「龍の名を冠する少年」17
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考えた。考えて、考えて考え抜いた。だがそれでも分からなかった。だったらどうするのかと聞くと、陽はこうするのだ。
「その内わかるだろ……」
考えるのは止める。どうしたって答えが見えないのだから頭を悩ませる必要は無いのだ。それに陽には『協会』という強い後ろ盾がある。自分の諜報能力などゼロに等しいが、あの集団ならばきっと。しかし如何せん頭を使い過ぎた。酷使した事により妙な倦怠感が襲ってきている。
「今日はずっと起きてるね? 調子良いの?」
気付けば既に昼休みではないか。どうやら非常に珍しく午前中の授業で寝ていなかったようだ。授業内容の記憶はないのだが。昨晩からずっと同じ件で一人問答を繰り返していたのである。一体何が起こっているのかと。報告はしたし、後は待つだけだ。自分の出来る事はやるつもりだが。
「調子……良くはないな。急に疲れた」
緊張の糸をようやく切ったらしい。いつものように弁当を支給して貰い、それを丁寧に開ける。相変わらず彩り豊かで、どちらかと言えば野菜が多めに入っている弁当だ。机を移動させている月華を手伝おうとはせず、既に陽は弁当に手を伸ばしていた。
「あと四時間くらいだし、今日は最後まで起きてみようよ!」
「それ無理。昨日寝てないし」
「食べてすぐ寝ると牛になるんだよ?」
「ならない、ならない。寝転がっても体に良いってテレビで見たぞ。痩せるらしいぞ」
龍だし、と適当な理由は心の中で。そして食べた後に寝転がるのは体には良いらしい、というのも事実なのだ。消化に必要な労力を筋肉やらに奪われてしまうとか肝臓の働きを助けるとか何とか。自己を正当化出来そうな情報ならしっかり頭に留めておく陽であった。
「うーん……それは知ってるけど寝るのはダメだと思うの」
陽の場合、摂取カロリーよりも消費カロリーの方が多くなるのが常。故に食後に寝ても然程変わらないのである。
「大丈夫。机の上でごろごろする訳じゃないから」
「そういう事じゃないんだけど……」
「どうせ社会と数学だろ? 別に覚えなくたって生きていけるって。使ってる奴見た事ないからいけるいける」
あくまでも陽の周りの大人たちの事である。社会の裏で活躍する人間にどのような知識が必要なのか。確かに経費の計算などはしなくてはならないが、現代にはそれに対応する文明の利器がある。逸れさえ使えれば問題ない。だから、寝ても良い、との事。
「うぅ自分が正しいと思ってるとこだけは強気なんだから……でもあんまり寝てるとテスト大変だよ? 大丈夫かな?」
「ああそれも大丈夫、諦めてるから。最初からな」
やる事はやる。が、やりたくない事は極力やらない。なかなか我儘ではあるがそれでも陽は赤点以下にはならないようにはしている。赤点さえ回避出来ればそれで十分、という考えだ。
「ごちそうさまでした、と。そんじゃ寝るか」
目一杯頭を使った後はしっかり休息を取らなくては。大半が人の体なのだから。




