「龍の名を冠する少年」23
(これで、決めるっ……!)
連続した斬撃の中、ふわりと一瞬だけ白銀から手を離した。肉を断つ感触すらもその時だけは手から離れる。この動作は逆手に持ち替える為。すぐ後、白銀の重みが腕に伝わる。
「シッ――『剣凰流』剣技・斬旋ッ!」
逆手から繰り出される、眼下から伸びる銀の閃き。魔力によって増強された筋力と陽に流れる龍族の血が成せる『剣凰流』剣技の強化版。オリジナルでありながら元あった物をほとんど変えていない為、名称の変更は行わなかった。
炎燈の腹から胸を引き裂き、更には後方の社すらも切り裂く。しかし陽の動きはそこで止まる事は無く、まるで独楽のように勢いを増して回転。もう二度、同じ軌跡を辿りながら斬撃を。
噴き出す鮮血。赤黒いドロドロした液体が自分のローブだけでなく相手の身体さえも汚しているのがゆっくりとした景色で見えた。だが、不思議に思う事がある。これはいつもの事なのだが、やはり。やはり。
「グ……ハッ! ハハッ! やはり、痛みなど感じない!」
そう。これだけの致命傷を受けているというのにいつもの如く、自分には何ら一切の痛みが無い。だからこそだ。
「まだ、立てるんだよ! 戦いを、くれよ! もっと争いをぉァ!!」
ふらついた。それも束の間、力強く地面を踏み抜いて倒れる事を拒否。
背中側では建物が崩れる音。粉塵が鼻と目に悪戯を加えようとする。
好機。
「これでも、倒れねえのか……! だけど!」
追撃を加える為、陽も足を踏み込み大上段から斬り掛かる。化け物じみた生命力を見せるこの猿でも顔面に更なる致命傷を与えれば。少しの間でも命を繋げるのなら、情報も聞き出す事が出来るはず。
「キィィァアアアアアァァッ!!」
耳を劈き、更には視界すらも邪魔をする甲高い奇声。陽の動きがほんの少しだけ揺らいだ。その隙を見逃すはずもなく、戦斧を手放し、腕を伸ばした。その先には陽の手首。
「つーかまえたぁ……まだ、終わらないぞ? これからだ……今回はやっても良いってなァ!」
骨を砕かんとばかりの強烈な握力。振り下ろしすらも制止させる程。爪も肉を抉っている。だが掴まれたのは右手首だけ。左手に白銀を移せば、威力は落ちるが牽制は出来る。判断は素早く。
「っせぇよ……!」
利き手ではないがそれでも剣の扱いであれば。
「さあ、飛んじまえよ!」
しかし。気付いた時には浮遊感、宙を舞っていた。真下には自分が破壊してしまった社が。まるで剣山のように突き立っているではないか。投げられたのだ。立っているのもおかしいレベルの相手に。
「陽!」
「わかってる!!」
落下。風が全身を殴る。このままでは陽であっても只では済まない。いかにして着地の方法を作らなくては。
腕を頭上まで掲げた炎燈。今の無理によって先程よりも血液が止め処なく流れ出ている。この状況であっても戦闘は、楽しい。楽しまなくてはならなかった。それが、自分の――
「ふっふふふ……さあどうしてくれるんだ? 龍族ってんだ……こんなんで終わらないよな!?」




