「龍の名を冠する少年」18
睡眠とは体だけでなく心の回復も行える生物にとって必要不可欠な行為なのだ。睡眠は人生の三分の一を占めるとまで言われているくらいだ、その行為を欠く方がおかしい話なのである。
故に、この睡眠時間というのはとても正当なもので、不可侵であるべきで、誰かに怒られるなど全く以って理不尽だ。そもそも何故眠ってはいけないのか。眠らせるような授業を行っている方が悪いではないか、と陽は一人思う。
放課後、なんとついに呼び出しを喰らってしまった陽はすっかりオレンジ色に染まってしまった街の中をとぼとぼと歩いていた。確かにまともに授業を聞いた事は一度も無かったが何も課題まで渡す必要は無かったのでは、と理不尽な世の中を呪いたい。
「おかしいよなあ? 俺だけじゃなかったのに……なんでこんな仕打ちを……ん?」
ふと、立ち止まる。そこにあるのはテレビだ。大型で、暇潰しに眺める事もあるが基本的にはコマーシャルをひたすら流しているテレビ。天気予報や渋滞情報も見かける珍しくも何とも無いそれ。いつもの如く通り過ぎてしまおうと思った。しかし、そうはさせない理由があった。周囲のざわめきと、改めて付近に流れる異常なまでに慌しい音。
《ニュース速報:本日16時過ぎ、蓮乃市内にある神社にて原因不明の爆発がありました。付近の住民の皆様は速やかに退避をお願い申し上げます。また、付近への立ち入りは規制されます。迂回路などは現場係員の指示に従って――》
「神社な」
ぽつり、と呟く。流れ行く人々は恐らく家路に就こうとしているはずだ。避難中の人も居るだろう。方向は一緒。しかし陽は。
「微量な魔力……俺が一番近いか」
人波を避けながら家とは反対の方向へ。行く場所は決まっている。当然、今現在ニュースで流れている神社である。近付くなと言われるのだろうが、それらの言葉に耳を貸すつもりはない。無理にでも押し通る。それもそのはず、陽は感じているのだ。この事件に、何かを。
「呼んでるんだろうな。俺を。アイツが……」
赤いローブを身に纏った魔術師らしき男。これは挑戦か、挑発か。どちらにしろ自分が行かねばならないだろう。この街に居る協会側の人間は多数居るが、その長は確か不在だったはず。門下生は許可が出なければ戦闘にはほとんど出られない。勿論自主的に参加している人間も居るには居るが。それでも今回は陽の“仕事”となる。
「待ってろよ……!」
人混みが薄くなってきた。まだ明るいが、力の半分以下でも十分な速度で走れるはず、と脚の筋肉をぎゅっと引き締める。地を蹴り上げる準備だ。あくまでも人間に出せる速度で、周りに迷惑を掛けず、風を切り、駆け抜ける――。
目標は神社。被害が大きくなる前に。




