「龍の名を冠する少年」27
一点突破。これに限る。単純明快な方法だ。水の龍と炎の巨獣は拮抗――しているかのようにも見えたがお互いに消耗しているようだった。
巨獣の足元は痩せ細り、体中の至る箇所が今にも消えかかってしまいそうな弱い火に。先程までは天高く伸びていた炎のドームすら所々に風穴。これ以上、長引かせる事も出来まいとでも思っているのか消えてしましそうな火の粉をも掻き集め、力に変換。ただ水の龍を押さえ付けているだけでは何も出来ない。ならば、と。大きく開けた。マグマの如き渦巻く炎の炉を。収束される魔力。
属性の相性で言うのならば抜群であったはずだ。しかし今は完全に拮抗し、見方によっては打ち消されつつある。自分の力不足、とは言えないが剣技と魔術を複合した剣術は多少なりと苦手意識があったのかもしれない。
「熱い……けど!」
勝負は一瞬。狙うは一箇所。あくまでも勘。しかし、それが通れば。
「まだ、まだだ……」
耐えてくれ、と願うばかり。自身の体内に残る魔力を全て注ぎ込む様な。白銀を通し、魔術として繋がった青龍に最後の余力を受け渡す。
「っ――――オ、ォォォォオオオオオ!!!!」
地を強く踏む。強烈な痛みが膝まで駆け巡るが気にしてなどいられない。
陽の雄叫びに呼応するかの如く、先細っていた龍に力強さが戻る。循環する水の勢いは増し、鱗の模様一つ一つが刃のように鋭く光り、危うく負けそうになっていた巨獣の爪すら撥ね退けていく。じわり、じわりとその牙が喉元へ。
「GuII――OoooAAaa!!」
巨獣の口元に蓄えられた光源も膨張。時折炎を噴き出しながら脈打ち、龍の顔へと、放つ。奇妙な、甲高い叫びと共に。至近距離で放たれるそれは、速度こそ無いが大きさでは龍の全身にも勝っているだろう。
正面から、衝突。発生する高温の蒸気が全身を炙る。
(止まるな……目を逸らすな……!)
水の龍が次第にか細くなっていくのが見えた。
炎の弾は――
(今は、前だけを!)
一度、白銀を横に払う。茹だった空気を切り裂き、飛来した火花を払い、ただ前へ。
突破口が、あった。狙い通りだ。
――まるで針の穴のような。たったそれだけの穴が出来ていた。水の龍が最後に貫いたほんの少しの穴。
これだけでも陽には十分過ぎる程だ。空中という不安定な場所でも。ただひたすら前に――!
炎の体に掛かったのは少量の水だった。しかし、何故だろうか。何故、こんなにも身体に感覚が戻っている――? 何故こんなにも視界が明瞭で。
「ああ、そうか――ふははっはは」
思考が、出来た。口も動く。言葉も叫びではなく、人の言葉を話せる。そして、察知した。
「終わりだ! 炎燈!!」
目の前。真っ赤な炎を引き裂いて現われたのは少年だった。白銀に煌めく切っ先を突き立て、そのまま、胸の辺りを――
「がっ……」
声にならない声、というのはこういう事を言うのだろう。胸元、それから全身を駆け巡る、痛み。痛覚が戻ってきた。つまり、これは。
「お前の、負けだ」
両手両脚を失い、残ったのは体と頭だけの炎燈に白銀を突き刺し、宣告する。




