「龍の名を冠する少年」26
凛とした、澄んだ高音。燃え盛る炎の中でも響き渡るその音色は清涼感さえ感じさせる。熔けてしまいそうな熱さでも、神経を集中させる事で一時的に緩和しているのだ。まさに心頭滅却すればなんとやら、だ。
腰だめに構えた白銀はいつも以上に煌めいて見えた。瞳を閉じ、次第に呼吸の数を少なくしていく。集中から解放への順序であった。
頭の中に思い描くは『剣凰流』という流派に刻まれた歴戦の技。見敵一刀の大技であり、剣技の繊細な極致。陽の得意な型だ。奥義でありながら最もシンプルで、美しさすらある――抜刀。
そこに乗せるのは魔術。こちらも非常に簡単で分かり易いものだ。詠唱など用いず、ただ感覚の赴くままに周囲の魔力を掻き集め、白銀を媒体に増幅させる。それは、うっすらと滴る水。
得意な物を掛け合わせ、強化するのだ。
「“死地に立つは、炎の巨獣”!!」
自身の全てを燃やし尽くす業火。まさかこの技を使う相手が“二度”も現われようとは、と炎燈は思う。消え行く自我。記憶。その中でも忘れはしないあの死闘。圧倒的なまでの力量さを見せ付けられ、果てには生かされ。それから下に付き、永らく、楽しむ事が出来た。そう、こうして強敵に出会えたのだから。あの負けは黒星ではあるが汚点では無い。今でこそ、そう言える。目的を果たせなかったのは申し訳――否。恩はあったが返す義理が無い。之で良い。それが自分の在り方だ。
故に、燃える。毛の一本、血の一滴までも燃料に。煌々と。包まれていく。朧気な瞳に映ったのは認めざるを得ない強敵の姿。長く尾を引く銀色の閃光。
「奥義ッ……水刃・青龍――――!!」
魔力の高まり、最大限に研ぎ澄まされた神経、限界まで引き上げた筋力を以ってしての全力の抜刀。
踏み締める。石畳は無残にも割れ、陽の尋常ではない力の入り具合を証明。
振り抜く。焼け焦げ、引き裂かれた制服の袖は、勢いに耐え切れず風に攫われ灰になる。
迸る軌跡は銀色と、青みがかった透明な水。当然ただの水ではない。陽と白銀双方の魔力によって編まれた綻ぶ事のない水の刃。それがまるで龍のように模られ、まずは頭上に大穴を。それから。
「Grrr……GOOAAA――!」
まさに持てる全てを、生命そのものを搾り出したかのような絶叫。既に炎燈の中に意思は無かった。ただ敵を屠る二本足の獣として、“炎の巨獣”として立ちはだかる。目、と思しき器官が捉えているのは陽の放った水の龍。手を伸ばす。炎に狂う爪を。
迫る龍。こちらはまるで意識を持っているかのように蛇行、それから狙いを付けて一直線。
直ぐに、衝突。
「くそ……ッ!!」
「大丈夫か!」
その衝撃は凄まじい物だった。只でさえ全力で、力の限りを使った陽。衝突によって生まれた蒸気に吹き飛ばされながら後方へ転がされる。背中には炎の壁が――無かった。どうやら今の衝撃によって部分的に穴が開けられていたらしく、運良くその隙間を掻い潜ったようだ。
「ああ、なんとか……だけど、まだ終わっちゃいない……!」
視界に入るのは炎の巨人が水の龍の頭を押さえ付けている姿。蒸発しては回復、消火されても回復。どちらも一歩も譲らない。当然この龍が出現している間は陽の魔力は消費される。それは恐らく炎燈も。
「GuUUUUU!!!!」
――決着を。
駆ける。残った体力を無視して。
懸ける。この一撃に。自分の腕に。直感に。




