否権は無い」


「そんな好物を私に……? 自分でやる気は無いんだね……仕方ないなぁまったくー」


 ほんの少し。少しだけ心が軽くなったような気がする陽。これも月華のお陰なのかもしれない、とは思うのだが流石に口に出すのはこっ恥ずかしい。

 だがこれもひっくるめて、自分の力でどうにかする。たとえ得体の知れない相手が迫って来ていても。必ず――


「ふふふっ」


「なんだよいきなり?」


「んーちょっと明るくなったなって思ったんだぁ」


「気のせい、だろ」



~龍と刀~

第1話「龍の名を冠する少年」 終

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