「龍の名を冠する少年」22
どちらからともなく駆け出した。次の瞬間には、交錯する赤と銀が縦横無尽に駆け巡る。戦斧と白銀の刃が激突する度に弾ける火花。
魔術師だと名乗っておきながらもほとんどが肉弾戦。鍔迫り合いを起こす最中に陽の腹に足を掛け、蹴飛ばしながら後方に一回転。よろけ、頭が下がったところに叩き込むは炎の鞭だ。蛇のように蛇行しながら陽目掛けて放たれる魔術。
「くっ……!」
痛みからの復帰がほんの少し遅れた。既に鞭は目の前まで迫っている。白銀を振って払える角度の圏外だ。避けるしかない。瞬時の判断。白銀の重さを活かし、投げ出すようにして右側への回避を試みる。
「ハッハハ! ちょーっと遅かったんじゃないかァ!」
「言われなくても……わかってる……」
嘲笑われた。陽の回避行動自体は間違っていなかった。あのまま直撃して焼け焦げるよりも、最低限のダメージで済んだのだから。
「大丈夫か」
白銀から心配の声が掛けられる。抑揚こそほぼ無かったような物だが、それは意識を炎燈へと集中しているからだ。決して陽の集中力が切れている訳では無く、このような補助を行う事で戦闘時に於ける精神的な負担を軽減しているのである。
「ああ、掠っただけだ。火力はなかなか高いし動きは素早い……厄介だな」
陽の左足、制服のふくらはぎの辺りから裾までが焼け落ち、筋肉質な足にも多少の赤みが見て取れた。しかしそれを庇う素振りも痛がる素振りも見せず、息を吐きながら立ち上がる。
「しかもわかり易い戦闘狂、と……どうする……」
押し切る事は可能だろう。そう思わせる要因が一つだけあったのだ。数度、打ち合っていて気付いた事がある。その秘密は恐らくあの戦斧。あれの“重さ”だ。
「軽い気がするんだよな、あれ」
「うむ。魔術的な装備という訳でも無さそうだ。腕力で補っているのだろう」
「だよな……よし……!」
一見重厚そうに見える戦斧だが、陽と白銀から言わせるとぶつかり合った時の衝撃が薄いのだとか。実戦経験による感触。一番信用に足る情報だ。
「作戦会議は終わったか? 続き、しようぜ」
陽と白銀が話を交わしている最中には一切攻撃する構えを取らない炎燈。だがそれが終わったと見るや否や戦斧をバトンの如く回したり投げたりと忙しなくなる。戦う事に楽しみを得るタイプ。
「待たせたな」
「ああ。長く待った気がするな」
「短気な奴だ……だけど、それも終わる!」
速攻だ。仕掛けるなら誰よりも速く。走りながら近付き、逆袈裟。続け様に横一文字、兜割り、突きと容赦の無い剣戟。付け入る隙を与えない動きだ。
この動きに炎燈は。やはり、口元を吊り上げて笑っている。しかも寸でのところで回避行動に移るというふざけた真似までやっているではないか。目元を刃が抜けようが、多少毛皮を引き裂いて血をぶち撒けていようがお構いなし。時折戦斧で往なす程度だ。
「ふざけやがって!!」
大分押し込んだ。それでもまともな痛手を与えられていない事に腹を立てる陽。だが炎燈の背中側には社が迫っている。勝負を決める時だ。




