「龍の名を冠する少年」02
爆発が起きた箇所は、地面が深々抉り取られていた。岩の狼の見る影は一切無く、ただ細かい石がところどころに散らばっているだけ。威力の凄まじさを感じさせる。
「……爆発するとは思わなかったなぁ……結構力抜いたはずなのに。 おかしいな……」
「……あれで抜いたつもりか? 以前と殆ど変わっていないではないか」
「悪い悪い。わざとじゃないんだ。 これでも結構頑張って――っと、マズいなこりゃ……」
白銀への謝罪も疎かに、耳を澄ませば聞こえてくる、サイレンの音色。少年にとってはただの耳障りな雑音でしかない。そして、名の通りの警告音。そこまで警戒するのにもしっかりとした理由があった。なにせこの少年、既にここ数週間の内に三回程似たような騒ぎを起こし、事情聴取を受け、警察に目を付けられているからだ。危険な爆弾魔か何かではないかと。
実際の所、少年は爆弾魔でも無ければテロリストの一員でもない。ただ単に、力の加減が出来ない、他人と自分の力の差が分かっていないだけの事。確かに日本刀を携えてこんな夜中に山中を歩き回っているという異常があっても、本質的には一人の少年であるのだから。勿論それを隠れ蓑に出来る訳でもないので逃亡を謀る訳だが。
「次は無いって言われてるからな……もう帰ろう。 報告書めんどいなぁ……帰り道は……どっちだ……!?」
散々山の中を走り回った挙げ句、自分がどの方向から来たのかさえも分からなくなってしまったようだ。こうして悩んでいる間にも、刻一刻とサイレンが近付いている。あと数分もすればここは、調査員や消防隊とマスコミ、野次馬の人だかりが完成するであろう。鬱蒼とした山の中まで野次馬がやってくるかは定かではないが。
「……ここを直進すれば東。 まずは森を抜け出すのが賢明な判断だ」
少年は白銀に言われた通りに走り出す。住人達も騒ぎに気付いて起き始めたらしく、家々の電気が点っていく。
「お前は加減という言葉を知っているのか? たとえ龍の血を引き、十全たる力があってもだな――」
走っている最中ずっと白銀に説教を受けている少年。恐らく、聞いていないだろう。先程から「わかってる、うん」としか言っていなかった。下手に口答えをするよりもこうしていた方が事が早く済むのを理解しているだけだ。当然、反省点があるのも頭には入っているが、今はそれよりもやる事がある。
「……もう良い……それより、早く帰った方が良い。 当然今日も学校へ行かなければならないのだろう?」
「はぁー……そうなんだよなぁ……学校なぁ」
少年は長い溜め息を吐く。それが、説教が終わった事についてなのか、それとも学校についてなのか、はたまた両方という考え方もある。
「これからも、しっかりな。龍神 陽」
「な、何だよ白銀?改まってさ。……まぁ、俺に任せとけって!」
少年の名は龍神 陽。龍の名を冠する少年だ。世界の表側で生き、裏側で活躍する。今までも、そしてこれからも。
夜も大分明け始め、人や動物達も活動を開始する。山々の間から顔を覗かせた太陽が、陽の瞳にはいつもより輝いて見えた。しかし、この綺麗な景色を見ながら陽は言う。
「だから朝は嫌いなんだよ……」
基本的に朝が苦手なのである。
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